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メタバース1兆ドル市場へ 半導体や触覚技術にも商機

CBINSIGHTS
仮想空間「メタバース」への期待が膨らんでおり、近い将来1兆ドル(約130兆円)市場になるとの見方も出ている。データを処理する半導体から決済、仮想空間上の娯楽まで関連技術の開発に取り組む企業が増えており、触覚を再現するグローブ型機器を手掛ける企業や、現実では作れない精緻なデジタルドレスを提供する企業などが存在感を高めている。スタートアップなどが挑む関連技術の開発状況について、通信などのインフラから応用まで6つの階層に分けてまとめた。
日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。

ビジネス界は「メタバース」に夢中になっている。メタバースとは、バーチャル(仮想)製品やデジタル体験が推進する没入感が高く、双方向性を持つ共有空間の概念だ。

ライブコンサートやオンラインゲームを目玉とする仮想空間はすでにあり、プレーヤーはすでにそこに何百時間も費やしている。もっとも、メタバースのファンは実在の人物のアバター(分身)が暮らすオンライン空間で社会全体が繁栄する未来図を描いている。

この空間はまだ草創期だが、長期的な影響は小さくはないだろう。若者など一部の人はいずれデジタル空間で収入の大半を稼ぎ、消費し、投資するようになるかもしれない。CBインサイツの業界アナリスト予想によると、2020年代末にはメタバースの市場規模は1兆ドルに達する可能性がある。

このため、様々な業界の企業がメタバースに注目している。米フェイスブックは21年後半に社名を「メタ」に変更し、各社が21年10~12月期に実施した決算説明会ではメタバースへの言及回数は前年同期比の4倍になった。

メディアが取り上げた回数も同じほど増えた。報道各社はメタバース、引いては財産の所有権や企業のオフィス、季節ごとの流行のファッションなどを備えた本格的なバーチャル経済の台頭がテック業界の次のブームになるのか、それとも誇大な宣伝に終わるのかと思案している。

メタバースは特定のテクノロジーではなく、ビジョンだ。この曖昧さが、メタバースが示す新たなトレンドの活用方法が企業にとって分かりづらくなっている理由かもしれない。

今回のリポートでは、メタバースをテクノロジーのレイヤー(階層)に分け、実現に向けて取り組んでいる主な開発企業を紹介することで、この進化しつつあるテーマを攻略する枠組みを提供する。

このリポートでは未上場企業に重点を置きつつも、市場の状況を示すために一部の子会社、エグジット(資金回収)済みの企業、上場企業のプラットフォームも取り上げた。

インフラ(ネットワーク&演算)

メタバースではビッグデータの流れと低遅延に対応できるコンピューターと処理インフラが必要になる。各カテゴリー「半導体チップ&プロセッサー」「高速通信規格『5G』」「クラウドインフラ」「エッジインフラ」で台頭しつつある技術は、メタバースでの円滑でタイムラグのない体験の実現に欠かせなくなるだろう。

半導体チップ&プロセッサー:この分野の進歩はメタバースのアプリケーションに必要な高度な演算や処理を支える。

例えば、仮想現実(VR)ヘッドセットや拡張現実(AR)眼鏡など、メタバース向けの新たなハード機器は、小さく軽いデバイスでも高解像度のグラフィックや人工知能(AI)に関連する高度な負荷に対応できるよう設計されている。

この領域で突出しているのは米クアルコムのチップだ。同社のチップ「スナップドラゴン(Snapdragon)」はメタの「オキュラス(Oculus)」や台湾HTCの「バイブ(VIVE)」など、50以上のAR/VR機器で使われている。クアルコムは最近、XR(VR・ARなどの総称)分野に投資する運用資産1億ドルのファンド「スナップドラゴン・メタバース・ファンド(Snapdragon Metaverse Fund)」の設立も発表した。

さらに米インテルは、エッジ(末端)とクラウドを適宜使い分けるハイブリッドインフラや5Gの進歩などを含めると、メタバースでは演算性能を1000倍高める必要があるとしている。もっとも、メタバースでの低遅延の演算ネットワーク用の新しいチップも必要になるだろう。同社は22年2月、高性能のデータセンターや5G網に対応する新たなチップの詳細を明らかにした。

