位置情報データで成長する米スタートアップ
奔流eビジネス(スクラムベンチャーズ マーケティングVP 三浦茜氏)
インターネットサイトであれば、アクセス解析をすることで、SNS(交流サイト)経由で来たなど顧客がどこから来訪したのかがわかる。実際の店舗でもそれを可能にしたサービスがある。街中の人の動きを解析可能にした米Placer.aiだ。
同社は昨年4月にシリーズBで5000万ドルを調達した後、今年に入ってすぐにシリーズCで1億ドルを調達したと発表。バリュエーション(企業価値)は10億ドル以上の「ユニコーン」となった。まるで現実世界のグーグルアナリティクスのような同社のサービスの詳細を紹介したい。

データは全て匿名だが、指定した場所に集まる人の属性や傾向データを取得することができる。例えば私がレストラン店主だとしたら、日ごとの来訪者数傾向がわかるだけでなく、「顧客は店にくる前にどこにいたのか?」「うちの店の後にどこに行くのか?」「うちの店の真の商圏はどこなのか?」といったことがわかる。顧客の性別や年収、他に好きなレストランの傾向なども把握することが可能だ。
このプラットフォームは現在50以上のデータセット(データの集合)から構成されている。その中でも中心となっているのはスマホの情報だ。
500を超えるアプリがPlacer.aiのSDK(ソフトウエア開発キット)を活用しており、全米の2000万を超えるデバイスから匿名の位置情報を取得しているという。
このサービスを小売り、不動産、消費財メーカー、サービス、都市開発、投資家などの分野の1000社近くが既に活用している。小売業やサービス業は、自社店舗の入店者数だけでなく、近隣の競合店舗の入店者数も把握できる。イベントによる集客効果や広告の効果検証、そして新たな店舗の出店計画に活用されている。
消費財メーカーは、プロモーションの際に適切なターゲットに接触できる看板の位置決めに活用したり、ターゲットが来訪しやすい重点販売店舗選びに活用できる。
不動産企業は、新たなマンションの建築計画、加えて周辺への店舗誘致の際にも「なぜこのエリアが魅力なのか」をデータを使ってアピールすることができる。

データを活用した小売業界のトレンドウェビナーなどのコンテンツも用意されている。私もいくつかのウェビナーを受講し、インサイトを得ることができた。こういったデータは米国のテレビや新聞、ネットメディアでも紹介されており、サービスのPRにも役立っているようだ。
オンラインサービス活況だからこそ、実店舗の必要性がより一層問われてくる。またパンデミックを経て急激に変化する世界では、こういったデータを活用することで、より的確な判断が可能になる。
どういったアプリでPlacer.aiのSDKが使われているのかは非公開だが、全米で2000万デバイスということなので、私の移動情報も一つのデータとして取り込まれているのかもしれない。個人を特定されることがないデータとはいえ、なんだか微妙な気持ちにもなるが、マーケティングツールとしてはぜひ活用してみたいと感じた。
[日経MJ2022年1月28日付]