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米仮想通貨コインベース、Web3インフラに多額投資

CBINSIGHTS
米暗号資産(仮想通貨)業界の最大手、コインベース・グローバルがスタートアップへの投資に積極的だ。2021年4月の上場以降、仮想通貨市況が低迷するなか100社以上に出資しており、仮想通貨交換所の海外展開や次世代型インターネット「Web3(ウェブ3)」での事業につなげる。なかでもウェブ3では、異なるブロックチェーン(分散型台帳)基盤を相互利用できる技術などインフラの整備に力を入れており、多額の資金を投じている。
日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。

コインベース・グローバルは21年4月に上場した。それ以降、数社を買収し、コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)のコインベース・ベンチャーズを通じて100社以上のスタートアップに出資し、数十社と戦略的提携を結んでいる。

仮想通貨の市況低迷を受け、コインベースの株価は大きく下がり、採用ペースを落とすなどのコスト削減策を講じている。もっとも、21年の投資活動は同社が世界での事業拡大と、ブロックチェーンを基盤とした分散型インターネット「ウェブ3」の成長加速の2つを長期目標に掲げていることを示している。

CBインサイツのデータに基づき、コインベースの最近の買収、出資、提携から5つの重要戦略を抜き出した。この5つの重要戦略が、世界での事業拡大とウェブ3という長期目標にどう合致しているかについて調べる。

・仮想通貨の交換所とウォレット(電子財布)

・分散型金融(DeFi)

・機関投資家向け事業

・非代替性トークン(NFT)、ゲーム、メタバース(仮想空間)

・ウェブ3のインフラと開発

仮想通貨の交換所とウォレット

コインベースは主力事業である仮想通貨の交換所とウォレットの外部成長戦略として、世界への事業拡大を重視している。

21年11月には、世界約170カ国・地域に800万人以上の顧客を持つスイスの仮想通貨ウォレットBRDを買収した。最近では、トルコの仮想通貨交換会社Btcテュルク(BtcTurk)と買収に向けて交渉中だとも報じられた。Btcテュルクはトルコ初の仮想通貨交換プラットフォームとうたっている。さらに、コインベースはブラジルのブロックチェーン企業2TMと、傘下の中南米最大の仮想通貨交換会社メルカド・ビットコイン(Mercado Bitcoin)の2社との買収交渉を打ち切ったとされる。だが買収を真剣に検討していた事実は、コインベースが中南米地域を重視していることを示している。

コインベースは世界展開の手段としてCVCも活用している。コインベース・ベンチャーズは21年7月、法定通貨から仮想通貨へのスポット交換で世界シェア3位(トップはコインベース)のライバル、FTXの資金調達ラウンド(調達額10億ドル)に参加した。

新興市場では、コインベース・ベンチャーズは国や地域に特化した仮想通貨交換会社に相次ぎ出資している。インドのコインDCX(CoinDCX)やコインスイッチクーバー(CoinSwitch Kuber)、アフリカのバラー(VALR、南アフリカ)やマラ(Mara、ケニア)、インドネシアのピントゥ(Pintu)などが主な例だ。こうした出資は地場企業が仮想通貨を使っている住民にアピールするという賭けであり、コインベースの交換所をインドなどさらに多くの国・地域に拡大する野心を補う狙いがある。

一方、提携も世界展開を後押ししている。21年8月には三菱UFJ銀行と提携し、同行の預金者が即時入金できるようにした。22年2月には、仏レジャー(Ledger)の秘密鍵を保管する専用装置「ハードウエアウォレット」に対応した。レジャーは約200カ国・地域で約400万人に使われている。

DeFi

分散型金融は利用者やベンチャーキャピタル(VC)の間で大きく弾みがついているウェブ3の初期の用途の一つだ。コインベース・ベンチャーズは21年9月、分散型取引所(DEX)を運営する米オルカ(Orca)と米ポータル(Portal)それぞれのシリーズAに参加した。分散型取引所では中央集権型と同じように仮想通貨を取引できるが、取引はスマートコントラクト(自動で契約が履行されるブロックチェーンの仕組み)によって処理される。