5G&低遅延ネットワーク:5G無線技術はコネクテッド(つながる)デバイスに高信頼で柔軟な低遅延のネットワークを提供する。それにより没入感のある世界やゲームなど、高解像度のメタバースのアプリケーションが可能になる。

米通信大手各社は現時点ではそれぞれ5G網を提供している。ゲームやAR/VRで5Gを実証実験している企業もある。例えば、米通信大手ベライゾン・コミュニケーションズは21年4月、自社の5G網で没入的な学習・訓練アプリケーションを開発するため、米VRスタートアップのドリームスケープ・イマーシブ(Dreamscape Immersive)と提携した。米通信大手AT&Tはその3カ月後、よりシームレスなAR体験を生むには5Gをどう活用すればよいかを示すため、メタのメタバース事業部門リアリティー・ラボと提携した。

クラウドインフラ:メタバース企業、特に仮想の空間や体験を手掛ける企業は、クラウドインフラを活用することで生成される大量のデータを保存し、解析できる。

米エピックゲームズ(Epic Games)の人気オンラインゲーム「フォートナイト(Fortnite)」で18年に生成されたデータ量は、月5ペタバイト(ペタは1000兆)に上った(標準テキストでは2兆5000億ページに相当する)。このデータを保存して解析するために、フォートナイトはほぼ全面的にアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)で運営されている。エピックゲームズはクラウドコンピューティングを使い、膨大なデータストリームから情報を集めて分析する。

この分野が進歩すれば、高解像度のグラフィックやAIなどのアプリケーションの処理能力を持たない機器からでもメタバースにアクセスできるようになるだろう。クラウドコンピューティングによって遠隔のサーバーで処理され、パソコンやVRヘッドセット、スマートフォンなどの機器にストリーム配信されるからだ。この外部サーバーとの通信によりラグが生じる可能性はあるが、エッジコンピューティングや5Gでの関連技術の進歩によって遅延は抑えられるだろう。

エッジインフラ:エッジコンピューティングはAR/VRやゲームなどリアルタイムの反応を必要とするメタバースのアプリケーションで使われる。

エッジコンピューティングを使えば、低出力機器からのデータを生成場所の近く(エッジ)で処理できるようになる。これはVRヘッドセットで手や指の動きを追うセンサーを使ったり、対戦型ゲームでコマンドを処理したりする場合など、情報をリアルタイムで処理する必要がある状況で特に有用だ。実際、米スタックパス(Stackpath)や米ゼンレイヤー(Zenlayer)などのエッジインフラ企業はゲームとVRを重点分野に挙げている。

エッジ処理はクラウドコンピューティングと深く結びついている。クラウドインフラはゲームでの目につきにくい物体の読み込みなど、遅延を最小限にする必要がない処理を担うのに対し、エッジインフラはプレーヤーの動きなど、即時の対応が必要なインプットを扱う。

この2つを組み合わせたサービスを提供している企業もある。例えば、米アカマイ・テクノロジーズはオンラインゲームの米ロブロックス(Roblox)やユニコーン(企業価値が10億ドル以上の未上場企業)の米ライオット・ゲームズ(Riot Games)など多くの有名ゲーム会社に、エッジとクラウドのハイブリッドサービスを提供している。

アクセス/インターフェース(ハードウエア)

このレイヤーにはメタバースの体験を可能にするハード機器が含まれる。スマホやパソコン、ゲーム機器などインターネットにつながるコネクテッドデバイスも網羅しているが、ここでは主に仮想環境で没入感を高める新しい技術を取り上げる。

触覚:仮想世界に触覚をもたらす技術の開発に取り組んでいるスタートアップ。

米ハプトX(HaptX)やオランダのセンスグローブ(SenseGlove)などのスタートアップは、仮想の物体に触っているかのような感覚をもたらすグローブの開発に取り組んでいる。このテクノロジーは微細な振動や空気抵抗、モーショントラッキング(自分の動きを追跡する機能)を使い、デジタル物体に触感や硬さ、重さがあるように感じさせる。

