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ARでメークお試し 仏ロレアルの美容テック戦略

CBINSIGHTS
化粧品世界最大手の仏ロレアルが「美容テック」のリーダーをめざしてスタートアップ投資や提携戦略を加速している。急速に伸びる電子商取引(EC)市場への対応に加え、AR(拡張現実)を用いたメークのお試しや環境に優しい容器包装の開発がその中核だ。オンライン会議などのデジタル空間で仮想的にメークできるサービスにも乗り出している。

化粧品世界最大手の仏ロレアルは150カ国・地域に進出し、35のブランドを展開している。2020年の売上高は340億ドル近くに上った。

日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。

同社は18年、美容テックのリーダーになる方針を表明し、ここ数年はデジタルファースト企業への移行に向けた投資や買収、提携を進めている。新型コロナウイルス禍でこの取り組みは一段と加速した。

CBインサイツのデータに基づき、ロレアルの過去5年間の投資や買収、提携について分析すると、同社が美容テックの開拓者を目指す上で最も重視している3つの戦略テクノロジー「電子商取引(EC)」「バーチャルメークお試し」「容器包装テック」が浮かび上がってきた。そしてこの3つの分野でのロレアルとのビジネス関係に応じて各社を分類した。

このマップは分析期間でのロレアルの投資・提携活動を網羅してはいない。

電子商取引(EC)

コロナ禍での広範な店舗の休業やロックダウン(都市封鎖)により、ロレアルのECは急伸した。今や同社のオンライン売上高は全体の約25%を占め、コロナ前の水準から65%増えている。同社はECの比率は今後も上昇し、23年には売上高全体の半分を占めるようになると予測している。

ロレアルはここ数年、EC戦略を熱心に進めている。ECのプラットフォームやツールへの投資からは、顧客に将来提供するオンライン美容体験への熱意がうかがえる。

同社はECスタートアップでは16年にカナダのサンプラー(Sampler)、17年に英アレグラ(Alegra)に出資した。アレグラは小売業者を対象に、様々なデバイスでのEC構築を支援する。サンプラーはオンラインでのプロフィルに基づき、消費者一人ひとりに応じたサンプルを送る。これにより、企業はサンプルを送る対象を絞ることができる。

SNS(交流サイト)の広告料が上がり続けているため、ロレアルは買い物客を魅了し、商品購入につなげる有望な代替策としてオンラインでのサンプルプレゼントを重視している。サンプラーはこのD2C(ダイレクト・ツー・コンシューマー)の手法は消費者との関係強化につながり、米アマゾン・ドット・コムのような外部小売りと競合する上で不可欠だとしている。

ロレアルは「ソーシャルコマース」分野にも参入している。これはオンラインでの購入体験にソーシャルな要素(共同購入や個人間売買、チャット、動画、商品の思わぬ発見など)を加えたECの一種だ。同社は20年夏の5週間、美容指導や商品の紹介など1000本以上のライブ動画を配信した。

ロレアルのコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)、仏BOLDは20年12月、ライブ動画の配信機能を強化するため、米レプリカ・ソフトウエア(Replika Software)に出資した。レプリカはインフルエンサーやスタイリストがSNSなどのデジタルチャネルを使って企業の商品を販売できるようにするプラットフォームを運営している。ロレアルは21年1月、仏LVMHラグジュアリー・ベンチャーズとともにレプリカに追加出資した。

ロレアルは21年、中国発の動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」を運営する北京字節跳動科技(バイトダンス)と提携した。これにより、消費者は動画やライブ配信、クリエーターが作成したコンテンツを通じてティックトックのプラットフォームから商品を直接購入できるようになった。

バーチャルメークお試し

ロレアルは18年にARを手掛けるカナダのモディフェイス(ModiFace)を買収して以降、化粧品の買い物体験にARとバーチャルお試しを最も積極的にとり入れている。こうしたツールは興味をそそる上で面白く、売り上げ増加につながる可能性もある。ロレアルはARのお試し機能を使う消費者の方が、購入率が10%高いことに気付いた。この投資はコロナ禍で結実し、バーチャルお試しツールの利用は5倍、購入率は3倍に増えている。

