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Amazonにアリババ、仮想お試しでデジタルの限界突破

CBINSIGHTS
電子商取引(EC)での購入が生活にすっかり定着したが、リアル店舗にはかなわない点もある。その代表が、衣料品や化粧品などが自分に合うかどうか確かめる実物でのお試しだ。そうしたデジタルの限界を超えようと、米アマゾン・ドット・コムや中国アリババ集団などのEC大手がスタートアップと組み、「バーチャルお試し」などネット上の新たな購買体験の開発に取り組んでいる。
日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。

オンライン消費が増え、顧客はデジタルを好むようになった。小売りやブランド各社はバーチャルお試しなどオンラインでの買い物体験を強化する技術で速やかに対応している。

バーチャルお試しとは、拡張現実(AR)や映像解析技術(コンピュータービジョン)、人工知能(AI)などを活用し、顧客が自分の画像やアバター(分身)に洋服やメークなどの画像を重ね、そのアイテムがどんな風に見えるかを可視化できるテクノロジーだ。この分野では優れたスタートアップが次々と現れている。

小売りはこのテクノロジーを使って洋服やスポーツ用品、靴など様々な商品を可視化するようになっている。自撮りなどSNS(交流サイト)文化の特性と既存の消費行動を生かし、購入へと至る独自の道を開拓しようとしている。

バーチャルお試しは顧客とのつながりを強化するだけでなく、返品を減らして購入率を高めることで利益率を上げる機会ももたらす。全米小売業協会(NRF)によると、ネット通販で購入した衣料品の返品理由のうち「フィット感やサイズ(が合わなかった)」は42%に上る。

今回の記事では、米アマゾン・ドット・コム、中国のEC最大手アリババ集団、「グッチ」や「サンローラン」などのブランドを傘下に持つ仏ケリング、米スポーツ用品大手ナイキ、米小売り大手ウォルマートのバーチャルお試しでの活動を2017年以降のベンダーとの関係や提携、投資、M&A(合併・買収)活動から読み解く。

この分析は17年以降の投資・提携活動を網羅するのが目的ではない。

ポイント

・AIは通販サイトの商品ページの没入感を高めてダイナミックにし、買い物客が自分自身やよく似たアバターで商品を試して確認できるようにする。先進的な小売りはすでに3次元(3D)モデルや、立体アバターを映す「ホログラム」を使い、買い物客が自分に似たモデルで商品を試して確認できるようにしている。次のステップは消費者にそっくりな合成モデルだろう。買い物客の身体や顔をスキャンできるAIも一人ひとりに応じたおススメを提供し、フィットするサイズの提案を改善できる。将来的には、ボディースキャン技術は当たり前になるだろう。

・バーチャルお試しはブランドが顧客とのつながりを強める新たなルートだ。ブランド各社はバーチャルお試しツールによって実店舗での「発見」の要素をスマートフォンにもたらす一方、消費者のSNSでの行動を生かしてモバイル買い物体験をさらに魅力的にし、個別化することも可能になる。このため、フェイスブック、スナップチャット、ティックトックなどのSNSはショッピング拠点としての地位の構築に乗り出している。

・バーチャルショッピングとメタバース(仮想空間)はさらに広く注目を集めるだろう。バーチャル店舗は厳密にはお試しやフィッティングに関連していないが、買い物客が洋服のフィット感を直接判断する際に求めているものを模倣できる。

アマゾン

アマゾンなどの巨大テックは商取引の分野にさらに手を伸ばしている。同社は今や中国を除く世界最大の小売りで、21年の米国での衣料品の売上高は最も多かった。

アマゾンのファッション事業計画にはバーチャル試着の強化も含まれている。例えば、このテクノロジーを自社で開発する能力を築いており、22年6月には買い物アプリでARを使ってニューバランスやアディダス、リーボックなどのブランドのスニーカーを試着できる機能の提供を始めた。

この分野の取り組みを加速するために、買収も活用している。

米ボディラボ(Body Labs)=関係:買収

アマゾンは17年10月、身体の3Dモデルを作成する米ボディラボを買収した。ボディラボの技術はバーチャルフィット技術に活用できる。

アマゾンは買収の数カ月後、自宅で試着できるARミラーを開発するため「混合現実システム」の特許を申請した。

特許は18年1月に与えられた。この鏡が商用化されれば、利用者はバーチャル環境でバーチャルな服を試着できるようになり、祝賀会でドレスを着用したり、ビーチで新しい水着を着たりした際の様子を確認してから購入できるようになる。

