コロナ下のリモート葬と「入棺体験」 見つめる生と死
奔流eビジネス(流通ウオッチャー 村山らむね氏)
今年最初のコラムではあるが、あえて「死」にまつわる話題を取り上げたい。新型コロナ以前から、欧米では「Death Tech(デステック)」、日本でも「葬テック」という言葉があったように、葬儀に関するデジタル化や技術革新の芽が見えていた。

実際、この3年で「リモート葬」など葬儀の簡素化の一方で、多様化・らしさ追求も。また、コロナで自分自身が帰らぬ存在になることもぼんやりと意識せざるを得ず、自分自身のお葬式やお墓についても、なんとなくではあっても理想の形の輪郭がはっきりした3年間だったかもしれない。
「入棺体験」という面白いとりくみをワークショップ形式で提供するのが、「GRAVETOKYO」代表の布施美佳子さんだ。大手玩具メーカーで新規事業として行っていた「骨壷(つぼ)」の事業ブランドを引き継ぐ形で、3年前に独立。デザイン・アートの文脈で葬儀の在り方、生と死について考えを発信している。現在はデザインされた「棺桶(かんおけ)」制作や、「入棺体験」のワークショップを行っている。
2月からは、パルコがセレクトした商品やサービスを支援するクラウドファンディングサイト「BOOSTER」で参加者を募集するそうだ。入棺体験が3500円。それ以外にも好きなものたちに囲まれたオリジナル立体遺影の作成などを用意している。
おもしろいのが、今までのワークショップ参加者の9割方が女性だったということだ。ポップでかわいらしいイメージが押し出されていることもあるが、男性はおおむね強い拒否反応を示すらしい。この入棺体験、特に役者の世界では「長生きする」と、縁起がいいとされてきたようだ。
布施さんは、20代で友人の葬儀を体験した。「その人らしい葬儀とは?」という問いを常にいだき、それをきっかけに、社内プロジェクトを立ち上げたのが、現在につながっている。
ファッションブランドのデザイナーの経験もあり、華やかでかわいいブランドメッセージが特徴的だ。こうした取り組みをきっかけに葬儀業界から多様なデザインが生まれ、選択肢が増えることが望ましい。

一昨年、コロナ禍の中で私の父が亡くなった。参列者は限られ、にぎやかで人懐っこかった父にふさわしい送りをできなかったことが悔やまれる。大切な人をどう送るか。自分の送りを大切な人にどう託すか。死を考えること、意識することは、生きている時間を輝かせることだと思う。
入棺体験をした人からは「蓋が閉まった瞬間、家族のことが思い浮かんできて自然と涙があふれてきた。絶対死ねないと思った」(40代女性)などの声があったそうだ。「少し生きることに疲れたタイミングで入棺体験をした人から、生き返った気がしてポジティブになったという声をもらったことも入棺体験を流布させる目的の一つになっている」と布施さんは話す。
死を「疑似体験」することで生きることを強烈に感じられるのかもしれない。2次元や3次元の、メディアを通した視覚・聴覚中心の体験ではなく、文字通り自分で実際に「体験」すること。今年は、その意味と重要性が、様々な場面で問い直されると思う。
[日経MJ2023年1月27日付]