ソニーG、2足歩行ロボに託す未来 ゲームの次を模索 - 日本経済新聞
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ソニーG、2足歩行ロボに託す未来 ゲームの次を模索

仮想空間のゲームを手掛ける米Sony Interactive Entertainment(ソニー・インタラクティブエンタテインメント、SIE)が、現実空間のエンターテインメント分野に参入しようとしている。手始めとなるのが小型ロボットだ。機敏な動きを武器に、次世代のエンタメを創出する。

SIEは、ソニーグループ(ソニーG)の子会社でゲーム事業を担う。ゲームは一大産業となり、ソニーGにおいてSIEとゲーム事業は屋台骨といえる存在に成長した。そのSIEがなぜ、現実空間のロボットに手を伸ばそうとしているのか。実は、ゲーム事業が苦境を迎えていることが背景にある。

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ゲーム事業は、新型コロナウイルス禍における「巣ごもり需要」もあって2021年まで絶好調だった。だが、2022年になって巣ごもり需要が一服すると徐々に失速の兆しが出てきた。それは、直近の業績からもうかがえる。ソニーGの「ゲーム&ネットワークサービス(G&NS)」分野の業績は、同年7~9月期の売上高こそ前年同期比11.7%増の7207億円だったが、為替影響が+939億円と増収要因の大部分を占めていた。一方で、営業利益は同49.1%減の421億円と大幅に落ち込んだ。ゲームソフト開発コストの増加や、ゲームソフト販売の減少を要因として挙げている。

SIEは、前世代の据え置き型ゲーム機「プレイステーション(PS)4」で一人勝ちの状況だった。しかし、現行世代のPS5では半導体不足で計画通りに出荷できていないこともあり、存在感が低下している。同社の社員からは「ゲーム事業は今後厳しい状況になる」との声も上がる。

そもそも、ゲーム市場は数年前からモバイル向けが主流で、従来型のゲーム専用機向けは水をあけられている。オランダの調査会社Newzoo(ニューズー)が2022年11月に発表した同年のゲーム市場予測によると、市場全体の規模は1844億ドル(約26兆円)になる見込み。このうちモバイル向け市場は922億ドル(約13兆円)と全体の半分を占めており、ゲーム専用機向け市場は518億ドル(約7兆3000億円)にとどまる。巣ごもり需要の反動で、モバイル向けは前年比6.4%減、ゲーム専用機向けは同4.2%減と落ち込みが予想されている。

一方、パソコン向けゲームは同0.5%増の405億ドル(約5兆7000億円)とわずかながら増加し、逆風に負けない勢いがある。最近では、ゲーム専用機が不要なクラウドゲームが台頭しつつあるなど、SIEが手掛けているゲーム専用機を前提としたゲーム事業の置かれた状況は厳しさを増している。

SIEも、モバイル向けやPC向け、クラウドゲームへの手を打っている。それとは別に、ゲーム以外で新しいエンタメの可能性を模索している。その一つが、現実空間のエンタメである。特に、ロボットやその頭脳である人工知能(AI)に活路を見いだそうとしている。

驚くほど機敏な2足歩行ロボ

仮想空間から物理空間への進出という重大な任務を担うのは、SIEが開発した小型2足歩行ロボット「EVAL-03」である。高さは約30センチメートル、重さは約1.6キログラム。最大の特徴は、驚くほど機敏に動作することである。人の動きをカメラで認識し、その動きを即座に再現できる。人が腕をぐるぐる回したり、片足で立ったりすると、ロボットも同じように動く。26個のジョイント(関節)を駆使して、さまざまな動きに対応する。

こうした動きを可能にしたのが、低遅延なSIEのロボット技術と、高速な動きの検知に向くソニーセミコンダクタソリューションズ(SSS)の新型イメージセンサー「EVS(Event Vision Sensor)」である。従来型のイメージセンサーの場合、一定のタイミングで撮影する。一方EVSでは被写体の動きや周囲の環境変化といった変化(イベント)に応じて、1画素ごとが独立して動作する。この動作原理によってEVSは従来型に比べて「ダイナミックレンジが広い」「センシング速度が高い」「遅延時間が短い」「消費電力が小さい」といった特徴を備える。

主にEVSで人の動きを捉えてから、その姿勢をごく短時間で推定。それを基にして、ロボットに向けて3次元(3D)の姿勢の指示を出すとロボットがその姿勢を取る。人の動きを検知してからロボットの動きに反映するまでのトータルの時間(遅延)は数十ms(ミリ秒)と、まばたきよりも短い。このうち、3Dの姿勢の指示を出してからロボットがその姿勢を取るまでの時間はわずか30msほどだ。

EVAL-03に携わるのは、かつてPS向けテレビ番組視聴・録画アプリ「torne(トルネ)」を開発していた社員や、2足歩行ロボット「QRIO(キュリオ)」を開発していた社員らである。トルネは、一般のテレビに比べてユーザーインターフェース(UI)が非常にスムーズに動くことからヒットした製品である。EVAL-03の機敏な動作は「トルネのサクサクした動作に通じるものがある」(EVAL-03に関わる社員)と語る。

SIEはEVAL-03を、まず日本科学未来館で2022年3~8月に開催されたイベント「きみとロボット ニンゲンッテ、ナンダ?」で展示。その後、2022年10月に開催されたロボティクス分野の著名な国際学会「IROS 2022」で動作を実演したところ、ロボティクス分野の専門家から高い評価を得た。

手ごたえを感じたSIEだが、実用化や事業化の本格的な検討はこれからである。まず、低コスト化やキラーアプリの探索などを進める。現時点では詳細を明かさなかったが、ゲーム企業らしく、機敏な動きを生かしたさまざまなエンターテインメントを検討しているようだ。例えば、ドラムをたたいたり、2体でボクシングしたりすることを想定する。体を動かし、現実のロボットを操作することで、これまでのゲームとはひと味違うエンタメの実現を目指す。

(NIKKEI Tech Foresight/日経クロステック 根津禎)

この記事はNIKKEI Tech Foresightで11月24日に公開した会員限定のコンテンツです。今後も皆様に役立つ情報を発信していきます。NIKKEI Tech ForesightのサイトのURLはこちらです(https://www.nikkei.com/prime/tech-foresight)。25日には「次世代ディスプレーに『量子ドット』、シャープ復権も」をNIKKEI Tech Foresightの会員限定記事として公開しました。

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