触覚技術はいずれ手指以外にも広がるだろう。スコットランドに拠点を置くテスラスート(Teslasuit)は、手触りなどを再現する「触覚フィードバック」を全身に与え、仮想環境の気候を制御する完全なボディースーツを開発している。

ヘッドセット(VR):現時点ではメタバースの主な入り口になると考えられているVRゴーグルを開発している企業。VRゴーグルはユーザーがデジタル環境に没入する映像と音のコンテンツを提供する。

最も人気の高いVRヘッドセットの一つはメタのオキュラスで、21年のクリスマスシーズンには消費者の関心が急上昇した。

スタートアップも続いている。例えば、フィンランドのファーヨ(Varjo)のVRヘッドセットには高性能センサーのLiDAR(ライダー)と映像解析技術(コンピュータービジョン)を搭載しており、奥行きの認識、眼球の動きを追跡できる「アイトラッキング」、コントローラーを使わずに自分の手でVR空間を操作できる「ハンドトラッキング」機能を備えている。

ホログラフィック:光の回折を使って現実空間に3次元(3D)の物体を投影する企業。こうしたホログラムはARと同様に、実世界にデジタル体験をもたらす。

ホログラフィック技術はまだ初期の段階だが、ホログラムを使った舞台装置やパフォーマンスから製品設計や医療まで、広く活用される可能性を秘めている。米ベース・ホログラム(Base Hologram)はこの技術を使い、故ホイットニー・ヒューストンや故バディ・ホリーなどの人気アーティストを舞台に復活させている。一方、イスラエルのリアルビュー・イメージング(RealView Imaging)は患者の臓器のホログラムを表示し、外科手術のプランニングを支援する。

この技術が広く成功するのはまだ先の話だが、この分野に取り組んでいる企業は将来何が期待できるかに関するアイデアを示してくれている。

スマート眼鏡(AR):AR機能を持つ眼鏡やコンタクトレンズを開発している企業。

AR眼鏡の用途が全てメタバースに直結しているわけではない。例えば、冷蔵庫を修理する技術者の支援に特化したARツールは共有体験とは無関係だ。このカテゴリーで記載した企業はリアルと仮想の世界をつなぐ土台を築きつつある。

特に交流目的でARが支持されるようになれば、この技術はあるイベントで他の人物のメタバースのアバターと交流するなど、バーチャルとリアルの世界の要素をより効果的に融合するツールへと進化するだろう。そして、消費者のオンラインとオフラインのアイデンティティーの境界線はますます曖昧になるだろう。

現在では、中国のエンリアル(Nreal)がウェブ閲覧と動画配信機能を備えた消費者が日々使うAR眼鏡の開発を進めている。米マジックリープ(Magic Leap)など企業向けのARヘッドセットを開発している企業もある。

仮想化ツール

ソフトウエア開発キット、ゲームエンジン、3Dスキャン技術など、3Dコンテンツのデザイナーがメタバースの世界や体験を構築できるよう支援する開発者向けツールを手掛ける企業。

3Dデザインエンジン:メタバースの視覚要素の開発に使われる、ゲームエンジンやアニメの視覚効果などのツールを提供する企業。

例えば、エピックゲームズのゲームエンジン「アンリアルエンジン(Unreal Engine)」は「ロケットリーグ(Rocket League)」やフォートナイトなど同社のゲームの開発に使われている。他のゲーム制作会社が手掛けた多くの話題のゲームの土台にもなっている。

アンリアルエンジンとライバルの米ユニティ(Unity)はAR/VR開発者にも使われている。VRゲーム制作会社の米サービオス(Survios)や米サンザルゲームズ(Sanzaru Games)はアンリアルを活用しており、人気のVRゲーム「ビートセイバー(Beat Saber)」はユニティを使って開発された。

