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ダイハツ、「ミカン箱3つ」の先にある電動化の壁

日経ビ�ジネス電子版

ダイハツ工業は新型の軽商用車「ハイゼットカーゴ」を17年ぶりに全面改良し、計3車種を発売した。空間の無駄を徹底的にそぎ落とし、軽自動車の枠に収めながらミカン箱換算で3箱分積載量を増やした。主要ユーザーの宅配事業者や農家が使いやすいように配慮した新型車だが、この先には電動化という課題が待ち受ける。中国勢との競争も見込まれる中、電動化時代にも「良品廉価」の旗を掲げ続けられるだろうか。

「人手不足が深刻になり、日本の産業構造は大きく変わっている。3車種を大幅に進化させ、顧客に寄り添い続ける」。ダイハツ工業が20日に開いた新車発表会で、奥平総一郎社長は話した。

ハイゼットカーゴなどの刷新にあたり、開発陣が徹底的にヒアリングしたのは、新型コロナウイルス禍もあって需要が急拡大するインターネット通販の荷物を運ぶ配送事業者の関係者だ。現場では女性ドライバーが増えるなど働き手も多様になっている。

アマゾンなどの荷物を個人宅まで運ぶ「ラストワンマイル」の事業者は1日あたり平均150件ほどの配達を担う。従来のハイゼットカーゴの容量はおよそ140件分。このわずかな差により、ドライバーは物流センターに再び荷物を取りに行く必要があり、業務効率が低下していた。

エンブレムマークも取っ払う

無駄な空間を削って捻出したスペースはミカン箱(縦38cm×横31cm×高さ28cm)に換算して3つ分、業務用のパンケース(縦68cm×横42cm×高さ10cm)で5ケース分。車内空間を広げるために細かな工夫を積み上げた。

例えば、車両側面のスライドドア部分の窓。回転式のドアハンドルをなくし、窓を開閉できなくした。「配送業者はこの窓をほとんど開閉しない。むしろドアハンドルによって荷物の破損の恐れがあるため、無駄な空間を生み出していた」と、営業開発部の貫井利明主担当員は話す。

荷物を載せるフロアの部分では、部品のでっぱりをなくした。車両後ろに付けていたダイハツのエンブレムマークも思い切って取り去り、ステッカーに替えることで数ミリ分空間を後方に広げた。

軽自動車は規格により、幅1.48m以下、長さは3.4m以下、高さは2m以下と決められている。限られた空間をどう生かすか。これは軽自動車メーカーにつきまとい続ける課題だ。

従来のハイゼットの荷室上部は丸みを帯びた、なだらかなカーブを描いて側面につながっていた。一方、新型車は荷室をできる限り四角形に近づけることで、荷室のぎりぎりまで荷物を積めるようにした。結果として、4段重ねで積み込んだミカン箱68個が荷室にぴたりと収まった。

ただし、荷室を四角形に近づけたことで走行中の空気抵抗が増し、そのままでは燃費にはコンマ数%ながらもマイナスになってしまう。これについては新開発の無段変速機(CVT)をはじめ、多様な技術によって打ち消した。「ちょっとした積み重ねと技術の投入が軽自動車を支えている」。技術統括本部の松本隆之エグゼクティブチーフエンジニアはこう話す。

30年までに電動化

だが、積載性能と燃費をコツコツと向上させるだけでは戦えない時代に入ろうとしている。軽商用車の領域でも電気自動車(EV)シフトが始まりつつある。

佐川急便は21年4月、スタートアップのASF(東京・港、飯塚裕恭社長)と組み、ラストワンマイルの輸送に活用する小型EVのプロトタイプを発表した。EVは両社で企画開発し、中国の広西汽車集団傘下の企業が製造する。EVの普及で先行する中国製の車両が上陸することになる。

ダイハツもハイゼットカーゴなどの発表会の場で、今後の電動化戦略を公表した。現在、ダイハツの自動車は大半がガソリン車だが、30年までに国内の新車販売をすべてハイブリッド車(HV)やEVといった電動車とする。

HVには、エンジンを発電のために使いモーターで自動車を動かす「シリーズハイブリッド」システムを採用する。ダイハツは11月にこのシステムを搭載した小型多目的スポーツ車(SUV)「ロッキー」を発売した。この方式は日産自動車のHVシステム「e-POWER」に近く、奥平社長は「シリーズハイブリッドをコアにしていく」と話した。

電動化を進める上で不可欠になる車載電池の調達については、奥平社長は「HVと、少数だがEVの電池の調達のめどはたっている」と述べた。親会社のトヨタ自動車との共同調達も視野に入れて万全を期す構えだ。

「100万円台でないと買ってもらえない」

ただし、課題となるのは車両価格だ。

中国メーカーをはじめとした価格帯の安いEVについて、ダイハツの奥平社長は「すぐ軽自動車にとって代わる存在ではないが、大いに参考にする。100万円台でないとEVは買ってもらえない」との見方を示した。

「EVになればシステムをよりシンプルにする必要がある。インバーターの冷却システムなども簡素化する」という。中国製などに対抗するため、政府による購入補助金を考慮した実質価格が100万円台に収まるEVを、25年をめどに発売する方針を明らかにした。

それでもなお、現在の軽自動車より高くなる。今回発表したハイゼットカーゴの場合、価格は約104万円から約160万円。中心価格帯はターボなしのモデルで110万~130万円あたりだ。乗用車の場合でも、最安値の「ミライース」は約86万円から、ほかの車種でも110万円程度から140万円程度で最も安いモデルが手に入る。

EVの価格は補助金分を差し引いても数十万円高くなる計算だ。

たとえ車両価格が高くても、購入から売却・廃棄までにかかる全費用を指す「トータル・コスト・オブ・オーナーシップ(TCO)」で見て競争力があれば、価格に敏感な宅配事業者などもEVを受け入れてくれる可能性はある。

徹底的にコストを削り部品を見直す「良品廉価」の取り組みをいかに電動化の時代にも継続していけるか。ダイハツにとって大きな挑戦となる。

(日経ビジネス 大西 綾)

[日経ビジネス電子版 2021年12月23日の記事を再構成]

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