ユーチューブ、テレビに迫る影響力
アジャイルメディア・ネットワークアンバサダー 徳力基彦氏
日本でも、テレビのチャンネルの1つと言って良いぐらいに影響力が高まっているユーチューブ。そのユーチューブとテレビ局やアーティストの関係が、ここ数年、一気に変化の兆しを見せている。その象徴の1つと言えるのが、アイドルグループ「嵐」の二宮和也さんが中心となって運営する「ジャにのちゃんねる」というチャンネルだ。
ジャニーズ事務所は従来ネット上に動画はもちろん、顔写真すら掲載することが難しいことで有名だった。それが昨今は事務所の所属アーティストが次々にSNSを解禁するようになり、メディアによる写真利用も緩和されてきている。

その変化の象徴の1つとなったのが、2019年11月の嵐のSNS全面解禁だった。その後、嵐のグループとしての活動は休止されたものの、メンバーの一人である二宮さんが「KAT-TUN」の中丸雄一さん、「Hey! Say! JUMP」の山田涼介さん、「Sexy Zone」の菊池風磨さんと昨年「ジャにのちゃんねる」を立ち上げた。
文字通りユーチューバーとしての活動を開始し、1年ほどでジャニーズ事務所で一番チャンネル登録者数が多いチャンネルとなってしまった。
その4人に対して、早速日本テレビが「24時間テレビ」のメインパーソナリティーのオファー。なんと24時間テレビの放送に向けた事前番組を「ジャにのちゃんねる」のユーチューブ上で展開するという、テレビとネットをまたいだ企画が展開されているのだ。
もちろん、こうしたユーチューブとテレビの連携は今に始まったことではない。ヒカキンさんをはじめとする有名ユーチューバーが次々にテレビ番組やテレビCMに起用されるようになっているし、テレビ局や芸能人もユーチューブのチャンネルを持っているのが普通の時代になっている。
もはや、テレビとユーチューブの間の垣根は無くなりはじめていると言えるだろう。こうしたトレンドの変化は、企業のマーケティングにとっても重要だ。今後注目すべきは、企業が自らの動画素材をいかにテレビだけでなく、ユーチューブをはじめとした動画プラットフォームで展開していくかという点だろう。
K-POPでは「BTS」などのアーティストが著作権や肖像権に対して寛容な姿勢を取っており、「ファン動画」と呼ばれるファンによる切り抜き動画が多数制作されることが、世界的な人気の広がりを支えていると言われている。

日本でも、5月にボーイズグループの「BE:FIRST」が自らの楽曲を使った公式の切り抜き動画の投稿企画を実施。K-POP同様の「ファン動画」の可能性を模索している。
今後、企業のマーケティングにおいても、自社の動画や写真素材を顧客やファンにどこまで提供し、自由に活用してもらうようにするかが、話題の広がりに影響すると考えられる。
日本企業の中には、ネットやユーチューブ活用に後ろ向きな企業が少なくないようだが、この流れが元に戻ることはない。自社のユーチューブや動画活用が時代遅れにならないように、今のうちに見直しておくことをおすすめしたい。
[日経MJ2022年5月27日付]
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