社員の頑張りを副業解禁でごまかすな 大和証券G鈴木氏

働き方改革の先駆者として知られる大和証券グループ本社・名誉顧問の鈴木茂晴氏。同社社長就任当時から、全国の拠点に所属している優秀な女性が十分に活躍できていないという状況を目の当たりにし、働き方改革に乗り出した。そんな鈴木氏だが、副業制度については異を唱える立場を取る。その真意を聞いた。
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働き方改革の先駆者が副業に「待った!」
将来に対する不安からさまざまな可能性を模索する人が増える過程で、「副業」という働き方が注目を集めているが、個人的には筋の立たない話と感じている。
そもそも、なぜ働き手は将来に不安を感じるのか。制度や待遇を整備し、社員に不安なく働いてもらう企業努力が足りないからだ。成長を感じてもらえる研修体制の整備や、働きがいを高める給与体系といったものに経営資源を投入しないから、社員が不安を感じているのである。
社員に全力で働いてもらえるように、処遇や環境を整備するのは本来、企業の責務だ。それを副業という、一見社員の自主性を尊重する制度で代替させようとしているようにしか思えない。
多くの企業は、従業員の副業を「就業時間外」に行うよう規定している。いくら本業に差し支えない時間とはいえ、夜や休日の空いた時間に別の仕事をしていたら、そのうち本業にも悪影響を与えてしまうのではないだろうか。
必要な人材は手放したくない
副業と同時に「雇用の流動化」という言葉も、筋が立たないと思っている。労働者が会社を移りやすくなれば労働市場が活性化し、産業の発展につながるとの考え方だが、会社側の都合で従業員を解雇しやすくすることも意図されていると思う。企業にとって本当に必要な人材は、手元にとどめておきたいのが本音。活躍できていない人材に流動化してほしい、と言っているようにしか聞こえない。
大企業で要職に就けなかった人材でも、人手が不足している中小企業ならば能力を発揮できるとの議論がある。だがそもそも待遇を大企業と同じか、それ以上の水準にしない限り、会社を進んで辞める人は大勢出てこないだろう。

多くの企業に欠落しているのは、従業員の働きに見合った金銭的報酬、すなわち賃上げなのではないか。日本企業は以前に比べて株主への利益配分は厚くなったが、従業員に対してはほとんど変わっていない。いやむしろ少なくなっている。社会保障費の増大で、可処分所得が減っているからだ。
働きに応じた処遇を整備すれば、従業員のモチベーションは上がり、やりがいや創意工夫を持って仕事をする動きが活発化する。その結果、生産性も上がる。副業を考える人も出なくなるだろう。(談)
(日経ビジネス 武田安恵)
[日経ビジネス電子版 2022年12月22日の記事を再構成]
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