広がるアップサイクル商品 廃棄食材活用が付加価値に

食品の製造工程で廃棄されていた残さを再活用する「アップサイクル」が食品業界で広がりつつある。パン耳や野菜くずなど、かつては「ごみ」になっていたものが別の食品として生まれ変わっている。年間約600万トンあるとされる国内の食品ロス。アップサイクルは社会問題を解決する一助となるか。
見た目はスタンダードな薄黄色のホワイトビール。口に含むとほんのりと食パンの風味が――。パンの耳が原料として活用されている、アサヒグループホールディングス(GHD)のクラフトビール「蔵前WHITE」だ。醸造所「TOKYO 隅田川ブルーイング」で醸造され、2021年10月下旬の発売以来、12月中旬までに約1100リットル(3400杯分)が直営店9店舗で販売された。
「パンの耳がビールになるなんて考えもしなかったけど、活用してもらえるのがうれしい」。原料の一部となるパン耳を提供している東京・台東のサンドイッチ店「マルセリーノ・モリ」代表の福地和子さんはこう語る。
同店ではサンドイッチを作る際にカットされたパン耳が1日当たり4キロ~5キログラムほど発生していた。かつてはパン粉に利用しようという精肉店などもあったというが、近年では活用することが難しくなり、その扱いに困っていたという。
地産地消の地ビール造り
アサヒGHDは21年7月に地元の喫茶店などで廃棄されていたコーヒー豆を回収し、ビールの原料として再利用した「蔵前BLACK」を発売した。商品として提供できないため廃棄処分となっていたコーヒー豆を原料に使っている。蔵前WHITEも地元で廃棄されていた食品残さの活用の一環として開発された。
原料が全てパン耳やコーヒー豆で代用できるわけではなく、あくまでも原料の一部を代用する。例えば、蔵前BLACKはコーヒーの香味が強いスタウトビールだが、発酵後に抽出したコーヒーを3割ほどブレンドしている。パン耳の割合は全原料の約12%で、いずれも風味付けという意味合いが強い。コーヒー豆は21年12月までに45キログラム、パン耳は60キログラムがビールの醸造に利用されたという。
アサヒGHDはこうした廃棄食品を活用する「アップサイクルビール」の取り組みを全国各地の地ビール造りで生かすことを検討している。「各地のクラフトビール醸造所でもアップサイクル分野での地産地消を広げたい」。国内でアップサイクルの取り組みを進めるアサヒユウアスの古原徹氏はこう語る。
アップサイクルフードに新市場の芽を見いだし、商品展開を推し進めているのは生鮮宅配のオイシックス・ラ・大地だ。同社は21年7月に新ブランド「アップサイクル・バイ・オイシックス」を立ち上げた。同社の取り組みがアサヒGHDと異なるのは、自社商品の製造過程で廃棄されていたものに付加価値を加えて、新たに商品化している点だ。
代表的な商品は2種類の野菜くずを使ったスナック菓子。冷凍ブロッコリーの製造過程で残さとなっていた茎の部分を利用した「ここも食べられるチップス ブロッコリーの茎」(税込み430円)や、ダイコンの漬物を作る過程で廃棄されていた皮の部分を使ったチップス(同)だ。これらを含む6種類の商品で、22年1月初旬までの約6カ月間で15トンものフードロス削減を達成した。
野菜チップスはブロッコリー、ダイコン、ナスのへたを再利用したものの3種類があり、味付けや風味もそれぞれ異なる。ダイコンの皮チップスはダイコンの風味が強く感じられるうすしお味、ブロッコリーの茎はポテトスティックのような形状でほんのりと甘い。ナスのへたは黒糖風味でかりんとうに似た味わいだ。

