お笑い芸人の新主役は? オダウエダ・ランジャタイ…
ヒットの震源地が大きく変わった昨今のエンタテインメント界。芸人で注目されるのは、大学お笑い出身者と賞レースで爪痕を残した非吉本勢、そしてベテランの再ブレイクだ。
存在感増す大学お笑い出身者、基礎があり即戦力に

近年、大学お笑いサークル出身者が、お笑いの賞レースで好成績を残す例が増えた。『M‐1グランプリ』では、2019年のミルクボーイ、20年のマヂカルラブリー・村上、『キングオブコント』では、18年のハナコ・岡部大、21年の空気階段・鈴木もぐらが大学お笑いの出身者として知られている。
賞レース以外では、ラランドもその一員だ。ラランドは、サーヤが大学卒業後に就職しつつ、二足のわらじで芸人を続けているうちにブレイク。そのまま個人事務所を立ち上げるほどになった。
21年には『アメトーーク!』(テレビ朝日系)で「大学お笑いサークル芸人」も放送された。この回に出演した大阪芸術大学出身のミルクボーイ・内海崇によると、大学お笑いは養成所と違い、ライバル同士というよりも仲間意識が強く、互いのネタにアドバイスを送り合うのが特徴だという。
ハナコ・岡部と同じ早稲田大学『お笑い工房LUDO』出身のひょっこりはんは、ニューヨークのYouTubeチャンネルで元学生芸人の特集が組まれた際、「僕がサークルにいたころは10人くらいしかいなかった。今は100人以上いる」と、近年の盛り上がりを説明。サークルで力をつけてから各事務所の養成所に入り、デビューしてすぐに頭角を現す人もいる。
数多くのお笑いライブを開催している「K-PRO」の児島気奈氏によると、直近では「サークル内にピラミッドのシステムができていて、ネタ見せで落ちたらサークルのライブに出られないという厳しいところも出てきた。そんな精鋭たちがプロになるから、同じ1年目でも即戦力になる」。
オダウエダ、真空ジェシカ、令和ロマンなど、ネクストブレイク候補も続々。大学お笑い出身者の勢力図はますます広がりそうだ。
21年12月に女芸人No.1決定戦『THE W』で優勝。植田が、ミルクボーイやななまがりと同じ大阪芸術大学の落研出身。奇抜なメニューの焼き鳥屋、カニのストーカーなど、ナンセンスな設定やぶっ飛んだキャラクターのコントが得意。
賞レースで注目"非吉本"勢、新設劇場&ライブ増加で場数踏む
21年12月の『M‐1』で敗者復活を除く決勝進出者9組が発表された際、吉本興業所属以外の芸人が過去最多の4組だったことが話題になった。その4組とは、優勝した錦鯉のほか、初進出組のモグライダー、真空ジェシカ、ランジャタイ。決勝に4組もの"非吉本"芸人が残ったのは、15年大会以来6年ぶりだったこともあり、「吉本VS非吉本」の構図にも関心が集まった。

吉本芸人の強みは、そもそも所属芸人の絶対数が多いことに加えて、常設の劇場を多数持つため、他の事務所に比べて圧倒的に「場数」が違うところにある。また、同じ釜の飯を食う者同士ならではの、息の合った掛け合いができるのも特徴の1つ。特に団体芸が求められるようなバラエティではその力をいかんなく発揮している。
ところが近年、吉本芸人のアドバンテージともいえる「場数」は、非吉本主催のお笑いライブの増加とともに、脅威ではなくなりつつある。代表的な例として、お笑いライブを手掛ける「K-PRO」は、ほぼ毎日のペースで様々なライブを主催。事務所の垣根を越えた企画ライブで多くのお笑いファンを集客し、21年4月には常設の劇場「西新宿ナルゲキ」をオープンさせるなど、東京のライブシーンを盛り上げている。
21年の『M-1』の非吉本4組はK-PROライブの常連であり、ここで力をつけてきたことは知られるところだ。他にも、『M-1』準決勝進出のキュウをはじめ、ストレッチーズ、ゼンモンキー、ガクヅケなど、「場数」で吉本芸人に引けを取らない芸人は多数存在する。K-PRO以外にも企画力に長けたイベント会社主催のライブは増えており、そうしたライブシーンから飛躍を遂げる非吉本芸人は今後も続きそうだ。
グレープカンパニー所属。国崎が支離滅裂な言動を繰り返し、伊藤が呆れながらも寄り添うように話についていくナンセンスな漫才が特徴。マヂカルラブリーの野田クリスタルらが以前から高く評価していたことでも知られる。
ベテランの再ブレイク、番組出演をきっかけに再浮上
各局でコア層(13歳~49歳)をターゲットにするようになり、ここ1、2年で"若返り"が進んできたテレビ界。この動きから、お笑い系の番組が多数制作されるようになった。
情報バラエティ中心だった時代に比べて、芸人の活躍の場も劇的に増加。その結果、すでに名が知られるベテラン勢に改めてスポットが当たるケースが多数見られる。
代表例は『有吉の壁』(日本テレビ系)だ。タイムマシーン3号は、2000年代半ばに『爆笑オンエアバトル』で活躍した、芸歴21年のいぶし銀だが、『有吉の壁』にほぼレギュラーで出演。ロケコントでも完成度の高いネタの数々を生み出している。同番組ではとにかく明るい安村も象徴的な存在。
コントも漫才もシュールなネタで知られる天竺鼠だが、『アメトーーク!』(テレビ朝日系)で激辛ラーメンを根性で完食してから、瀬下豊が頻繁にバラエティに呼ばれるように。過酷な企画でピンチが訪れると、「チャーンス!」と叫んで体を張り、笑いを巻き起こしている。『アイ・アム・冒険少年』(TBS系)ではセシタマンとして、無人島の新企画がスタートした。

いとこ同士ならではの息の合った漫才が代名詞のなすなかにしも芸歴20年。このクラスになるとロケ経験も豊富で、様々な番組からリポートの腕を求められている。
『千鳥のクセがスゴいネタGP』(フジテレビ系)も、中堅の再ブレイクを量産中。21年12月には、ロバートの秋山とのコラボコントで、11年に『R-1ぐらんぷり』で優勝した佐久間一行が登場した。同番組では日谷ヒロノリという常連シンガーが人気。佐久間とは別人(?)だが、「佐久間一行チャンネル」では日谷の動画が更新されている。
いとこ同士ならではの、息のぴったり合った漫才が特徴。ロケ技術の信頼も厚く、21年はロケ本数約170本。特番『笑神様は真夜中に…』(日本テレビ系)では、内村光良に「匠の技」と評された。中西考案のゲームは100本以上。22年春に新作発売予定。
(ライター 遠藤敏文、内藤悦子)
[日経エンタテインメント! 2022年2月号の記事を再構成]
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