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VW技術トップ「EV利用でエネルギー供給企業に」

日経ビジネス電子版

世界の電気自動車(EV)用電池を巡る競争が過熱している。ドイツのフォルクスワーゲン(VW)は、2030年までに欧州で年間240ギガワット時を確保する。トヨタ自動車は14日、30年までに世界で年間280ギガワット時の電池を確保すると発表した。いずれも20年の世界の車載電池生産量を上回る規模を、1社単独で確保しようとしている。

今後の自動車各社の競争は、電池の性能と調達力が左右するのは間違いない。強烈なEVシフトを進めるVWグループは、どのように大量の電池材料を確保するのか。VWグループで電池事業を統括するトーマス・シュマル技術担当取締役に電池戦略の詳細を聞いた。

――欧州で電池工場をどのように建設していきますか。

「既に欧州に6つの電池工場を建てることを発表しています。1つ目はスウェーデン、2つ目は独ザルツギッターに建て、3つ目はスペインに建設する予定です。新しい製品と新しい技術ですから、これは大変難しいチャレンジです。2025年に電池事業を始めるとすれば、22年には敷地を確保し、24年にはセル生産を始める必要があります。クルマの電動化における最大の難関は、セルが入手できるかどうかです。

出資先である中国の車載電池大手、国軒高科に技術サポートを要請したところ、合意してもらいました。自社だけで進めていくのは困難ですので、国軒高科と共に知識を重ね合わせていこうとしています。

VWは、電池の製品開発の面では経験が少ないものの、生産拡大の面では豊富な経験があります。例えば、まったく新しい製品だとしても、生産規模を拡大できる力が私たちにはあります。国軒高科との提携は、製品の開発を助けてくれるものです。現在は工場の生産拡大において国軒高科と協力している段階です」

ブランドごとに同じ開発をせず、役割を分担

――EV開発のためにVWグループの役割をどのように変えていますか。独アウディが最先端のEV開発を担当していますね。

「今はMEBとPPEという2種類のEVプラットフォームがありますが、25年からはVWグループ内に1つだけのプラットフォームにします。その中で適切な複雑性とバリエーションを持たせようとしています。全グループを調整する責任は私にあります。

そして各ブランド内でも様々な開発分野があります。これは以前とは異なる状況です。過去にはすべてのブランドで燃焼エンジンを使っていましたが、現在では『あなたはこっちの分野を担当、あなたはあっちの分野を担当』というように分担していますから。3回同じことをして3種類の結果が出るようなことはやりません」

燃焼エンジンと同時並行でEV開発

――いつ戦略を変えたのでしょうか。

「今年1月に戦略を変更しました。グループレベルでの、グループテクノロジーの開始についても同様です。これが出発点となりました。

そして1月以降、担当者や分担の方法、進め方について日々話し合いを重ねてきました。ただ、VWは大きなグループを抱えているので、簡単ではありません。ここでは何千人ものエンジニアが働いており、燃焼エンジンに関する現在の開発に加えて、EVなど新しい事業にも目を配らなければなりません。

多くの従業員が新旧両方の技術に携わっているため、新しい分野のみに集中するわけにはいきません。変化は一歩一歩進めなくてはならず、今はとても複雑な工程を踏んでいるところです。繰り返しますが、大きな変更点は各ブランドですべてを同じ方法で進めることをやめたということです。全工場にわたって作業を分担し、1つのモデルを作り上げるようにしました」

コバルトを含まない電池セルを開発する

――電池の原材料については、リチウムやニッケルやコバルトなど、採掘に関する環境面や社会面での問題があります。どのように解決しますか。

「課題は2つあります。社会的な影響と希少性です。そのため、そうした貴重な材料をより少なく使う戦略に集中しています。将来的にコバルトを含まないセルを開発し、社会的な問題を回避しようとしています。さらなる技術と開発で、より高速な充電が可能になる、マンガンとニッケル比率が高いセルを造ります。

