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「売らない店舗」に人気 企業と消費者が出合い求める

日経ビジネス電子版
新型コロナウイルス禍で電子商取引(EC)の利用は加速度的に増え、広く一般化した。多くの企業がEC事業を始めたり拡大したりした結果、自社の製品やサービスを消費者に見つけてもらいにくくなっている。そんな中、注目を集めているのが「売ることを主目的としない店舗」。一見斬新なこの店にも、実は行動経済学の理論が使われている。

5月中旬、ある平日の正午すぎ。新宿マルイ本館(東京・新宿)の1階の店舗「b8ta Tokyo-Shinjuku Marui」では、店舗スタッフと客が会話を交わしていた。

「このヘアブラシ、モデルやタレントの方々からも人気なんですよ」

「へぇ、肌にも優しそうですね」

どこのお店でもある何気ない会話。だが、この続きは、この店でしか聞こえないような内容だ。

「じゃあこれ、使ってみたいのですが」

「承知しました、少しお待ちください」

スタイリッシュなデザインの店舗の棚には、かばんに化粧品、運動用品、食品など約50種類の商品が「1点ずつ」並べられている。1つ売れたら商品がなくなってしまうのではと心配になるが、その必要はない。この店舗は「モノを売ることを主目的にしない店舗」だからだ。

ここは体験型店舗を運営するb8ta Japan(ベータ・ジャパン、東京・千代田)が2020年8月に開いた店舗で、自社製品の認知度を高めたい企業が出品し、それを目にした消費者にECサイトなどで買ってもらうのが狙いだ。出品する企業は店舗に商品を展示してもらう代わりに、b8taへ出品料を支払っている。消費者にとっても、実際に商品を手に取って眺めたり体験したりできるメリットがある。

出品する企業にとって、b8taの最大の魅力は消費者との接点を増やせることにある。何度も触れることでその商品やサービスへの印象が強くなり、興味・関心を抱くようになる。これは行動経済学で「ザイアンス効果」として知られており、b8taはそれを活用した「出合いの場」を創出しているのだ。購入後に「失敗した」と後悔した経験を持つ人も多いだろう。得を求めるよりも損を避ける傾向が強い点を行動経済学では「損失回避バイアス」と呼ぶ。実際に触れて試すことで、失敗を防ぎたい気持ちも、b8taの人気を支えていそうだ。

新宿マルイにあるb8taを訪れた20代の男性は「オンラインで売られている商品はコモディティー化されている。新しいモノが好きなので、これまで見たことのない商品ばかりで新鮮さを感じた」と満足げだった。

同店では「来店客から受け取った商品への意見をすぐに出品企業へフィードバックしており、企業からも好評だ」(店員)。店を構えるコストなどを勘案すると、出品という形で市場調査までできるのは大きなメリットになる。出品したい企業からの引き合いも強まっているという。

b8ta Japanは4月27日、b8taの国内4店舗目となる「b8ta Koshigaya Laketown」を、イオンレイクタウンkaze(埼玉県越谷市)内にオープンした。店舗には家電や食品、かばん、ゲームなどが並び、一部の商品はレンタルサービスも申し込める。

2020年8月に1号店を開いて以降、b8taの国内4店舗には約500企業が1000以上の製品を出品している。スタートアップだけでなく、ミツカングループのZENB JAPAN(愛知県半田市)や、味の素のアトリエフローズンなど、大手企業の新規事業における出品も増えている。

b8ta Koshigaya Laketownには、日本初進出となるミールキット最大手の独ハローフレッシュや、米シリコンバレー発のラーメン自動販売機「Yo-kai Express(ヨーカイエクスプレス)」などが出品。注目するのは企業だけではない。同店には今年のゴールデンウイークの期間中に3万人以上が足を運んだという。「出合い」を求めて来店する人も多いのだ。

市民権得る「売らない店舗」

コロナ禍が長引くにつれて「むしろオンラインがレッドオーシャンになっている」(b8ta Japanの北川卓司社長)。各社が実店舗からオンラインへと戦場を移すようになったことで、消費者に自社商品を見つけてもらいにくくなっている実情があるという。

b8taでは「若年層」「ファミリー層」といった具合に、それぞれの店舗で客層のターゲットも明確にしている。このため「消費者との接触回数や認知度を高めたいという企業のニーズに応えられ、消費者にとっても欲しい商品と出合える確率を高められる」(北川氏)。

こうした「モノを売らない店舗」は、b8taだけでなく大丸松坂屋百貨店や高島屋、蔦屋家電などと広がりを見せている。b8ta Japanの北川氏も「売ることを主目的としない店舗が、国内でもだいぶ市民権を得てきた」と手応えを語る。

オンラインショッピングで購入するかどうか迷ったとき、ついつい第三者のレビューを参考にしてしまう人も少なくないだろう。ここには、当事者からの直接的なアピールよりも第三者から得た情報に左右されやすくなる「ウィンザー効果」が働いている。

ただ、中にはいわれのない悪質なコメントや「サクラ」による評価が含まれている場合もある。その意味で、接点を重ねる「ザイアンス効果」を活用することは顧客の心をつかむ上で有効な一手かもしれない。オンライン化が進む今だからこそ、実店舗の存在意義は大きいといえそうだ。

(日経ビジネス 生田弦己)

[日経ビジネス電子版 2022年5月23日の記事を再構成]

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