スマートコントラクトにより自動で実行される個人間融資「分散型融資」も、コインベース・ベンチャーズが注目している分野だ。同社は22年に入り、分散型融資のスタートアップ、米パラレル・ファイナンス(Parallel Finance)、米ゴールドフィンチ(Goldfinch)、イタリアのフォークス・ファイナンス(Folks Finance)の初期の資金調達ラウンドに参加している。

コインベース・ベンチャーズは21年11月、米コンセンシス(ConsenSys)のシリーズC(2億ドル)にも加わった。コンセンシスはウェブ3や企業向けのブロックチェーン開発ツールを手掛け、最も使われている仮想通貨ウォレット「メタマスク(MetaMask)」も開発している。コインベース・ベンチャーズは最近、別の仮想通貨ウォレット、シンガポールのディバンク(DeBank)と米リクオリティー(Liquality)にも出資している。

機関投資家向け事業

コインベースは戦略投資やVC投資を活用し、世界各地で機関投資家向け事業のプレゼンスを高めている。こうした事業には機関投資家向けの仮想通貨の取引、資産管理(カストディー)、資産運用などが含まれる。

米国では、投資運用ソフトを開発するエンフュージョン(Enfusion) や資産運用会社ワンリバー・アセット・マネジメント(One River Asset Management)と提携し、両社のクライアントに機関投資家向け仮想通貨サービスを提供している。コインベース・ベンチャーズもワンリバーのシリーズA(4100万ドル)に参加し、21年には別の仮想通貨運用会社、米ビットワイズ・アセット・マネジメント(Bitwise Asset Management)に出資した。ビットワイズは仮想通貨の上場投資信託(ETF)や適格投資家向けインデックスファンドを手掛ける。

コインベース・ベンチャーズはここ1年、世界展開を見据えてアジアの機関投資家向け分野で活発に動いている。仮想通貨の運用を手掛ける日本のハイパーリズム(HYPERRITHM)や、機関投資家向けに仮想通貨の取引、金利収入を得られる商品、融資を提供する香港のアンバーグループ(Amber Group)への出資が主な例だ。コインベースはデジタル資産運用を手掛ける香港IDEGのオフショア資産運用会社IDEGアセット・マネジメントと提携し、仮想通貨「イーサリアム」の価格を基準とするアクティブファンドを組成した。

米国とアジア以外では、コインベース・ベンチャーズは機関投資家向けサービスを提供するブラジルのハッシュデックス(Hashdex)、フィンランドのテッセラクト(Tesseract)、カナダのテトラトラスト(Tetra Trust)に出資している。

NFT、ゲーム、メタバース

NFT、分散型ゲーム、分散型の仮想空間(「メタバース」と呼ばれることが多い)も現時点でのウェブ3 の主な用途だ。このため、コインベースはこの分野を成長戦略の重要な要素と位置付けており、最近NFT取引所を開設した。

コインベースは分散型取引所の米ゼロエックスラボ(0x Labs)と提携し、NFT取引所でゼロエックスの取引プロトコルを採用している。さらに、米マスターカードと組んでカード利用者がコインベースのプラットフォームでNFTを簡単に購入できるようにしている。この提携によりNFT購入時の法定通貨から仮想通貨への交換プロセスが簡素化され、顧客にスムーズな取引体験をもたらしている。NFTではさらに、米ユガラボ(Yuga Labs)が手掛けるNFTコレクション「Bored Ape Yacht Club(BAYC、退屈な類人猿ヨットクラブ)」をベースにしたアニメ映画の製作でも提携している。

コインベース・ベンチャーズは最近、NFT分野のユニコーン(企業価値が10億ドル以上の未上場企業)に出資した。1社は香港のアニモカブランズ(Animoca Brands、企業価値50億ドル)だ。同社は投資会社で、ブロックチェーンゲームの開発も手掛けており、仮想世界「ザ・サンドボックス(The Sandbox)」を生み出した。もう1社はデジタルアバター(分身)の生成やNFT取引所の米ジーニーズ(Genies、10億ドル)だ。さらに、最近では米ロイヤル(Royal、音楽)、米フラクタル(Fractal、ゲームアイテム)、米メーカーズプレース(MakersPlace、アート)、米ゾラ(Zora、メディア)などのNFT取引所にも出資している。