適しているのはどんな技術か、どんな化学反応かということを追求しています。その過程で、そうした素材が不足していることがわかりました。そこで、バリューチェーンの垂直統合を図ることを決めたのです。採掘からセル製造まで目を向け、一次サプライヤーだけではなく、バリューチェーン全体で適した素材と量を獲得したいと思っています。

なぜなら、25年以降は素材の量が課題となってくるからです。原因はこうした原材料が不足していることではなく、採掘のプロセスが確立されていないことにあります。4~5年のリードタイムが必要です。25年に高い需要が出てくるとしたら、その5年前には採掘を始めなければなりません。VWは採掘のキャパシティーについて見定めるのが遅かったので、将来のセル生産の目標達成には遅れが生じるかもしれません」

――ニッケルはどのように確保しますか。

「私たちはクローズドループ(完結する循環)・アプローチを取ろうとしています。これまでの経験から明らかなことは、最終製品であるクルマだけを追求していたらサステナブル(持続可能)な企業にはなれないということです。本当に大切なことは、全体のバリューチェーンを見ることです。バリューチェーンにおいてサステナブルなやり方を取っていなければ、消費者は製品を買わないかもしれません。

どこで採れたニッケルを使うのか、どんな採掘プロセスを用いるのか、社会的に容認されるものか、どんな種類のエネルギーを使うのか……採掘場でクルマを使うならどんな燃料で動くものなのか。ディーゼルなのか、電動なのか、電池セルはどのエネルギーを使うのか? 私たちは、電池のバリューチェーンの細部について考えています」

昨年ドイツではEV100万台のエネルギーが無駄に

「もうひとつ興味深い点として新しいEVの世界は、新たな事業への接点をもたらしてくれるということです。従来、私たちはエネルギーとの関わりはほとんどありませんでした。エネルギー企業が太陽光発電などのサステナブルなエネルギーを強化するなら、需給の調整機能が必要です。こうした種類のエネルギーは安定性に欠けるため、電池でエネルギーを蓄積する必要があります。

そうした状況により、私たちはエネルギー業界により近づくことになりました。私たちが造っているセルは、将来的にはエネルギー供給会社のためにもなるのです。エネルギー業界にこれまでになかった新しいものです。

将来的にEVは、移動式のエネルギーストレージ(蓄エネルギー)システムとなります。私たちは双方向充電の技術を追求しています。EVに電気を蓄え、さらにEVから電気を取り出すこともできる仕組みです。家でEVから電気を取り出すことができるようになります。将来的に、EVは顧客のエコシステム(生態系)の一部となります。

我々は、移動式エネルギーストレージシステムとなるEVを数百万台生産します。将来的に、消費者は購入したEVによって、ストレージマネジメントシステムを持つようになります。

そのシステムが搭載されていると、EVを充電するたびに、ソフトウエアは適切な電気量、充電に適切な時間帯、EVを動かす時間帯、EVから電気を回収する時間帯を決定します。そうしてエネルギーグリッドを最適化するのです。

こうした仕組みがないために、昨年ドイツではEV100万台から取り出せるはずのエネルギーを無駄にしてしまいました。ドイツには電気を保存するシステムがなく、風力などによるエネルギー生産を停止することが起きました。将来的には、グリッドマネジメントをしながらEVの充電ができるようになるかもしれません」

――その場合、データが大変重要になります。データを外部に公開する予定はありますか。

「これは大変苛烈な競争です。誰もがデータにアクセスするために奔走しているからです。データは大変貴重なものになるでしょう。路上で動物を巻き込んだ事故のシミュレーションをするためには、1万件以上の事故のデータが必要です。そんなに膨大なデータが必要なソフトウエアをどうやって作ればいいのでしょうか。唯一可能性のある方法は、データを共有することです。クラウドでデータをオープンにしてお互いで共有するのです。