3Dモデリング&キャプチャー:ブランドが実際の製品などを3Dデータ化する際、実物をキャプチャーして作成できるように支援する企業。この技術は消費者に製品をもっとよく理解してもらおうとする電子商取引(EC)プラットフォームの間で人気になりつつある。一方、実世界の製品のメタバース版をすぐに作ろうとする企業にも近く導入される可能性がある。

例えば、米ブンタナ(VNTANA)は3Dスキャンを使って家具やジュエリーなどの製品を3D画像にする。画像はECサイトやSNS(交流サイト)、ARにアップロードされ、ユーザーはあらゆる方向から製品にアクセスし、色や質感を変えたり、実際の空間ではどんな感じになるかを試したりできる。

スキャンや3Dキャプチャーを使って実際の環境を仮想空間で再現する企業もある。例えば、カナダのプレビュー3D(Prevu3D)は工場のバーチャルモデルを作成する。現在は効率を高めるためのレイアウト再設計の支援に使われているが、メタバースでの体験の開発に用いられる可能性もある。

AR開発者向けキット:ARアプリの開発を最適化するソフトウエア開発キット(SDK)を提供する企業。ARはまだ主流の活用事例に浸透しておらず、この分野の大半のスタートアップはアーリー(初期)ステージだ。

ARゲーム「ポケモンGO」を手掛ける米ナイアンティック(Niantic)は21年、事業多角化のためにAR開発者向けプラットフォーム「ライトシップ(Lightship)」の提供を開始すると発表した。クアルコムは21年9月、ARアプリを簡単に設計できるSDKスタートアップ、オーストリアのウィキチュード(Wikitude)を買収した。この買収は2カ月後に発売されたクアルコムの頭部装着型AR開発キットの土台になったようだ。

この分野に参入しているテック大手はクアルコムだけではない。スタートアップは米アマゾン・ドット・コムのAR/VR開発者向けキット「アマゾンスメリアン(Sumerian)」や米グーグルの同「グーグルARコア(ARCore)」、メタの同「プレゼンス・プラットフォーム(Presence Platform)」などの攻勢を受けることになりそうだ。

アバター開発:個人やゲーム会社、ブランドがメタバースのユーザーによく似たアバターを設計できるよう支援する企業。

米アルター(Alter)やエストニアのレディ・プレーヤー・ミー(Ready Player Me)などのスタートアップは、ユーザーが自撮り写真を数千通りにカスタマイズしてアニメ風アバターを作成するのを支援する。こうした企業はユーザーが単一のIDで様々な仮想世界や体験を飛び回れるよう、アバターをメタバースで相互運用できるようにしたいとも考えている。

企業向けの超写実的なアバターに力を入れている企業もある。例えば、米ピンスクリーン(Pinscreen)とニュージーランドのユニーク(UneeQ)は人間の言葉を理解し、応答できるAI「自然言語処理(NLP)」を搭載したアバター開発プラットフォームを提供している。ブランドや企業はこれを使い、カスタマーサービス向けのバーチャルアシスタントのアバターを作成する。

ボリュメトリック映像:様々な角度からリアルの体験の動画を撮影し、デジタル環境で3D映像として視聴できるようにする企業。

ボリュメトリック映像はメタバースに娯楽をもたらす上で重要な役割を果たすだろう。例えば、イスラエルのテタビ(Tetavi)はボリュメトリック映像を使ってメディアやゲームなどのVRコンテンツを作成する。同社は現在、大物アーティストや大手制作会社と交渉中だとしているが、自社技術を使って仮想ステージでライブ配信コンサートやダンスパフォーマンスなどを開催したいようだ。

仮想世界

仮想世界と人々がメタバースで集い、存在する場だ。ユーザー主導の体験や経済活動によって特徴づけられる。

中央集権型の仮想世界:中央集権型の仮想世界では、単一企業がその世界のルールやモノ、体験の最終決定権を持つ。通常は人々が集い、対話型ツールを活用できる社会主導型の環境だ。

