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世界の企業、「水素」をこう語る 決算発言を分析

CBINSIGHTS
燃焼時に二酸化炭素(CO2)を排出しない水素エネルギーの導入機運が高まっている。CBインサイツが世界の企業の決算会見の発言を分析したところ、水素の運搬方法や製造形態への言及が増えていることが分かった。水素社会の実現に向けたインフラ整備の議論が本格化してきたことがうかがえる。
日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。

産業ガス大手の米エアープロダクツ・アンド・ケミカルズは2020年7月、サウジアラビアに世界最大の「グリーン水素(再生可能エネルギーで水を電気分解して製造する水素)」プラントを建設する計画を発表した。総工費70億ドルのこのプラントでは、1日あたりバス2万台分の水素を製造できるという。

これは世界各国で進んでいる200を超える水素プロジェクトの一つだ。エネルギー、化学、電力各社は世界の脱炭素化を支える水素製造プラントの建設にしのぎを削っている。企業幹部は今や、水素社会の実現に向けたインフラ整備について論じている。

企業幹部による水素の流通や形態についての発言が増えている (15年1~3月期から21年1~3月期の決算会見で「水素の流通」や「ブルー水素」「グレー水素」に関連する言葉が登場した回数)

これには製造プラントからエンドユーザーまで効率的かつ安全に水素を運搬する手段を解明することも含まれる。21年1~3月期に企業幹部が「水素の流通」に関連する言葉に言及した回数は過去最高に達した。

天然ガスを改質した「グレー水素」や、天然ガス由来だが生成された二酸化炭素(CO2)を回収・貯蔵する「ブルー水素」についての言及も急増した。グリーン水素への移行にあたり、こうした「いくぶんダーティーな」形態の活用にも触れている。

企業幹部がなぜ水素社会のこうした入り組んだ要素に注目しているのかについて分析する。

なぜ水素の流通が注目されつつあるのか?

水素プロジェクトに3000億ドル以上の資金が投じられ、各国政府の支援も高まるなか、各社は水素の製造拡大や次のステップの検討に進んでいる。

水素の運搬

世界各国で数百の水素製造プラントが開発されつつあることから、水素の輸送インフラを大幅に拡充する必要性が生じるだろう。水素の運搬には液体か気体かによって特有の枠組みが必要になる。

水素の輸送網には(液化水素は超低温で保管する必要があるため)断熱トラック、船舶、液体と気体の水素向けの断熱パイプラインなどがある。水素をトラックや船舶で輸送するのは一般的だが、各社はこれをいかに安全にパイプラインに移すかをなお解明しているところだ。英送電大手のナショナル・グリッドは20年11月の決算会見で、英国でパイプラインの水素への反応をテストしていることを明らかにした。研究では水素が鉄製パイプラインの強度を低下させる可能性が示されているからだ。

ガソリンスタンドのように水素を充塡できる「水素ステーション」も増え始めている。これは米新興ニコラや独ダイムラーなどの燃料電池トラックを支えることになる。例えば、エアープロダクツはこのほど、韓国の蔚山の産業ガス施設に水素ステーションを開設した。

エアープロダクツはこのほど、韓国の蔚山の産業ガス施設に水素ステーションを開設した(エアープロダクツ提供)

グリーン水素へのつなぎの水素

多くのプラント建設計画が発表されているが、大半のプラントの稼働は早くても20年代半ばになる。このため、現在水素を活用している石油精製会社や肥料会社などはそれまでの間、ブルーやグレーの水素を使うことになる。

現在製造される水素の大半を占めるグレー水素は、天然ガスを改質して製造し、CO2を排出する。これに対し、ブルー水素は化石燃料由来だが生成されたCO2を回収・貯蔵する。

産業ガス大手の仏エア・リキードのブノワ・ポティエ最高経営責任者(CEO)は20年7~9月期の決算会見で、水素の移行についてこう語った。

「出発点は非常に安価で競争力の高い現在の天然ガス由来の水素だ。これを再生エネ由来の水素と徐々に混合しながら、『クリーン水素』と呼ぶ低炭素の水素に移行していく必要がある。肝心なのは水素を最終的にクリーンにすることで、これは徐々に実現するだろう」

さらに、エアープロダクツやエア・リキードなどの水素製造各社は用途によって最適な形態が異なるため、複数の圧縮した形態の水素を製造している。圧縮水素は特に長距離輸送に適している。

長距離輸送に最適な3つの水素の形態は、液化水素、液体有機水素キャリア(LOHC)、アンモニア(NH3)だ。これらの形態は製造時に使う燃料によってグレー、ブルー、グリーンになる。

特に利用が増えているのがアンモニアだ。21年1~3月期の決算会見でアンモニアについて言及された回数は5年ぶりの水準に達した。米肥料大手のCFインダストリーズやオランダの化学大手OCIなど(アンモニアを原材料に使う)典型的な肥料メーカーは、既存工場を活用して(再生エネへの移行に応じて)グレー、ブルー、グリーンのアンモニアを製造できる。

どの企業が決算会見で「水素の輸送」や「つなぎの水素」に触れているか?