モディフェイス(ModiFace、カナダ)=関係:提携

アマゾンは19年、モバイルアプリで「バーチャルメーク」を提供するため、化粧品世界最大手の仏ロレアル傘下のモディフェイスと提携した。買い物客は自撮り写真のアップロードかカメラを使い、リアルタイムで様々な口紅の色合いを試せる。こうした画像を友人と共有することも可能だ。

将来的にはアマゾンの音声アシスタント「アレクサ」を使った音声ショッピングと、バーチャルお試しは一体化されることになりそうだ。例えば、ロレアルは19年、世界最大級のオープンイノベーション展示会「ビバ・テクノロジー(ビバテク)」で音声を使ったARお試しサービスを披露した。利用者はこの技術を体験し、仮想アドバイザーと話して美容関連の質問をしたり、メークやヘアカラーの色などを音声で簡単に変えてもらったりした。

モディフェイスは米メタ(旧フェイスブック)や米グーグル、シンガポールのシーが手掛けるネット通販「ショッピー」など他の巨大テックや小売り大手とも提携している。

アリババ

アリババは出店企業が消費者に販売するBtoC(消費者向け)のECサイト「天猫(Tモール)」と、CtoC(個人間取引)のECサイト「淘宝(タオバオ)」を運営する中国のEC最大手だ。

アリババはバーチャルお試しに直接投資しているほか、同社のサイトで商品を販売する個々の企業もこのテックを消費者に提供している。例えば、米アパレル大手VFコーポレーションのブランド「ディッキーズ」は21年5月、米3Dルック(3DLOOK)と提携し、Tモールでバーチャル試着サービスを始めた。3DルックはAIを使って2次元(2D)写真からその人の3Dアバターを作成する。アバターは洋服のバーチャル試着やフィットするサイズのおススメに活用できる。

玩美移動(Perfect Corp、台湾)=関係:提携・出資

玩美移動はマニキュアやヘアカラー、メークなどの化粧品を試せるARお試しプラットフォームを手掛ける。

アリババは19年9月、同社のTモールとタオバオにバーチャル・メーキャップを提供するために玩美移動と提携した。アリババは同月、玩美移動のシリーズBの資金調達ラウンドにも参加した。

玩美移動はアリババのほか、米化粧品ブランドのコティやエスティー・ローダー、米ネイルケアのサリーハンセンなどのブランドや小売りとも提携している。

ケリング

高級ブランドはここ数年、メタバースやデジタル素材のNFT(非代替性トークン)、ECなどデジタルのチャネルや交流に大きく傾いている。「バレンシアガ」や「サンローラン」などの高級ブランドを抱えるケリングも例外ではない。同社はここ数年、特に高級ブランド「グッチ」でバーチャル試着テックを試している。

英ドレスト(Drest)=関係:提携

英ゲーム会社ドレストは、アバターの着せ替えゲームアプリ「ドレスト」を手掛ける。同社は19年、このアプリでアバターに高級ブランドを着せるためにグッチと提携した。21年10月にはグッチのコスメ・化粧品「グッチビューティー」との限定コラボにより、バーチャルイメチェンに化粧品も加えた。利用者はメークを試した後、実際の商品を購入できた。

ドレストは仮想着せ替えゲームでグッチ以外にも「バレンティノ」「カルティエ」「プラダ」「オフホワイト」など250以上の衣料品・アクセサリーのブランドと提携している。今後はより多くの美容ブランドや商品を発見できる機能や、利用者が自分にそっくりのアバターを作成できる機能を加える方針だ。

米スナップ=関係:提携

人気SNS「スナップチャット」を運営し、カメラとARレンズも手掛けるスナップは、スナップチャットを没入感が高く、買い物もできる10代など若い世代向けのプラットフォームに転換しつつある。同社は20年、ケリング傘下のグッチをパートナー第1号として「買い物できる(ショッパブル)AR」テックを導入した。消費者はこのテックを活用してグッチのスニーカーを試着し、アプリの「ショップナウ(Shop Now)」ボタンからこのシューズを直接購入できる。

