アマゾンからの「解放」
SmartTimes ネットイヤーグループ取締役チーフエバンジェリスト 石黒不二代氏
魅力的なデジタルチャネルであるはずだった電子商取引(EC)は実はこれまで大企業の独壇場だった。マーケティングの観点からはブランドがある企業だけが勝つ構造だった。ブランドを作るためには法外なマーケティング費用が必要だからだ。だから、中小企業は独自のECを持たず、アマゾンの中でどれだけプレゼンスがあげられるかに躍起になった。

しかし、環境は一変する。コロナ禍でEC需要が高まった中小企業の相次いぐ参入を可能にしたのは使いやすさや安価な価格で提供されるSaaSが登場したことにある。その代表格がショッピファイだ。一から作る開発と比べて圧倒的に安い。しかもセキュリティーが優れている。グローバルを相手にするECであっても、D2Cであっても、本業の売りに専念できる。
かつて米グーグルがヤフーを凌駕したようなものだ。大きなメディアの中で選ばれるより、ネット全体から検索できる方法が開発された。ECで言えば、アマゾン頼りからの解放、それがショッピファイだ。
にもかかわらずショッピファイはECの基本機能しか提供していない。堅固なセキュリティーや決済機能などに特化したマルチチャネルコマースプラットフォームの使い方はアイフォンに似ている。アップルは基本ソフト(OS)を提供する。ユーザーにとって、なぜアイフォンが革命的だったのか。それは数え切れないほどのサードパーティの事業者がiOSの上にアプリケーションを提供しているからだ。
ショッピファイで提供されているアプリの数はグローバルですでに7000にも達している。特筆すべきは、グーグルやティックトックなどのジャイアントプラットフォーマーがショッピファイのプラットフォームのアプリ提供者となり始めるという逆転現象が起きていることだ。
店舗側にどんなアプリがあるかを知らせるメディアである「slashapp.net」なども登場した。これは、いわばアップルストアのように容易にアプリを検索、取得できるメディアで、そこに行けば、世界中のアプリやローカル対応のアプリがわかる。
つまり、ショッピファイはサービスを提供するというよりもエコシステムを構築し、コミュニティー作りに専念していると言っていいだろう。かつて外資系のソフトウエアベンダーはまずは米国、次にそのローカライズ、自社の利益を独占するために開発費と人件費を惜しまなかった。
しかし、ショッピファイにはローカルな営業パートナーがいて、それは同時に店舗の開発パートナーでもあり、アプリ開発者でもある。彼らと組んで利益を分け合い、そのエコシステムが中小企業の輝く世界を作る。ECが登場して25年、やっと当初の想いが実現されつつある。
[日経産業新聞2022年2月4日付]