例えば、ロブロックスではユーザーが開発者向けポータルを使って風景やアイテム、ミニゲームなどを作成できる。この自由さがロブロックスの仮想世界が提供する価値のカギとなっている。深海でのダイビングから大胆な脱獄まで、ユーザーに様々なシナリオを作る権限が与えられていることで弾みが付き、成長しつつあるメタバースの中心的存在になるだろう。熱心なユーザーが仮想世界に改良を加えると、それによりさらに多くのユーザーが引き付けられ、今度は新たなユーザーが他のユーザーのために体験を改善する。

クリエーターがサービスの対価を請求することもできる。中央集権型の仮想世界はクリエーターの収益の一定割合を徴収するが(ロブロックスは1ドルあたり約27セント)、一部のクリエーターは大成功を収めている。仮想世界「セカンドライフ」のクリエーター、アンシェ・チャン氏は06年、仮想世界で築いた事業により実社会で初めて百万長者の地位に達したとされる。

ロブロックスとセカンドライフは米マイクロソフトの「Xbox」やソニーの「プレイステーション」などのゲーム機やパソコン、スマホなどでアクセスできるが、米VRチャット(VRChat)や米レックルーム(Rec Room)などのスタートアップはVR機能を加えることで、より没入感の高い仮想世界をつくろうとしている。

分散型の仮想世界:分散型の仮想世界は中央集権型と同じ様な体験を提供する。ただし、ブロックチェーン(分散型台帳)技術を使って構築されている。

特に人気の高い分散型の仮想世界は「ディセントラランド(Decentraland)」と「ザ・サンドボックス(The Sandbox)」だ。住民は中央集権型と同様に売買や創作活動ができる。だが、こうした取引には全てその世界独自の暗号資産(仮想通貨)が使われる。さらにそれぞれの世界のアイテムや土地は、ブロックチェーン技術を使ってデジタル資産の所有を証明するNFT(非代替性トークン)として取引される。

開発者は別の単一企業に管理権限を渡さないため、ブロックチェーンの分散性から、ゲームと他のプラットフォームとの間の相互運用性が高まるとの見方もある。そうなれば、仮想世界全体で資産の希少性が高まる。いずれは個人が自分のNFTヨットをある分散型世界から別の世界に「移す」ことが可能になるかもしれない。

分散型の世界では中央集権型とは異なるビジネスモデルが活用される傾向もある。それぞれの世界のクリエーターから収益の一定割合を徴収するのではなく、仮想の土地や暗号資産などのデジタル資産から収益を得る。

自律分散型組織(DAO)を通じて住民に統治させる分散型世界もある。ブロックチェーンを使って自動で執行する「スマートコントラクト」が裏付けになるこうした設定により、ユーザーはその世界で所有する暗号資産に応じて投票権を与えられ、ルールや規制の決定権を持つことができる。

経済インフラ

このレイヤーにはメタバースでのモノやサービスの売買や保管を可能にするテクノロジーが含まれる。

暗号資産やNFTへの関心は急速に高まっているが、この分野に参入しつつあるスタートアップや企業はメタバース(分散型メタバース)のほんの一部だけにサービスを提供することになる可能性が高く、結果的に従来の決済企業の重要性が維持されるだろう。メタバースがDeFi(分散型金融)によってのみ運営されれば、各社は暗号資産を持たない顧客にサービスを提供する大きなチャンスを失うことになるからだ。

決済:従来の決済手段はメタバースでも廃れないだろう。仮想世界の経済の成長に伴い、顧客は利便性を理由に従来の決済システムを使いたがり、サービス提供側はこうした取引のシェアをつかもうとするだろう。

米決済大手ペイパルはすでにロブロックス、人気ゲーム「マインクラフト(Minecraft)」、セカンドライフでの仮想通貨の購入に使われている。一方、マインクラフトはゲーム内通貨「マインコイン(Minecoin)」の決済手段として、カード大手の米ビザや米マスターカード、米グーグルの電子決済サービス「グーグルペイ」米アップルの同「アップルペイ」に対応している。