ロレアルは18年以降、米グーグル、米メタ(旧フェイスブック)、シンガポールのEC「ショッピー」、写真・動画共有アプリ「スナップチャット」を運営する米スナップ、米小売り最大手ウォルマートなどの大手テックや小売りと提携し、バーチャルお試しテクノロジーを各社のプラットフォームに対応させている。例えば、消費者がグーグルや動画サイト「ユーチューブ」を閲覧していると、口紅などロレアルの商品をオンラインで試せるという広告が流れる。

消費者がオンラインで試せるロレアルの様々なブランドのメーキャップやイメージの中で、最も人気の高い使い道の一つはヘアカラーのシミュレーションだ。

同社はバーチャルお試しにより実際の商品の購入手段を提供するのに加え、完全なデジタル交流に向けたバーチャルメーキャップに主に力を入れている。21年には、オンライン会議システム「Zoom(ズーム)」や画像共有アプリ「インスタグラム」、スナップチャットなど様々なプラットフォームに対応したオンラインメーキャップフィルター「シグネチャー・フェーシズ(Signature Faces)」をリリースした。

ロレアルは新たな販促チャネルとして、ゲーム愛好者を対象にしていることも明らかにしている。ゲームプレーヤーとそのアバター(分身)のゲーム内での容貌なども手掛けている。

容器包装テック

ロレアルは多くの消費財メーカーと同様に、もっと持続可能な容器や包装を求める消費者の声に対応しつつある。小売業者にECシステムを提供するカナダのショッピファイのリポートによると、世界の消費者の70%以上が企業に対し、もっと環境に優しい容器や包装の使用を求めている。

ロレアルは仏コティ、資生堂、仏LVMHなど他の化粧品会社とともに「SPICE(化粧品の持続可能な容器や包装に向けた取り組み)」に参加している。25年までに全てのプラスチック容器を詰め替え可能かリサイクル可能、堆肥にできるようにすると宣言し、バイオマス(生物由来の資源)を使った容器や包装を増やす長期目標を掲げている。

ロレアルはここ数年、こうした目標を果たすためにスタートアップ数社と提携したり、協業したりしている。17年には中国で化粧品などの容器をリサイクルするため、廃棄物の再利用を手掛ける米テラサイクル(TerraCycle)と提携した。両社は20年、ロレアル傘下の化粧品ブランド「メイベリン」の英国でのリサイクルプログラムにも乗り出した。

ロレアルは19年以降、デンマークのパボコ(Paboco)と仏アルベア(Albea)と提携し、パボコとは紙製ボトル、アルベアとは紙製の化粧品チューブを開発している。シンガポールのEC大手ラザダ(Lazada)ともより環境に優しい梱包資材を使うことで提携し、アジア太平洋地域で試験運用している。

紙製容器のスタートアップ、仏カービオス(Carbios)は19年にロレアルから出資を受け、両社はカービオスの技術を商用化するためのコンソーシアムを形成した。カービオスは解重合プロセスに関連する特許を20件以上保有している。解重合とは、使用済みPET(ポリエチレンテレフタレート)を、様々な素材のベースとなる化学物質に分解する「ケミカルリサイクル」の一形態だ。その後、こうしたベースとなる化学物質をPETなどのプラスチックに再生する。カービオスは解重合プロセスの触媒となる酵素を開発している。

ロレアルとカービオスは21年6月、100%リサイクル素材を使った化粧品容器を共同開発した。

その他のカテゴリー

ロレアルはテクノロジーを戦略の中核に据えているが、それ以外のカテゴリーでも注目すべき投資や提携、買収を進めている。

スキンケア:スキンケアは現在、美容・パーソナルケアの最も重要なカテゴリーの一つであるため、ロレアルはスキンケアブランドを積極的に傘下に収めている。特に皮膚科医から認められ、科学的に裏付けられたラインアップに力を入れており、17~20年に米国の「アクネフリー」「セラヴィ」「アンビ」、仏「ラロッシュポゼ」、日本の「タカミ」などを買収した。最近では生理管理アプリ「Clue」を運営する独クルー(Clue)と提携し、肌の健康と生理の周期に関するコンテンツを研究開発している。

香水:ロレアルは香水製品も取得している。18年にはBOLDを通じ、仏香水ブランド、シヤージュ・パリ(Sillages Paris)のシードラウンドに出資した。シヤージュは消費者に適した香水を見つけるため、サイトで質問を提供している。ロレアルは19年、仏化粧品メーカー、クラランスグループの香水部門も買収している。

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