直近の課題は、どこがそのデータを所有するのかということです。VWはデータにアクセスできずに、他の企業に顧客を奪われるという状況は望んでいません。その中間のどこでバランスを取るか、どうやって適切な境目を設けるかが課題です。おそらく、これは白か黒かで分けられる問題ではないのかなと思います。誰もすべてを完全に囲い込む、または公開することはできないでしょう。その中間になるのではないでしょうか。個人のクルマなら、セキュリティーの問題などもあります」

――EV向け電池がストレージとして使われるのはいつ頃になりますか。それを先導するのはどこでしょうか。

「それは国、または地域によります。中国では、10~15年にわたる政府による集中的なサプライベース構築の働きかけがなされています。現在の中国の大手セルサプライヤーは、もともとEVのセルを生産するとは考えていなかった企業です。しかし、政府とそしてもちろん消費者が適切な後押しをしたのです。『私たちにはセルが必要だ。それを造れるのはあなたたちしかいない』とね。

欧州、特にドイツでは、その動きは完成車メーカー(OEM)によって後押しされると思います。大手サプライヤーは、リスクを抱えますし、彼らも顧客を獲得しなければなりませんから、そうした新しい動きに取り組むのは難しいものです。そうした新事業は、将来への投資をしなければならず、また回収するのに長い期間がかかります。

燃焼エンジン技術の後に来るものは何か。燃焼エンジンの次に皆どこに向かうのか。私たちにとっては明白です。大手サプライヤーより先に、私たちOEMが実行すると決めました」

電池のクローズドループが完成すれば、原材料の調達が不要に

――電池リサイクルには多大なコストがかかります。バッテリー回収を含め、リサイクルシステムをどのようにつくっていきますか。

「原材料の話で少し取り上げましたが、私たちは自分たちのアプローチをクローズドループ・アプローチと呼んでいます。採掘と原材料確保をまず行い、その後販売事業を行い、造ったEVは『1回目の使用』がされますね。

そして充電インフラストレージシステムのための『2回目の使用』が次にきます。その後、つまり1回目と2回目の使用が終わった後、リサイクルが始まります。ザルツギッターには、先行してそれを導入しているエリアがあります。まだ市場から戻ってくるバッテリーは多くないので、試行段階のプロジェクトです。この試みは将来確実に拡大していきます。

そこでは原材料の98%をリサイクルできており、再利用できないものはたった2%しかありません。年月がたってシステム内に十分な量の電池があれば、クローズドループが出来上がるというのが私たちの考えです。クローズドループができたら、原材料を新たに採掘する必要はなくなります。自社だけですべてを完結するわけではなく、サプライヤーとも提携します。

最初は、十分な素材の量が必要ですが、40年、50年にはいくつかの国はクローズドループを持つようになり、新たな素材は必要なくなるでしょう」

――誰が電池を回収することになりますか。

「電池の回収は大変魅力的な事業ですね。回収を巡って争いが起こるかもしれません。私たちはそれを外には出しません。

米アップルのスマートフォン『iPhone』をお持ちですか? 新しい機種を買ったら古い機種はどうしますか? ドイツでは、使わなくなった製品をアップルに返品すると、購入価格の40~50%を受け取れます。なぜでしょうか。

理由は電池です。返品された製品の電池の種類、また電池の充電能力によって、アップルは一定の金額を消費者に払います。返品するインセンティブ(誘因)を設けているというわけです」

2026年から全固体電池を搭載したEVを生産

――全固体電池の開発について、米クアンタムスケープとの提携はどのような状況ですか。

「VWはクアンタムスケープと合弁会社を設立しており、全固体電池の大規模生産をサポートする大きなチームを抱えています。26年から全固体電池を搭載した最初のEVを生産する予定です。セル生産において次の大きな一歩となります。

20年12月にサンプルをクアンタムスケープから受け取りました。彼らは約束したことを着実に行ってくれています。米国では、クアンタムスケープは目標に見合う結果を全然出せていないというような嘘の情報が流れていますが、そうではありません。私たちは、クアンタムスケープは実際に結果を出しているのを見ています。当社は、次に来るとても重要な技術は全固体電池だと考えています」