梅酒醸造後の梅の実も活用
一般的な小売企業におけるフードロス率が5~10%とされる中で、オイシックスでは同0.2%とかなり低いが、野菜くずのフードロスは少なくない。例えば、ブロッコリーは廃棄されていた茎の部分が質量の25%にもあたるが、活用法が無かったために処分されていた。オイシックスによれば、同社向けの野菜を加工している群馬県内の工場では月当たり最大約1.5トンのブロッコリーの茎、約4トンのダイコンの皮が廃棄されていたという。
他社との協業で生まれた商品もあり、例えば大手酒造会社からは梅酒の醸造に使用された後の梅の実を回収し、ドライフルーツとした商品(同538円)を販売。22年1月には豆腐を作る過程で生まれる「おから」をメーカーから仕入れ、再利用したパンケーキミックスも発売している。
梅の実やおからは家畜の飼料などに再利用されるケースもあったが、大部分は廃棄処分となっていたという。オイシックスはこうした他業種で生まれた食品残さを再利用するための協業なども検討。同社はこうしたアップサイクルブランドの商品展開などを通じ、24年までにフードロスの年間500トン削減、アップサイクル商品の売上高20億円を目指す。

現行のアップサイクル商品はいずれも、既存商品よりも価格が高くなる傾向にある。だが、アップサイクルの野菜チップスは7月の発売時は1週間で売り切れるなど販売好調。「廃棄した方がコスト的には安いケースもあるので、高付加価値でなければ事業として成り立たない。まずは市場の構築に努めたい」。オイシックス新規事業開発準備室の東海林園子氏はこう語る。
余った食材を食品以外に再利用する取り組みもある。ハウス食品は規格に満たないとして廃棄されていたシナモンやローリエ、ターメリックといった香辛料をクレヨンの原料とする取り組みを20年に始めた。規格外で廃棄されていた野菜や果物を使った「おやさいクレヨン」を企画・販売するデザイン会社mizuiro(青森市)と共同で開発した。

スパイス10種類から生まれた「彩るスパイス時間CRAYONS」は、米ぬかから採れたライスワックスをベースにスパイスを混ぜ込んで作られている。そのため香味の強いスパイス、例えばシナモンなどはクレヨンからほのかに原料となったスパイスの香りも感じられる。
20年2月にクラウドファンディングサイト「Makuake(マクアケ)」で販売を始めたところ、目標の20倍となる400万円以上が集まった。21年8月からはmizuiroが運営する電子商取引(EC)サイトでも一般販売されている。
日本酒風味のエシカル・ジン
廃棄物を再利用することで高付加価値商品として売り出す取り組みも目立ち始めた。蒸留酒開発スタートアップのエシカル・スピリッツ(東京・台東)は、全国の酒蔵で廃棄される酒かすなどを原料にジンの生産を行っている。
ジンはスピリッツにジュニパーベリーというスパイスなど植物を香料としたアルコール度数の高い酒だ。廃棄されていた食品を香味付けに活用する。例えば、酒かすを原材料にすれば日本酒の風味が生まれる。チョコレート作りで廃棄されていたカカオの皮や生産の過程で間引かれたスダチ、ミョウガの茎などこれまでに数十種類が原材料として利用されている。
山本祐也最高経営責任者(CEO)は「本来は活用の可能性があるのに、捨てられているもので、香りがあれば何でもボタニカルの対象になりうる。原材料の幅は広い」と語る。


同社の設立は20年2月。山本氏は酒販店などを運営する日本酒ベンチャーの代表も務めており「酒かすは一部が化粧品や奈良漬製造のために使われるくらいで大部分が廃棄されている。酒かすを使ったジンは課題解決の一環」(山本氏)。
同社のジン「LAST EPISODE 0 -ELEGANT-」は世界的な品評会で受賞するなど評価も高い。21年は20年と比べ商品の売上本数が6倍以上伸びたという。「24年に売上高100億円と海外売上高比率7割以上が目標。欧州にも販路がある」と山本氏は語る。
農林水産省によると18年度の国内の食品ロスの量は600万トン。消費者や企業の意識の高まりもあって食品ロスは減少傾向にある。アップサイクルを巡っては、米国で19年にアップサイクル食品協会(UFA)が設立されるなど海外が先行する。
一般的な商品に比べて価格が高めであるなど、乗り越えるべき課題は多いものの、アップサイクルは食品ロス削減の新たな一手として可能性を秘めている。
(日経ビジネス 神田啓晴)
[日経ビジネス 2022年1月24日号の記事を再構成]
関連リンク

企業経営・経済・社会の「今」を深掘りし、時代の一歩先を見通す「日経ビジネス電子版」より、厳選記事をピックアップしてお届けする。月曜日から金曜日まで平日の毎日配信。