仮想通貨交換所:分散型のデジタル世界の仮想通貨など、仮想通貨の売買プラットフォームを運営する企業。

例えば、ザ・サンドボックスの仮想通貨「サンド(Sand)」は米ジェミニ(Gemini)、シンガポールのクリプト・ドットコム(Crypto.com)、マルタのバイナンス(Binance)などの交換所で取引できる。同様に、ディセントラランドの仮想通貨「マナ(MANA)」は米コインベース(Coinbase)、米クラーケン(Kraken)などで購入できる。

クリプトウォレット(仮想通貨の電子財布):クリプトウォレットは分散型世界のログイン認証になる。

「クリプトボクセルズ(Cryptovoxels)」やディセントラランドのような仮想空間にサインインするには、クリプトウォレットが必要になる。ウォレットのIDがユーザーの個人アカウントになるからだ。ユーザーはウォレットにアクセスできる限り、複数の端末から分散型世界にログインし、その世界の通貨や仮想の土地のNFTなどのデジタル資産を受け取ることができる。

例えば、ザ・サンドボックスではベルギーのベンリー(Venly)や米ビツキー(Bitski)、米メタマスク(MetaMask)など人気のクリプトウォレットを使ってサインアップできる。

NFTマーケットプレイス:仮想の土地からアバターに着せる服、仮想ヨットに至るまでありとあらゆるNFTを売買できるプラットフォームを開発し、分散型世界の商業活動を支える企業。

NFTはメタバースだけの概念ではない。メタバースに参加しなくてもツイートや動画などのNFTを売買できる。だが、NFTはメタバースの資産の所有権証明書になるため、分散型仮想世界の経済活動の柱として台頭しつつある。

メタバースのアイテムのNFTを外部のNFTマーケットプレイスに出品することも可能だ。例えば、米オープンシー(Open Sea)や米ラリブル(Rarible)のようなマーケットプレイスでは、すでにディセントラランドやザ・サンドボックスの仮想の不動産やアイテムを販売できる。同様に、米Dマーケット(DMarket)などのスタートアップは、分散型の世界やゲームのトレーディンググッズに特化したNFTマーケットプレイスを構築している。

体験

このレイヤーはメタバースで利用できる様々な物やサービス、体験を対象としている。もっとも、このレイヤーは進化や変化を続けている。下記のカテゴリーは現時点で弾みが付きつつあるメタバースの体験の一部を示している。

ゲーム:AR/VRゲーム会社や、分散型の多人数参加ゲームを開発している企業。メタバースに従来のゲームを組み込むことは可能だが、下記ではメタバースの進化に影響する可能性がある新しいゲームのトレンドを取り上げる。

AR/VRゲーム

没入感の高いAR/VRゲームの次の波を導いているスタートアップ。

米ラーメンVR(Ramen VR)やサービオス、米フォーエバー・ゲームズ(ForeVR Games)など今回の図に記載した企業の大半はVRゲーム制作会社だ。米ウォルト・ディズニーの出資を受ける米イルミックス(Illumix)などは、スマホのカメラをゲームプラットフォームにするARゲームを開発している。高評価を得た同社のホラーゲーム「ファイブナイツ・アット・フレディーズ(Five Nights At Freddy's)」では、家の壁に隠れているアニマトロニクス(機械人形)を撃退したり、捕らえたアニマトロニクスを集めたりする。

分散型ゲーム

ブロックチェーンを活用した多人数参加型ゲームを手掛けるスタートアップや、ゲーム会社によるブロックチェーンゲーム開発を支援するスタートアップ。分散型ゲームは分散型の仮想世界と似ているが、プレーヤーの自由度は劣る。

例えば、米ミシカル・ゲームズ(Mythical Games)の分散型ゲーム「ブランコス(Blankos)」では、プレーヤーがミニゲームを開発したり、NFTアイテムを取引したりできる。だが、ロブロックスやセカンドライフのように新たな質感や生き物、アイテムはつくれない。しかも、ディセントラランドやザ・サンドボックスとは異なり、DAOがゲームのルールを決めることはない。