CBインサイツの決算会見記録の検索エンジンを活用し、20年半ば以降の決算会見でこの話題に触れた12社を抜き出した。

水素の輸送とグリーン水素に先行する形態について論じた企業はエネルギー、化学、産業機械、流通など産業界全般に及んだ。

◇エアープロダクツ・アンド・ケミカルズ(産業ガス)

「水素社会への移行は今や大々的に推進されており、グレー水素、ブルー水素、グリーン水素の順に進むだろう。現在はいわゆる『ブルー水素』への需要が大きい」

バラード・パワー・システムズ(カナダ、燃料電池)

「当社は21年1~3月期、大型車向けの液化水素の貯蔵・気化防止策を編み出すため、気体を冷やして液化する装置を手掛ける米チャート・インダストリーズとの拘束力のない覚書に署名した。液化水素はエネルギー密度が高く、大型バス、長距離トラック、鉄道、船舶など大型の乗り物の要件に最も広範に対応する強力な解決策になる可能性がある」

英BP(エネルギー)

「当社は英国で最大のブルー水素製造施設を開発する計画も発表した。30年には1ギガワット分の水素の製造を目指す。このプロジェクトはBPの水素事業の重要なステップになり、英政府の気候変動対策『10項目の計画』に大きく貢献するだろう」

チャート・インダストリーズ(気体を冷やして液化する装置の製造)

「水素のエンドユーザーや供給業者による需要があり、そこに素早く供給、輸送してもらう必要がある。こうした需要は当社の水素輸送パイプラインの受注状況だけでなく相場からもうかがえる」

米チェサピーク・ユーティリティーズ(様々なエネルギーの供給)

「実際に水素を製造し、ブルーやグレーではなくグリーン水素をパイプラインに圧入して運搬できるようにする点に関しては、そしてこれが風力や太陽光発電に由来するかどうかという点に関しては、当社もかなり関心がある」

米カミンズ(エンジンメーカー)

「こうした(エネルギー)移行策は重要だ。脱炭素策は窮地を救う最終手段だからだ。もっとも、難関はコスト面と、電気自動車(EV)や燃料電池車の大々的なインフラ整備が必要になる点だ。当社はメーカーと提携してこうしたコストとインフラを整備できると確信しているが、経済基盤が必要になるだろう。これを果たすには政府による投資も必要だ」

米フローサーブ(産業機械)

「今回のエネルギー移行は本物だと思う。世界各国の政治や社会の圧力だけをみていれば、それが変わるとは思わない。このため、これがどんな道筋をたどり、水素がどれほど大きなプレーヤーで、グリーン(水素)とブルー(水素)がどれほど違うのかは正確には分からない。これら全てはいずれはっきりするだろう」

エア・リキード(産業ガス)

「当社にとっての最高のチャンスは、製造テクニックだけでなく、水素の封入や流通の技術、サプライチェーン(供給網)全般も習得することだ。当社がこの事業で腕を磨けるのはこうした分野だ。これにより水素の安全性と安定性、競争力を高めたい」

ナショナル・グリッド(送配電)

「当社は既存の送配電網に混合水素と100%水素のどちらを入れるのか、鉄やジョイント、他の装置にどんな反応があるのか、それを完全に転用するにはどうすべきなのかを真に理解するため、英米両国でかなりの時間を費やしている」

OCI(肥料、化学)

「原料供給の脱炭素化は、当社の顧客が自社の脱炭素化で恩恵を得られる主な手段の一つになり、顧客が自社の目標を達成する重要な手段になるだろう。当社が戦略的に米テキサス州に設けている(メタノール、アンモニアの製造施設)OCIボーモントはこれにさらに適している。OCIボーモントは米国のブルーやグリーンのアンモニアの顧客企業にとって最大級の拠点か、そうなる可能性がある」

米プラグパワー(燃料電池)

「当初はグリーン水素の大半は液化して輸送されるだろうが、いずれ製造現場で貯蔵するオンサイト型が増えるだろう。その一部は現在の天然ガスと同様に、地下で非常に長期間貯蔵されるだろう。そして最終的には、パイプラインの近くにプラントを建設すれば、天然ガスのパイプラインに水素を直接入れられるようになるだろう。当社は既にこれについて検討している」

シーベック(カナダ、再生可能・低炭素ガス)

「水素ステーションでは、水素のオンサイト製造とステーションまで水素を運搬してもらうという2つの選択肢がある。例えば1日500キログラム未満の水素ステーションでは、オンサイトの水素製造システムを持つようになるだろう。これは一時的かもしれないが、1日500キログラムならその場で製造する方がよい」

各社の幹部は様々な構想を描いているが、水素のバリューチェーンはまだ初期段階にすぎない。

水素の流通イノベーション(技術革新)加速を重視した企業提携を今後もチェックしておこう。バラード・パワー・システムズとチャート・インダストリーズは最近、大型車向けの液化水素の貯蔵策を共同開発する覚書に署名した。

エアープロダクツやチャート・インダストリーズ、ナショナル・グリッドなど産業ガスや電力、送配電会社による水素パイプラインや貯蔵のテストの発表にも目を光らせよう。成功したテストや実証実験は広範な水素インフラ構築の糸口かもしれないからだ。

さらに、グレー水素やブルー水素の製造企業がどうやってグリーン水素に転換を果たせるかについて考えよう。これを果たすには、安定的かつ十分な再生エネの供給が必要になる。例えば、CFインダストリーズは21年4月、米ルイジアナ州ドナルドソンビルにある既存の複合施設にグリーン水素を製造するための電気分解プラントを新設することで、鉄鋼・機械大手の独ティッセン・クルップと合意した。

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