SNSアプリ「PULL」 音楽の好みが近い人とつながる
エンターテック
SNSによって様々な人と簡単につながることが可能になっている昨今、音楽を軸に新たな人と出会えるのが、2021年8月にリリースされたミュージックSNSアプリの「PULL」です。ユーザー同士のミュージックライブラリーを解析することで、音楽の好みが近い人を発見でき、プレイリストを通してコミュケーションを取れるようになっています。設計・開発に携わったTRIBALCON.の代表取締役・生本訓昭氏に、MTVジャパンやユニバーサルミュージックなどで新規事業開発を担ってきた鈴木貴歩氏が話を聞きました。
自分に似た音楽感性を持った相手を見つけることが可能
デジタル領域の開発を行うTRIBALCON.、IP開発と運営などを行うDazed、アプリ開発を行うLebe Inc.の3社で開発した、ミュージックSNSアプリ。音楽の好みが合う人を見つけることができ、マッチングすると、お互いのミュージックライブラリーを参照したプレイリストが自動生成される。また、目の前にいる人とは、Bluetoothを使って、その場でマッチングできるという機能も備える。今後は来夏までに10万件のマッチングを目標としている。なお、現在はiPhoneのみに対応。
――このアプリを開発しようと思った経緯は?
昔に比べて、人を介して新しい音楽に出合うことが減っているなと感じていたからです。私自身も気がつけば、音楽ストリーミングサービスの「トップ100」を聴くことがルーティンとなっています。ただ一昔前までは、クラブでいい曲だと思ったらDJに聞きに行ったり、お気に入りの曲をカセットテープにまとめて友人同士で交換するなど、人に音楽を共有してもらえる機会も多かった。それをデジタルで実現できないかと思ったんです。
――「PULL」は、マッチング機能やレコメンド機能に秀でているのが特徴の1つですね。

まず「PULL」を起動すると、好きなアーティストといったプロフィール情報をもとに、音楽の好みが近いユーザーがレコメンドされます。そのなかから、マッチングしたい人を選択すると、スマートフォンのミュージックライブラリーを解析し、相手との音楽の相性を0~100%でスコアリングできるようになっています。
この判定には独自のアルゴリズムを採用していて、開発段階では様々な意見を出し合いテストを行いました。例えば、あるアーティストの曲を多く所有する者同士のスコアを上げる案も出たのですが、全体で所有する曲数が違うと、適切なマッチングにはならないといったように。
最終的には、"曲やアーティストへの熱量が近い人同士を結びつけよう"となりました。そこで重要視したのが、特定の曲の再生数と、その再生数のミュージックライブラリーにおける順位です。『A』という曲を100回聴いてそれが全体で4位の人と、『A』を1000回聴き同じく順位が4位の人同士のスコアが高くなるイメージです。
現在は、ミュージックライブラリーを参照できるのが、「Apple Music」に限られているんですが、今後は他の音楽ストリーミングサービスからもデータを取れるようにしていければと考えています。
共通のプレイリストを作成
――マッチングが成功すると、お互いの好みを分析し、おすすめプレイリストが自動生成される機能も面白いですね。

お互いのミュージックライブラリーを解析して、タイムライン上に月に1度のペースでプレイリストが自動的に作成されるようになっています。音楽の好みが近い人から、まだ聴いたことのない曲をレコメンドされるようなものなので、ユーザーからの評判も良いですね。「ボカロPの楽曲を、PULLきっかけで聴くようになった」など、新たな曲に出合える場となっています。またタイムラインでは、マッチングした人たちが作成したプレイリストを見ることができ、その曲をすぐ聴けるようにもなっています。
現状、ユーザーは男女が半々くらいで、年齢関係なく音楽好きの方が使って下さっています。今後の拡大戦略の1つとして、ミュージシャンや音楽キュレーターの方々にオフィシャルユーザーとして参加してもらおうと考えています。彼らは、今聴いている曲のプレイリストをツイッターなどに上げていますが、それをPULLでやっていただければなと。例えば、ゲスの極み乙女。の川谷絵音さんは様々な媒体で発信されているので、ぜひ使ってもらえるとうれしいですね。
今後ミュージシャンの方が多く入ってきて下さると、そのファンの方たちもPULLを使ってもらえると考えています。好きなミュージシャンが聴いている曲はきっと気になるでしょうし、ファンの方同士がつながることができる場にもPULLは最適だと思っています。
スズキの視点
海外のアプリストアで「ミュージックカテゴリ」に意外に多いのが、「PULL」のような音楽ストリーミングサービスと連携して、様々な付加価値を提供してくれるアプリです。ストリーミングが広げてくれた音楽体験もあれば、逆に失ったものがあるのも事実です。その1つがこうしたコミュニティーで、コロナ禍で必要となった音楽の力をさらに増幅してくれるアプリとなりそうです。音楽を媒介にした人のつながりを可視化できたり、リアルな体験と連動するなど、PULLは大きな可能性を秘めていると感じます。
ParadeAll代表取締役。"エンターテック"というビジョンを掲げ、エンタテインメントとテクノロジーの幸せな結びつきを加速させる、エンターテック・アクセラレーター。エンタテインメントやテクノロジー領域のコンサルティング、メディア運営、カンファレンス主催、海外展開支援などを行っている。
(構成:中桐基善)
[日経エンタテインメント! 2021年11月号の記事を再構成]
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