無人運転、運ぶのは荷物 スタートアップZMPの転身
ドライバーなしで自動走行する「ロボットタクシー」の商用運行が、米国と中国で相次いで始まった。しかし2018年8月、世界初の自動運転タクシーの公道営業実証実験が行われたのは日本。それも大手町と六本木の間という東京の中心部でのことだった。技術を開発したのは自動運転のスタートアップ・ZMP(東京・文京)だ。
しかしその後の動きは聞かない。実は今、ZMPの自動運転技術は倉庫内で活用されている。谷口恒社長は「20年の東京五輪に合わせてロボットタクシーの実用化を目指していたが、18年の実証実験の際に安全確保のためにドライバーの同乗が必要と言われ、公道でのビジネス化には相当な時間がかかると判断した」と振り返る。そこで、14年に参入していた物流分野へと本格的に軸足を移した。

倉庫内は私有地のため、自動運転を実施するハードルは公道と比べて低い。人手不足を解決したいというニーズもある。事業規模が小さいベンチャーであるZMPにとっては、注目は集めるが利益を生まない自動運転タクシーよりも、手堅く売り上げを確保できる物流の自動化ソリューションのほうが重要だった。
主力商品である、「CarriRo(キャリロ)」と名付けられた物流支援ロボの見た目は実に地味。一見、物流現場で見慣れた手押し車と特に変わらない。しかしカメラで床面に設置した標識を読み取り、自動走行する。工場内でよく使われる無人搬送車(AGV)は決められたラインに沿って走るだけだが、キャリロは走行ルートを柔軟に変えられる。この点が受け、導入企業は300社を超えているという。

19年には無人走行のフォークリフト「CarriRo Fork(キャリロフォーク)」も開発。ドイツメーカーのフォークリフトに、ZMPの自動運転システムを搭載して無人化したものだ。新型コロナウイルス禍で需要が急増したEC(電子商取引)事業者を中心に引き合いが相次ぎ、需要が膨れ上がった。「これまで物流業界は繁閑の差を人の増減でカバーしてきたが、今ではロボットを用意したほうが安上がりになる」と谷口氏。NECキャピタルソリューションと組んで月額制のサブスクリプション(定額課金)プランを追加し、導入のハードルをさらに下げている。

一旦、公道から「撤退」したZMPだが、一般の消費者が再び目にする日も近いかもしれない。22年12月から、東京都中央区の佃エリアで無人宅配ロボ「DeliRo(デリロ)」によるフードデリバリーの実証実験をENEOSホールディングスと進めている。域内の約1万7000世帯が対象で、4台のデリロが監視員の目視なしで自動走行している。
デリロの最高速度は時速6キロメートル。歩くスピードとほぼ同じだ。4月に施行される改正道路交通法により、「遠隔操作型小型車」として届け出をすれば歩道を走行できるようになる。これに合わせて正式なサービスを始める見込み。外食店舗だけでなく、ネットスーパーの配達も行うことで、定期的な利用を確保したいという。

同じく遠隔操作が認められたのがドローン。これまで無人地帯に限られていた目視外飛行を有人地帯でも可能にする「レベル4」が22年12月から解禁された。現在、その操縦に必要な国家資格の試験が始まっており、春ごろには飛行が始まる見通し。市街地上空を飛行させる場合でも監視員が不要となったことで、ドローン配送がようやく実用段階に入る。
ソフトバンク傘下で自動運転バスの運行システムを開発するBOLDLY(ボードリー、東京・港)は、茨城県境町で自動運転バスとドローンを組み合わせたスマート物流の構築を進めている。町内のスーパーや飲食店の商品を、トラックに加えて自動運転バスやドローンを組み合わせ、最適な手段で宅配する。自動運転バスとドローンを同じシステムで遠隔監視することで、運行管理の効率化を目指す。

宅配もドライバー不足が再び深刻に
物流のラストワンマイル領域においては、軽トラックを使った個人事業主の増加に加え、22年10月に軽乗用車による荷物輸送も解禁されたことで、空き時間を活用したギグワーカーが増えるという見方もある。
アマゾンジャパン(東京・目黒)は22年12月から「Amazon Hub デリバリーパートナープログラム」を始め、生花店、酒販店、新聞販売店といった店舗の配達リソースも活用する。これらは個人事業主への業務委託となるため、「2024年問題」の影響は受けない。
ただしNTTデータグループのコンサルティング会社・クニエ(東京・千代田)の出端励治ディレクターは「欧米ではギグワーカーの労働環境について改善が求められており、日本でも無縁とはいえない」と指摘する。事実、アマゾンジャパンの商品を配達する個人事業主の一部が労働組合を結成。長時間労働の是正を求めている。
クニエでは、ラストワンマイル領域においても30年時点で約5.8万人のドライバー不足になると試算している。物流の上流から末端まで、デジタルトランスフォーメーション(DX)による効率化を進めなければ、物流が崩壊し、企業活動や生活に大きな支障が出かねない。しかしこれらは物流業界の自助努力だけで解決する問題ではない。
(日経ビジネス 佐藤嘉彦)
[日経ビジネス電子版 2023年1月23日の記事を再構成]
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