仮想コンサート:メタバースで仮想コンサートを手掛けるスタートアップ。新しい没入型体験を活用し、現実世界の対面コンサートも引き立てている。

例えば、米アメーズVR(AmazeVR)は22年1月、VRコンサートプラットフォームを開発するためにシリーズBで1500万ドルを調達した。

このカテゴリーの企業は仮想世界やゲーム会社の攻勢にさらされる可能性がある。例えば、著名ラッパーのトラビス・スコットがフォートナイトで開催したコンサートは1200万人以上の観客を集めた。

ARを使って対面コンサートを引き立て、創造力を発揮しているスタートアップもある。デッドマウスなどのミュージシャンが創業した米ピクスクリンクス(Pixelynx)は、ARを活用してコンサートにゲームの要素を加える。ファンは自分のスマホをステージに向けて新たなビジュアルを体験したり、ミニゲームに参加したり、仮想アイテムやNFTを収集したりできる。

仮想ファッション:メタバースで着用される服を手掛けるブランド。

仮想ファッションのスタートアップはまだ発展初期の段階だ。香港のブランドニュービジョン(Brand New Vision)や米ドレスX(DressX)は最近、NFTを活用したファッションアイテムに対応するため、シードラウンドで資金を調達した。こうしたスタートアップから購入するユーザーはARを使って自分の仮想ファッションを披露することもできる。比較的普通っぽいジャケットや現実世界では作れない精緻なドレスなど多岐にわたる。

大手ファッションブランドも自社を売り込み、新たな収益源を構築する手段として仮想ファッションを位置付けている。例えば、米ナイキはバーチャルスニーカー制作スタジオのアーティファクト(RTFKT)を買収し、ユーザーが自分のアバターのためにナイキの衣料品を買える「ナイキランド」をロブロックスに設けた。同様に、仏バレンシアガはフォートナイトで仮想ファッションブランドを立ち上げ、イタリアの高級ブランド、グッチのデジタル「バッグ」は21年5月、ロブロックスで4000ドル以上の価格で販売された。

仮想不動産:分散型の仮想世界の不動産を購入、転売、開発、賃貸する企業。

前述のアンシェ・チャン氏は仮想不動産を購入し、セカンドライフの開発者向けツールを使って再開発し、それをセカンドライフの別の住人に貸して財を築いた。

仮想不動産の米エブリーリアルム(Everyrealm、メタバース関連の投資会社、米リパブリックリアルムから分離独立した企業)は、ザ・サンドボックスの不動産を400万ドル相当で購入し、大きなニュースになった。同社はこの土地で、熱帯地方の景観を開発している。これには独自のアイテムやメガヨットなどのNFTも含まれる(最も大型のヨットは65万ドルで売られた)。

仮想オフィス:従業員がプロジェクトに共同で取り組み、デジタルオフィスを動き回り、まるで同じ部屋にいるかのように交流できる没入感の高い職場を開発している企業。

この分野の多くの企業はAR/VR技術を活用している。例えば、米イマースド(Immersed)や米vスペーシャル(vSpatial)ではアバターが共有のホワイトボードを使ってリアルタイムで協働し、実生活では設置できないようなダッシュボードが並ぶ複雑なワークステーションを築き、会議を開くことができるVRオフィスを手掛ける。一定の用途に特化しているスタートアップもある。例えば、米アイリスVR(IrisVR)は建築家がプロジェクトで協力し、共通の仮想環境で構造物の3D完成予想図をやりとりしたり、検討したりできるVR空間を手掛ける。

英コスモスビデオ(Cosmos Video)など職場での交流に力を入れている企業もある。ロンドンに拠点を置く同社の会議ツールでは、従業員がビデオゲーム風のオフィスでビデオ会議や仕事に取り組んだり、ミニゲームで対戦したりする。

その他:上記の用途に加え、多くの企業がメタバースで独自の体験を開発している。

例えば、チェコのスマートガイド(SmartGuide)はスマホを美術館のツアーガイドにするARアプリを開発している。一方、米スペーシャル(Spatial)は仮想オフィス事業からNFTアートを鑑賞できるVRギャラリーへと転換するため、シリーズBで2500万ドルを調達した。

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