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ANAや国内空港、緊急着陸など大規模災害の対策に磨き

3月11日を忘れない

NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞

2011年3月11日の東日本大震災では仙台空港が使用不能になり、羽田空港や成田空港で滑走路の閉鎖、他の空港は着陸機の集中といった混乱が生じた。空の交通網がまひすれば、人流や物流の寸断や空港内の混乱による二次災害も起きかねない。震災の経験や首都直下型地震のリスクを踏まえ、全日本空輸(ANA)など各社はハード・ソフトの両面から備えを磨き直している。

飛行機が着陸できない――。東日本大震災では成田空港がある千葉県成田市で震度6弱、東京23区の多くで同5弱以上の地震を観測した。揺れの大きな地震が発生すると、滑走路など空港施設を緊急点検する必要が生じる。当時は揺れが広範囲に及んだため、羽田・成田の両空港は滑走路が同時に閉鎖する異例の事態となった。

両空港に向かっていた計86機は、北は北海道、南は沖縄まで各地で代替の着陸先を探した。茨城県の航空自衛隊百里基地や都内の米軍横田基地に着陸した航空機もある。

午後3時前の震災発生時は、空の交通量が多い時間帯だ。「あの日は天候も悪くなく、多くの機体が燃料を少なく積んでいた。上空にとどまる飛行機をいかに安全に下ろせるかが問題になった」。運航を管理する羽田空港の「ANAオペレーションマネジメントセンター」で危機管理を担当する増田琢二・リスクマネジメントチームリーダーは当時を振り返る。

一斉着陸のリスクを回避

飛行機は天候が悪いと行き先変更などに備えて燃料を多く積むが、天候がよければ燃料搭載量を抑え機体を軽くする。震災発生後は残りの燃料が少ないにもかかわらず、上空で待機せざるをえない航空機が相次ぐ状況になった。

ANAは当時の経験なども分析し、13年に緊急事態に対応する規定を改めた。首都直下型地震で羽田・成田両空港が使えなくなる事態などを想定し、緊急時は管制機関と連携し、目的地から離れていても安全な最寄りの空港に着陸するよう定めた。

従来は顧客の利便性を考慮し、目的地に近い空港を狙って着陸するのが一般的な考え方だ。だが大災害時は「そうした余裕も無く、便利な空港に各社が一斉に着陸してしまうと空港がオーバーフローする」。

増田さんは日ごろから、大規模災害は必ず発生するという心構えを忘れず、海外の災害例をみる度に日本、あるいは東京で発生した場合、どういう状況になり、どう対応するかなど、シミュレーションを心がけている。

空港外の代替施設で備え

ハード面では、通常のオペレーションマネジメントセンターとレイアウトや機器などを全く同様にしたバックアップ施設を14年から都内近郊に構えている。東日本大震災級の揺れにも耐えられる強度の設計で、「普段と同じ感覚で仕事ができる環境にしている」(同センター業務チームの岩崎倫敦リーダー)。

新型コロナウイルス禍のような非常時でなければ、1カ月に1度は同センターの各チームが代替施設で会議を開き、端末を起動するなどして施設がいつでも稼働できる状態か確認する体制を敷く。

情報共有のデジタル化も、レジリエンス(回復力)の向上につなげる。東日本大震災では、国内に約50カ所ある空港の滑走路やターミナルビルが無事か、安全な運用が続けられるかといった情報を電話やメール、オンラインのチャットなどでかき集めて共有した。現在はクラウド上のデータベースに各空港から同時に書き込めるようにして、点検作業を効率化している。

JALや空港も対策プラン見直し

震災への備えを厚くする動きは業界全体で広がっている。日本航空(JAL)は通常、東京本社が担う運航管理業務を、非常時には大阪・伊丹空港で代行できる体制を敷いている。

さらに首都直下地震を想定して、18年度に従来の震災対策規程を全面的に改定した。詳細は明らかにしていないが、「BCP(事業継続計画)と震災対策規程の役割を整理して、体系化を行った」としている。

国内の各空港では、通常のBCPに「Advanced(先進的な)」と「Airport(空港)」の2つのAを加えた「A2-BCP」の策定が進んでいる。

18年には台風による関西国際空港の浸水、北海道胆振東部地震による新千歳空港の停電など大きな災害が相次いだ。国土交通省の検討委員会が翌19年に、A2-BCPの策定を緊急課題に位置づけた。各機関の役割分担などを明確にした全体計画を定め、復旧対応を迅速に進める狙いだ。主要空港だけでなく、地方空港でも策定する動きが相次いでいる。

ただ、経験のない首都圏の大規模災害に対する備えは手探りで策定していくしかない。「どのタイミングで使用施設を切り替えるか、従業員をどう移動させるかなど、引き続き課題は残っている」(ANAの岩崎さん)。あらゆるシナリオを想定し、大規模災害でも空の交通網を維持していくための模索は、様々な現場で今も続いている。

(松本萌)

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