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エーザイ、2つの認知症薬開発でスタンス異なる理由

日経ビジネス電子版

2021年6月に米食品医薬品局(FDA)が条件付きで迅速承認したエーザイと米バイオジェンによる共同開発品のアルツハイマー病治療薬「アデュヘルム(一般名アデュカヌマブ)」。対症療法ではなく、疾患そのものを治療する初のアルツハイマー病根本治療薬として注目されたが、欧州や日本では承認されず、米国でも一部の病院が不採用を表明した。

この結果、21年のアデュヘルムの売上高は300万ドルにとどまった。22年からは年間薬剤費をおおよそ半分に引き下げて、平均体重の患者で2万8200ドルにしたが、それでどれぐらい効果があるかは不透明だ。4月11日までには米国の高齢者・障害者向け公的医療保険を担当するメディケア・メディケイド・サービスセンター(CMS)という政府機関が、アデュヘルムをそのカバー範囲に含むか否かの最終判断を下す。

そのような状況下の3月15日、エーザイはバイオジェンとの共同開発契約を見直すと発表した。23年1月1日以降は従来のエーザイが費用分担して損益分配を受ける方式から、開発費用を負担するのをやめ、売上高に応じて一定比率のロイヤルティーを受け取る契約に変更する。23年1月以降、「エーザイはロイヤルティーの受領以外にいかなる経済的権利・義務もない」としており、事実上、エーザイはアデュヘルムの開発や販売にリソース(資源)を割くのをやめる。

内藤晴夫最高経営責任者(CEO)は3月16日にエーザイが開催した記者とアナリスト向けの説明会で、アデュヘルムに関するこれまでの議論を振り返り、「社会に受け入れられる状況をつくることが重要」との認識を示した。逆に言えばアデュヘルムは社会が受け入れ難い状況に追い込まれていたと言っていい。

逆風は、米国での迅速承認の前から吹いていた。20年8月にFDAがバイオジェンによる承認申請を受理した後、11月に開催されたFDAの諮問委員会で委員の多くが否定的な見解を示した。2つの臨床試験の結果が相反するものだったからだ。バイオジェンは臨床試験のデータを事後的に解析して有効性を主張したが、そうした手法も批判の対象となった。

実際、米国で21年6月に迅速承認が与えられて販売を開始したが、患者1人当たり年間5万6000ドルという当初の設定がかなりの高価格だったことも相まって、批判の声は強まった。FDAとバイオジェンの関係に不信感を示す声も上がり、米保健福祉省(HHS)はFDAによる迅速承認制度の運用について調査に乗り出す事態となった。

「(アルツハイマー病の根本治療薬として)世界に先駆けて迅速承認を得たことは製薬企業にとって誇りだ」。16日の説明会で内藤CEOはこう主張したが、一方で「多くの患者などから支持されながら市場導入を図ることができると思っていた。このような大論争に発展したり、使用が制限されたりする事態になるとは思ってなかった」とも口にした。

認知症という人類の敵を克服するべく粘り抜き、一里塚に到達したつもりだったのに、予想外の展開を迎えたということだろう。内藤CEOはアデュヘルムで得た教訓として、まずはデータの透明性を挙げた。「査読付きの論文誌にデータを発表することが重要だと思った。価格を提案する際にも、医療機関で採用を決めてもらう際にも、透明性のあるデータを発表することが重要だ」(内藤CEO)

もう1つは、価格の設定だ。「リウマチやがんに対する抗体医薬品では高価な設定を社会が受け入れていたとしても、認知症には通用しない。家族や身の回りにアルツハイマー病の患者がいる人は多く、多くの人にとって『我がことの疾患』だ」と語り、データに基づいてより慎重な価格設定を行う必要性を口にした。

レカネマブは22年中の承認取得目指す

エーザイが今回、バイオジェンとの契約を見直したのは、両社の提携の下、エーザイが主体となって開発を進めてきたアルツハイマー病治療薬レカネマブの開発が、順調に進んでいるからでもある。米国では迅速承認の取得に向けて既に申請データの提出を開始しており、22年度初めには提出を完了する。9月には、早期アルツハイマー病を対象とした大規模な臨床試験のデータも出てくる。エーザイは22年中に迅速承認を取得するとともに、22年度中には正式な承認取得に向けた申請も行う計画だ。レカネマブはこれまでの臨床試験などからは、速やかに効果を示し、副作用も少ないことが期待される。

ただ、米イーライ・リリーのドナネマブ、スイス・ロシュのガンテネルマブなど、他社も類似のアルツハイマー病治療薬の開発を急ピッチで進めている。内藤CEO率いるエーザイのアルツハイマー病への挑戦は、大きな山場を迎えている。

(日経ビジネス 橋本宗明)

[日経ビジネス電子版 2022年3月24日の記事を再構成]

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