グループ全体でチョコレートの型を統一

――電池に安価な素材を使う計画はありますか。

「従来の電池は、燃焼エンジン車のスペースに合わせて設計されていました。本来は、電池プラットフォームを用いて、電池をクルマに合わせるのではなく、クルマを電池に合わせて設計すべきなのです。

MEB開発の時に、開発プロセスを変更しました。これはチョコレートの型のようなものです。ここでの課題は、どれだけの種類のチョコレートの型がVWにあるのかということです。以前は、各ブランドはそれぞれ独自のチョコレートの型を持っていました。そこで、私たちはグループ全体で明確な基準を設け、チョコレートの型を統一することにしたのです。生き残るためには、各ブランドで小規模な事業をするのではなく、生産規模の拡大が不可欠です。そのため、チョコレートの型を統一したのです。

ここで、こんな疑問をお持ちになるかもしれません。独ポルシェやアウディなど、ブランドによってパフォーマンスは異なるが、どのように適用させるのか、と。それは電池内部の構造によって適用させます。

都市用のEVを求める顧客は、毎日340キロメートルも運転するなんてことはないでしょう。その場合は、リン酸鉄リチウムイオン(LFP)を用いた電池を搭載したEVが適しています。電池システムのサイズを維持したまま、異なる化学技術を用いることで異なるパフォーマンスや運航距離を出せるようにします。

次の段階では、自動車事業だけではなく、エネルギー会社にもエネルギーストレージシステムを売り出したいのです。そのための電池はLFPをベースとしたものになります。少し重くなり、やや効率は下がりますが、膨大なストレージシステムではそれは問題になりません。EVには、効率の高さと軽量であることが必要になります」

――最初の旗艦EV「ID.3」が発売されてから時間がたちます。EVの売れ行きはどうですか。

「私たちは売れ行きに満足していますし、我々のEV投資が正しい戦略であるということを証明できたと思っています。

30年代の終わりには、VWのブランドのほとんどで、燃焼エンジン車は最後のものとなるでしょう。EVの大量生産には時間がかかります。コストを抑えるには大規模生産が必要になり、それには特に多くのセルと原材料が必要になります。

2つ目に重要なポイントは充電インフラです。充電インフラの状況を改善し、コスト面の課題をクリアすれば、EVを買わない理由はなくなるでしょう。

ある映画で、テレビ後面の箱型の部分には何が入っているのかと子どもが尋ねるシーンがあります。現代では薄型のテレビしかありませんからね。私は箱型のテレビを使っていた世代として育ちましたが、今ではあの箱型の部分はなくなりました。将来、子どもたちは、『クルマの前についているものは何?』と燃焼エンジンを設置する部分について尋ねるでしょう。燃焼エンジンは将来的になくなりますからね」

◇   ◇   ◇

VWのEVシフトを突き動かしてきたのは、主に3つだ。15年にディーゼル車の排ガス不正問題を起こし信頼が失墜したことが1つ。2つ目は、欧州諸国が二酸化炭素の排出規制(CO2)を強化していること。3つ目は、競争関係でありライバルのトヨタがハイブリッド車(HV)の収益力を高めていることだろう。

そのトヨタがEV戦略を強化している。12月14日、30年にEVの世界販売台数を350万台とする目標を発表した。VWは30年に世界の新車販売に占めるEV比率を5割としており、トヨタとVWの戦略は似ているように見える。

ただし、EVの利活用については、VWがトヨタより積極姿勢を打ち出している。シュマル氏が強調したように、VWはEV普及の先行者メリットを生かし、エネルギー事業を展開しようとしている。EV用電池を用い、系統電力の容量拡大や安定化に資する構想だ。こうしたエネルギー事業はEV1台当たりの収益力を高め、自動車ビジネスの殻を破る可能性を秘めている。

(日経BPロンドン支局長 大西孝弘)

[日経ビジネス電子版 2021年12月23日の記事を再構成]

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