ウェブ3のインフラと開発

コインベース・ベンチャーズはウェブ3のインフラや開発プラットフォームに多額の資金を投じている。

主な投資は米アプトスラボ(Aptos Labs)が22年3月に実施したシリーズA(2億ドル)への参加だ。これによりアプトスの企業価値は10億ドルに達した。アプトスは米メタ(旧フェイスブック)が主導したデジタル通貨「ディエム(旧リブラ)」の担当者が創設した企業で、ウェブ3向けブロックチェーンの開発に取り組んでいる。コインベース・ベンチャーズは2月、DeFiの資産管理や決済インフラを提供する英クレド(Qredo)のシリーズA(8000万ドル)にも参加した。

コインベースのウェブ3インフラ投資に共通しているテーマは、異なるブロックチェーン間でデジタル資産を取引可能にする概念「クロスチェーンの相互運用性」だ。複数のブロックチェーン基盤(ビットコインやイーサリアム、ソラナなど)にまたがって運営できる分散型アプリケーションを構築できるかどうかは、ウェブ3の普及のカギとなる。コインベース・ベンチャーズはこの1年で、インドのバイコノミー(Biconomy)、ルーマニアのコンポーザブル・ファイナンス(Composable Finance)、米コネクスト(Connext)、米レイヤーゼロ・ラボ(LayerZero Labs)などクロスチェーンのインフラ企業に相次ぎ出資している。

その他

コインベースは5つの重要戦略のほかにも、仮想通貨の多くの関連分野で注目すべき投資や提携、買収をしている。

市場情報と解析:コインベースは21年4月、機関投資家を対象に仮想通貨取引を解析する英スキュー(Skew)を買収した。それ以降、コインベース・ベンチャーズは仮想通貨の市場情報・解析企業3社、米メッサーリ(Messari)、シンガポールのナンセン(Nansen)、NFT専門の独ビッツクランチ(bitsCrunch)に出資している。

決済:コインベースは21年、米シェアオフィス大手ウィーワークと仮想通貨での利用料支払いの受け入れ、米ビザと加盟店での仮想通貨の利用で提携すると発表した。さらに、米投資会社フォートレス・インベストメント・グループ、中国のM31キャピタル、ナンセン、米NFT取引所のスーパーレア・ラボ(SuperRare Labs)と仮想通貨での給与支払いで提携することを明らかにしている。

コインベース・ベンチャーズは22年に入り、仮想通貨の決済プロバイダー2社に出資している。仮想通貨での給与支払いやストリーミング(常時の預け入れと引き出し)を手掛ける米ゼベック(Zebec)と、継続的な決済のプロトコルを開発するダイアゴナル・ファイナンス(Diagonal Finance)だ。

金利を得られる商品と退職金の運用口座:コインベース・ベンチャーズは仮想通貨から金利収入を得られるいくつかの商品に出資している。こうした商品では、保有する仮想通貨の貸し出しや、特定の口座に預け入れておく「ステーキング」によって一定のリターンを得られる。カナダのレドン(Ledn)、シンガポールのボウルド(Vauld)、米シーシェル(Seashell)、インドのフリント(Flint)、オーストラリアのブロックアーナー(Block Earner)などが含まれる。

コインベース・ベンチャーズは仮想通貨による退職金運用サービス、米オルトIRA(Alto IRA)の複数のラウンドにも参加した。さらに、確定拠出年金での仮想通貨へのアクセスを提供する法人向けスタートアップ、米フォー・アス・オール(ForUsAll)とも提携している。

セキュリティー:コインベース・ベンチャーズは21年、ブロックチェーンとスマートコントラクトのセキュリティー企業3社、イスラエルのサートラ(Certora)、米サーティック(CertiK)、米フォータ(Forta)に出資した。コインベースは21年11月、仮想通貨のセキュリティーや取引の承認、ポリシーの検証を手掛ける米アンバウンド・セキュリティー(Unbound Security)を買収した。

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