デリバリーサービスの進化
新風シリコンバレー WiLパートナー 小松原威氏
コロナ禍でニューノーマルになったことの一つが、オンライン注文のデリバリーサービスだ。リアルの買い物や外食といった顧客体験は大きく変わり、自宅にいながら買い物やお店の味を楽しめるようになった。

そんなデリバリーサービスの中でも、注目されている領域が「ダークストア」や「ゴーストキッチン」だ。リアルな店内での買い物や飲食機能を持たず、オンライン注文のデリバリーに特化された新業態。少し不穏な言葉がつけられているのは、リアルな顧客の目には触れず、海外では正式に住所が公開されていないことが多いからだ。
ダークストアは、主に食品や日用品などスーパーと同様の商品を取り扱うデリバリー専用店舗であり、クイックコマース(Qコマース)と呼ばれる30分以内の配達を目指すことが多い。海外のスタートアップではソフトバンクビジョンファンドが出資したことで話題にもなった米Gopuffの時価総額が150億ドルに達した。日本国内では日本初のダークストア専業スタートアップであるOniGoが、昨年1号店を都内にオープンし、10分以内の配達サービスを提供している。
ゴーストキッチンは、客席を持たずに厨房機能だけでデリバリー対応する飲食業だ。Uberの創業者で前CEOだったトラビス・カラニック氏は自己資金3億ドルを投じてCloudKitchens社を立ち上げた。さながらWeworkのキッチン版のように、デリバリー専用の共同キッチンを貸し出すことで、シェフがゴーストキッチンをすぐに使える手助けをする。
ゴーストキッチンのような業態が拡大する一方で、様々なフードデリバリーサービスが乱立し、店側のオペレーションの煩雑さが増すことは大きな課題だ。これを解消するために、2018年にベルギーで創業されたスタートアップがDeliverectだ。Uber EatsやDoordashなど、店側では形式の違う複数のデリバリーサービスに対応するために、何台ものタブレットを設置。店の注文はカオス状態になり、注文ミスや配達の遅れが多発してしまう。Deliverectは全てのデリバリーの注文を一つのアプリや既存のPoSシステムに統合することで、店側のオペレーションをシンプルにする。これにより注文ミスや配達の遅れを防ぎ、店側の売上を伸ばし、何よりお客様に出来たての料理を届ける事ができる。創業して3年だが従業員は250人を超え、昨年は65百万ドルの資金調達を実施し、ビジネスを急拡大させている。
コロナによりダークストアやゴーストレストランのような新たなサービスを提供する業態が急拡大し、その中で生まれる課題をみつけてDeliverectのようなスタートアップが成長していく。新たな業態が生まれ続けていくが、リアルでもオンラインでも生き残るのは、いかによりよい顧客体験を提供できるかにかかっている。
[日経産業新聞2022年2月1日付]
