/

サプリや化粧品、生体検査で究極の「あなた専用商品」

CBINSIGHTS
一人ひとりにより適切な商品を提案するため、消費者向けビジネスを手掛ける企業が遺伝子や血液などの生体検査の活用に乗り出した。各個人の健康状態や身体の状況を正確に把握し、その人に合ったサプリメント(栄養補助食品)や美容化粧品、運動メニューなどを提供する。究極のパーソナライズ商品ともいえる取り組みで、ペット向け商品にも応用が広がる。プライバシーなどの懸念材料を含む世界の企業の動きをCBインサイツがまとめた。

消費財メーカーは一人ひとりの顧客に適した製品を提供する「パーソナライゼーション」にさらに力を入れており、製品のおススメに人工知能(AI)のアルゴリズムなどのテクノロジーを広く使うようになっている。

日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。

今では、一部のスタートアップが自宅での個人特有の生体情報の検査(バイオメトリックステスト)を活用し、パーソナライゼーションをさらに一歩進めている。こうした検査により健康状態や生体的特徴の変化を数値化し、美容や栄養などの分野で消費者一人ひとりに適した製品を提供する。

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い消費者は一部の医療や健康習慣を自宅で実施するようになっており、自宅での検査やサンプル採取に抵抗感を持たなくなっている。

スタートアップがこの変化にいかに乗じ、消費者の健康データを活用してオーダーメードの製品を生み出しているかについて取り上げる。

ポイント

・生体検査により、消費者へのアンケートよりも個人に適した効果的な製品を生産できる。自宅での血液検査に基づいて顧客に応じたサプリメント摂取プランをたてるスタートアップが伸びている。このタイプはまだ主にアンケート調査によるパーソナライゼーションにとどまるペットや乳幼児向けなどの分野にチャンスをもたらす。

・DNA検査サービスは既に人気だが、的を絞った製品のおススメがこのサービスを新たなレベルに引き上げる可能性がある。消費者は自分の遺伝的体質を理解する手段としてDNA検査を採用している。この分野の企業は消費者が検査結果を食事や運動などライフスタイルの変化につなげられるような提携を検討すべきだ。

・健康状態の継続モニタリングサービスでは、従来の医療手段を使って自宅で質の高い予防ケアを提供している。消費者は今や体内細菌(マイクロバイオーム)検査や血糖のモニタリングにより、自宅で自分の健康をチェックできるようになった。こうした体内細菌の緊密かつ定期的なモニタリングが可能になったことで、消費者は予防ケアに投資できる。

なぜ消費財なのか

消費財メーカー各社はかねてパーソナライゼーションを模索してきたが、技術がなかなか進歩せず、データ収集手段が乏しく、ビジネスモデルがまだ初期段階にとどまるという課題を抱えている。

既存のパーソナライゼーションは消費者へのアンケートなど自主申告のデータに基づいているため、適切とは限らない。こうしたアンケートは一般販売を念頭に置いて開発された既存製品を薦めることも多く、人によっては有効な成果を得られない場合もある。

自宅での検査により腸内細菌や肌のpHの変化など食事や手入れに関する詳細なデータを収集することで、消費財に新たな商機が生まれている。

こうしたサービスで継続的なつながりや新たなデータソースを確保することにより、製品開発に磨きをかけ、さらに的を絞ったアドバイスを提供できる。その結果、消費者は質の高いサービスだという印象を抱き、製品の継続的使用による健康状態の変化を測定することでブランドへの信頼も高まる。

これらの要因がリピート購入を促し、継続的サービスのモデルを構築する。

的を絞ったアドバイス

DNA検査は企業の宣伝などのために無料で提供するノベルティーから、健康サービスへと進化した。こうしたサービスでは利用者が自宅での検査で採取した唾液サンプルを総合的に分析し、健康リスクの遺伝的傾向を示す遺伝子マーカーをチェックする。利用者はそのデータに基づいてどんな食品やサプリを摂取すべきかなど自分の健康について判断を下すことができる。