スナップチャットは高級ブランドの通販サイト、英ファーフェッチやプラダ、米アパレルのアメリカン・イーグル・アウトフィッターズなど様々なブランドや小売りとバーチャル試着で提携している。さらに、AR機能の強化や改善のために多くの企業も買収しており、いずれは他社向けに3D素材を作成するサービスを提供する計画だ。AR買い物体験を推進するため、バーチャル店舗や音声制御など他の買い物機能の開発にも取り組んでいる。

ナイキ

スポーツ用品大手のナイキは自らを次世代のEC開拓者と位置付けている。デジタルチャネルでの売上高の比率を21年の35%から25年には50%に高める目標を掲げている。

同社はバーチャル試着での提携だけでなく、3Dスキャンも活用して仮想フィッティングを新たなレベルに引き上げている。同社のアプリの利用者はスマホで自分の足をスキャンし、靴のサイズを測定できる。データはアプリの利用者プロフィルに保存され、オンラインや店舗での購入時に使われる。

ナイキなどのブランドはバーチャル試着向けに3Dスキャンを展開するようになっている。この技術はパーソナライゼーションの拡大と「拡張コマース」の未来を支えるだろう。

米Forma Vision=関係:提携

ナイキは20年12月、ホログラフィック立体動画を手掛けるForma Vision(当時はOMNIVOR)と提携し、米スポーツ用品販売大手フィニッシュ・ラインのサイトでナイキの衣料品のバーチャル試着動画を作成した。

買い物客がQRコードをスキャンして「バーチャルビュー(Virtual View)」を立ち上げると、ナイキのウエアを着たホログラムのモデルが表示される。別のサイズを選ぶとアバターのサイズも変わり、そのウエアのフィット感を確認できる。

北京字節跳動科技(バイトダンス、中国)=関係:提携

ナイキは21年8月、バイトダンスと英スポーツ用品販売のJDスポーツと提携し、バイトダンスが運営する動画アプリ「ティックトック」でシューズのAR試着を実施した。ティックトックの利用者はナイキの(数色の)新しいスニーカーを履いた様子を確認できた。

ティックトックはスナップチャットと同様に、ライブ配信でのショッピングなどコマース機能を次々と追加している。現在はティックトック利用者向けの独自AR機能の開発に取り組んでおり、将来的にはARを活用した買い物体験がさらに増えるとみられる。

ウォルマート

ウォルマートは24カ国で1万500店以上を展開し、世界の年間売上高が5000億ドルを超える世界屈指の小売りだ。ここ2年はECやバーチャル試着などのテクノロジーへの出資や提携を強化している。これにより新たなカテゴリーに事業を拡大し、顧客の利便性を高めて個別化を進め、より多くの顧客データも収集できるようになっている。

ジーキット(Zeekit、イスラエル)=関係:買収

ウォルマートは21年5月、バーチャル試着を手掛けるジーキットを買収し、それから1年以内に自社サイトやアプリでジーキットの技術を展開し始めた。

ウォルマートはいずれ顧客に自分の写真をアップロードし、商品をバーチャル試着できる機能を提供しようと取り組んでいる。将来的には買い物客と友人がスタイルを共有したり、協力したりできるソーシャル共有機能も搭載する可能性がある。

この機能が実用化されれば、ウォルマートのオンライン衣料品のレベルが高まり、商品を見つけやすくなり、それに関する会話も増える可能性がある。同社は顧客についてさらに多くの知見も得て、ターゲットを絞ったおススメに役立てることができる。

ジーキットはリアルタイムの画像処理技術を使ってバーチャル試着システムを手掛け、陰影やしわを加えてより現実的なフィット感をもたらしている。この技術に関連して7件の特許を取得している。

米エイトアイ(8i)=関係:顧客

エイトアイはバーチャル試着など様々な用途のホログラムを作るスタートアップだ。ウォルマートの衣料品ブランド「ボノボス」で、利用者がバーチャル買い物棚から試着したいシャツを選ぶバーチャル試着の開発に取り組んでいる。

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