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「逃げ地図」で情報共有促す 地域住民が避難ルート作成

3月11日を忘れない

NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞

東日本大震災から11年の間に、防災として被災時の避難のあり方にも改めて注目が集まる。震災を機に日建設計ボランティア部の有志は宮城県気仙沼市を対象として、地域住民がともに避難ルートなどを検討するツール「逃げ地図」の作成手法を考案した。

これまで東日本大震災の被災地や南海トラフ地震の防災対策を進める地域を含め、少なくとも21都道府県45市町村でワークショップが開催されているとする。

元は避難時間の短縮検討

逃げ地図の考案当初は復興まちづくりの計画を念頭においた、避難時間の短縮効果を検討するツールの位置づけだった。

その後、2012年に明治大学の山本俊哉研究室と千葉大学木下勇研究室が、逃げ地図づくりのプロジェクトチームを結成。手法の改良やマニュアルなどの研究開発と社会実装を進めた。

逃げ地図づくりはワークショップ形式で、地域住民が集まり話し合いながら被災時の避難ルートを検討していく。津波のみならず地震、豪雨による水害など、災害の種類は問わない。道具は白地図と色鉛筆12色、徒歩3分の移動距離を測る物差し代わりの革ひもがあればいい。

作業は簡単だ。まずハザードマップなどを参考に、白地図上に避難目標地点を設定する。次に避難の際に危険が生じる可能性の高い避難障害地点を設定する。

その後、避難目標地点から道路に沿って革ひもをあて、避難障害地点を避けつつ緑、黄緑、黄色の順に避難開始地点まで色を塗り分けていく。最後に避難方向を示す矢印と、気づいた点を書いた付箋を該当箇所に貼って意見交換する。

危険に関する情報共有

逃げ地図づくりの目的のひとつはリスクコミュニケーション(危険に関する情報共有)だ。「一緒に作業を進める中で『色塗りがうまいね』といった何気ない一言から会話が弾み、本音を言い合えるようになる」と山本教授は話す。

世代間などの交流を促し、これまで見えづらかった課題を掘り起こして話し合える。逃げ地図づくりのマニュアルはウェブサイトなどで無料で閲覧できる。

東京都新宿区の戸塚地区では21年12月、戸塚協働復興活動研究会、早稲田大学 都市・地域研究所などとともに、ワークショップを開いた。

「研究会を立ち上げた10年前と比べて住民の高齢化が進んだうえ、気候が変化し豪雨災害が激甚化している。避難方法の検討には地域に住む当事者が自分ごととして関わるべきだ」(早大・佐藤滋名誉教授)。そこで採用されたのが逃げ地図づくりだ。

阻害要因の議論も大切

戸塚地区は木造住宅が密集するうえ、1級河川・神田川の流域のため、逃げ地図のテーマは地震火災と水害の2つとした。双方から共通して見えたのは、避難目標地点と避難ルート上の阻害要因に関する議論の大切さだ。

これによって、避難目標地点までの到達時間や到達度が大きく変わる。高低差が激しい地域でもあるため、参加者らからは「高齢者の歩行速度を考えると、新たな一時避難所を行政に提案すべきだ」との意見も出た。

松山市を拠点に女性の視点から防災を考える任意団体「女性と防災の会」では、保育園児を対象とした逃げ地図づくりの支援を進める。保育園に協力を仰いで課題を探ると、在園時だけでなく園児が散歩中の避難についても検討の重要性が浮かび上がった。

その地図をもとに、被災時の帰園が困難と思われる地域で、散歩ルートの近くにある民間企業などに着目。園児らの緊急時の避難場所として、協力を要請するなどの検討も見られた。

活躍の場を広げる逃げ地図だが、課題もある。逃げ地図を通しての想定ルートには限りがある。そのため、当事者の臨機応変な現場判断も重要になる。

(ジャーナリスト 介川亜紀)

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