KADOKAWA、デジタルから書店へ誘客 VR空間で購入も

出版大手のKADOKAWAが顧客をリアル書店に呼び込む取り組みに力を注いでいる。10月から「ニコニコカドカワ祭り2021」を開催し、書店での購入に対するポイント還元や、紙の本を買うと電子書籍をプレゼントする取り組みなどを進めている。背景には長らく紙の本の市場が縮小してきた業界の先行きへの危機感がある。
ポイント還元や電子書籍を贈呈
ニコニコカドカワ祭り2021では10月1日から各種キャンペーンを展開している。10月18日まではKADOKAWAの本を書店で買うと、50%分のポイント還元が受けられた。紙の本を書店で購入すると同じタイトルの電子書籍を贈呈する取り組みも、一部の作品で実施している。書店における紙の本の売り上げ増加につなげる狙いだ。
10月23日からは角川武蔵野ミュージアムにある「本棚劇場」を、仮想現実(VR)で再現した。VR空間内で本を購入できる体験を、全国の書店で展開する。本棚劇場は高さがおよそ8メートル、約3万冊の本を所蔵した空間だ。NHK紅白歌合戦で、アーティストのYOASOBIが「夜に駆ける」を歌った場所として一躍有名になった。
ニコニコカドカワ祭りは電子書籍の読者を書店に、紙の本の読者をデジタルに、双方に誘客する狙いで2014年に開始した。「当時は電子書籍やデジタルの活況がリアル書店に好影響をもたらしている状況にはなかった」。KADOKAWAのデジタルマーケティング課の楫野(かじの)晋司課長はこう振り返る。
アプリ活用が転機に
転機は19年に訪れた。KADOKAWAの本を買ったレシートを読み取り、KADOKAWAのスマートフォンアプリに投稿すればポイントをためられるようにした。ポイントに応じて図書カードをもらえるため、書店の来店誘致につながった。2割程度の売り上げ増に寄与した。

出版科学研究所の調査によると、20年の電子出版市場規模は前年比28%増の3931億円だった。14年(1144億円)の3倍超にまで拡大している。漫画を中心に市場の伸びが著しく、2桁成長が続いている。一方、紙の出版市場の推定販売金額をみると、10年以上にわたって縮小が続いている。20年は1兆2237億円と、10年(1兆8748億円)の65%程度にまで落ち込んでいる。
電子書籍の市場が爆発的に拡大するなかにあって、縮小が続く紙の出版市場やリアル書店にどう効果を波及させていくのかは業界全体の課題だった。楫野氏は「紙と電子をつなげること自体はもっとたくさんのところでできると思っている」と話す。書店限定の取り組みやKADOKAWAアプリの拡張などを含め、今後検討していく予定だ。
(大貫瞬治)
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