創業期から遺伝的な疾病リスク検査をしてきた米トゥエンティースリー・アンド・ミー(23andMe)は、2020年末にサブスクリプション(定額課金)サービスを開始した。会員は薬理遺伝学(特定の薬に対する遺伝子の反応)や片頭痛、睡眠のリポートに常にアクセスできる。

米グローベビー・ヘルス(GrowBaby Health)は妊婦を対象にした遺伝子検査を手掛ける。同社のDNA検査はカナダの遺伝子検査企業、DNAライフと共同で開発された。妊婦は栄養士から検査結果に基づく個別の栄養・健康アドバイスを受け、健康な妊娠生活を送る可能性を高められる。同社はこの妊娠健康診断の特許を申請している。

雑種などのペットの飼い主も同様の検査を利用するようになっている。米エンバーク(Embark)や米マースのペットケア事業傘下の米ウィズダム・パネル(Wisdom Panel)などの企業は、ペットの飼い主に犬や猫の品種の構成や、その品種に多い遺伝性疾患についての情報を提供する。マースのペットケア事業は18年、ウィスダム・パネルに加え、品種に応じた栄養素を提供するドッグフードブランド「ロイヤルカナン」も買収した。

一方、米オリジン(ORIG3N)や米リバイブ(REVIV)などのスタートアップはDNA検査を活用して消費者の遺伝子の構成に基づいた食事や運動、美容をアドバイスする。DNAと栄養の直接のつながりを示す有力な長期的研究はないが、様々な病気のかかりやすさは食生活と間接的に関連していることが多い。こうした検査を通じて、消費者に健康やウエルネスについてさらに包括的な視点を提供する。

健康状態の継続的なモニタリングとサービス

消費者は自分の健康をチェックできるようになっているため、より質の高い在宅健康モニタリングサービスがこの市場に参入しつつある。こうしたスタートアップは自宅での生体検査を活用して顧客のデータを収集する。腸内細菌の状態や血糖レベルをモニタリングし、食事や運動、休息に対する反応を追跡することが多い。

例えば、英ゾイ(Zoe)は利用者の体内細菌をマッピングするために、腸や血中脂質、血糖の反応を分析する自宅用の検査キットを手掛ける。同社は結果を処理し、一人ひとりに応じたダイエットプログラムを作成する。利用者はAIが搭載されたアプリで自分の腸の状態を常にモニタリングできる。

米バイオム(Viome)は健康維持に向けたアプローチをさらに一歩進め、サプリや腸内で人体に良い影響をもたらす微生物「プロバイオティクス」を送付し、6カ月ごとに生体検査を実施する月額プランを提供している。会費は月60~200ドルで、こうしたオーダーメードのプランがまだ消費者に広く採用されるには至っていないことを示している。

ペットの飼い主向けには、米ノムノムナウ(NomNomNow)がペットの唾液や排せつ物のサンプルから体内細菌を調べ、食事についてアドバイスするサービスを提供している。同社は人間と同じ品質の独自ブランドのドッグフードやスナックも手掛ける。韓国のフィットペット(FitPet)は尿のサンプルからペットの健康状態をチェックできる自宅での生体検査キットで特許を申請している。慢性疾患を対象にしたオンラインの獣医マッチングシステムも運営している。

常にモニタリングできるのは体内細菌の状態だけではない。例えば、米ニュートリセンス(NutriSense)やリトアニアのタイラー(Tyler)は糖尿病患者用と同様の常時血糖モニタリングにより、様々なタイプの食品や運動、睡眠が健康に及ぼす影響を関知する。こうしたサービスの料金は月150ドルを超える。

特注製品

スタートアップは一人ひとりに完全に合わせた製品を提供するため、生体情報を活用している。栄養や美容などの分野での利用が増えている。

サプリのカスタマイズでは、自宅での血液検査は一般的になりつつある。例えば、インドのサップ(Supp)は自宅での血液検査を提供し、その結果に基づいてカスタマイズしたサプリを3カ月間供給する。ドイツのベイズ(Baze)も自宅での血液検査に基づいてカスタマイズしたサプリパックと栄養アドバイスを提供する。同社は21年2月、米サプリ大手ネイチャーズ・ウェイ(Nature's Way)に買収された。

米ルーティーン(Rootine)は自宅での血液、DNA検査に基づき、一人ひとりに応じたサプリを提供する。同社のビタミンは微粒子で、マイクログラム(100万分の1グラム)単位で栄養素をカスタマイズできる。実際の食品の(栄養素の)吸収を模し、1日中最適な栄養レベルを保てるようカスタマイズしたビタミンを提供する。

一方、米アトラ(Atolla)は自宅で肌に細長いシートを押し当てて検査・収集したデータから皮脂、水分、pHのレベルを測定し、顔用美容液をカスタマイズする。同社の特許取得済みの肌診断では、一人ひとりの肌の要素に加え、季節や居住地などの情報に基づいて成分や最適な配合を調整する。

アトラは自社の処方プロセスをペンキのミキサーに例えている。同社の製品はそれぞれのボトルに同じ成分を同量配合するのではなく、それぞれに特有の成分と量を処方して混ぜる「モジュール式のカスタマイゼーション生産モデル」により製品を生産している。

米ファンクション・オブ・ビューティー(Function of Beauty)は21年8月、オーダーメードコスメの提供を拡大するためにアトラを買収した。

アトラはモジュール式のカスタマイゼーション生産モデルで成功したが、一人ひとりに応じた製品を大量生産する「マスカスタマイゼーション」は一般的にさらに難しく、コストも時間もかかる。サプリは主に個々のカプセルを適量混ぜてビタミンパックにするため、比較的容易だ。

将来的にはカスタマイズした製品を3次元(3D)プリンターで効率的に生産できる可能性がある。例えば、米医薬品大手ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)のスキンケアブランド「ニュートロジーナ」は21年3月、自撮り写真による肌の状態の分析に基づき、3Dプリンターで特注の顔用マスクを生産する試験に乗り出した。

だが、一定の製品には素早い印刷や後処理工程が必要になるため、3Dプリンターでの量産は難しい。3Dプリンターのスタートアップは速度向上に取り組んでいる。例えば、米カーボン(Carbon)は3Dプリンターでつくった部品の仕上げの工程数を減らす新たな方法を編み出した。これは将来、3Dプリンターによるカスタマイズ製品の生産に道を開く可能性がある。

次の展開は

生体検査の利用拡大は乳幼児やペットなど、パーソナライゼーションがまだ主にアンケートにとどまる分野に新たな商機をもたらしている。DNA検査を手掛ける企業とペットフードメーカーの正式な提携はまだないが、米オリー(Ollie)などカスタマイズしたドッグフードのD2C(ダイレクト・ツー・コンシューマー)スタートアップが、さらに科学的な方法で配合したドッグフードを提供する可能性がある。生体検査企業も食料品や料理を手掛ける企業と提携し、一人ひとりに応じた食事を提供できるようになるかもしれない。

生体データを継続的に収集することで、企業は顧客をより的確に理解し、的を絞った効果的な製品を提供できるようになる。これはブランドと顧客の関係長期化や、ロイヤルティー(愛着心)の強化につながる可能性がある。動画や音楽などの配信サービスのおススメ機能がそのプラットフォームと利用者のコミュニケーションを改善するように、消費財メーカーも生体データの収集が増えるのに伴い、より的確なおススメ製品を提供できるようになるだろう。

主な懸念材料は各社のプライバシー対策だ。イスラエルのマイヘリテージ(MyHeritage)などバイオテックや家系を調べる企業による過去のデータ侵害を受け、一部の消費者はバイオメトリクス検査に慎重になっている。各社は顧客の信頼を得るため、プライバシー保護の指針を策定する必要がある。

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

関連トピック

トピックをフォローすると、新着情報のチェックやまとめ読みがしやすくなります。

セレクション

トレンドウオッチ

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン
図表を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した図表はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン