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ソニーが「音のメタバース」 穴あきイヤホンで新体験

日経ビジネス電子版

ソニーは25日、耳をふさがない「穴あき」型のイヤホンを発売する。人と話しながら音楽を聴いたり、オンライン会議をしたりする「ながら聴き」に対応するのが特徴。人気AR(拡張現実)モバイルゲームの「ポケモンGO」を手掛ける米ナイアンティックとのタッグも打ち出した。世界的にワイヤレスイヤホンの市場が激化する中、「体験」で消費者を引き付けられるか。

「本日、ヘッドホンを再定義します。新製品では究極の『ながら聴き』が可能。人生を2倍楽しめる」

ソニーは16日、完全ワイヤレスイヤホン「LinkBuds(リンクバッズ)」を発表した。オンラインで開催した記者会見に登壇したモバイルプロダクト事業部の中村裕事業部長は、「新構造」のイヤホンについてこう自信を見せた。

リンクバッズの特徴は、イヤホン中央に小さな穴を空けて耳を完全にふさがない構造を採用したことだ。スウェーデンの「スポティファイ」など、音楽配信のストリーミングサービスの普及で生活の中でオーディオコンテンツに接する機会が増え、Z世代を中心に「ながら聴き」へのニーズが高まっていることに対応する。

重さは片側約4.1グラムと、現行の完全ワイヤレスイヤホンの主力機種の半分程度に小型化した。ソニーの同ジャンルの製品として最小・最軽量で、装着性も「耳に着けるいるのを忘れるほど」(同社)の感覚という。価格は税込みで2万3000円前後を見込む。

「ポケGO」のナイアンティックとタッグ

ソニーがわざわざイヤホンの記者会見を開催したのは、新構造を採用したからだけではない。「さまざまな企業と連携して新たな音体験を創造する」(同社)ことをアピールするためだ。

会見に登壇した1社が、「ポケモンGO」などAR対応のモバイルゲームを手掛ける米ナイアンティック。同日、両社は視覚が中心だったARモバイルゲームに関して、聴覚分野で協業すると発表した。ソニーの中村氏は、「ソニーが培ってきた立体音響技術とナイアンティックのゲームコンテンツの連携で、ヘッドホンを通じて現実とゲームが融合する驚きの体験を届けたい」と話す。

第1弾として、2022年中にもリンクバッズを使い、ナイアンティックの陣取りゲーム「イングレス」で音声ARを楽しめるサービスを提供する予定だ。神社仏閣などゲームで決められた場所に近づいた際に、これまでは映像で認識していたのが、音で認識できるようになり、より五感でARゲームを楽しめるようになるという。ナイアンティック日本法人の村井説人社長は「まさにリアルワールドメタバースだ」と力を込める。

ワイヤレスは競争が激化

現在、世界のワイヤレスイヤホンの市場は、苛烈な競争のまっただ中にある。市場をけん引してきた米アップルですら、ライバルの台頭などでシェアを落としている。香港の調査会社であるカウンターポイントによると、21年第2四半期(4~6月)にアップルは世界首位を維持したもののシェアは23%と、前年同期比で12ポイント下落した。中国の小米(シャオミ)や韓国サムスン電子、米JBLなどライバルの猛追を受けている格好だ。

アップルは21年秋に、第3世代となる完全ワイヤレスイヤホン「AirPods(エアーポッズ)」を発売しており、足元のシェアは変動している可能性はある。それでも、18年第4四半期にはアップルのシェアが6割に達していたことを考えれば、「アップル1強時代」は終焉(しゅうえん)を迎えつつあるといえるだろう。完全ワイヤレスイヤホンでは、2000円未満の製品も増えており、魅力的な機能を打ち出せなければコストパフォーマンスが重視される傾向はより強まっている。

ソニーが新たに打ち出すのが、身に着けることで得られる新たな「体験」だ。今回のイヤホンは、ARゲームだけではなくスポティファイなどの音楽のストリーミングサービスを簡単に起動できる機能なども盛り込むことで、実世界と音楽やゲームの境目がなくなる体験が実感できると訴える。

音による体験価値の向上はヘッドホン以外では実証済みだ。ユニバーサル・スタジオ・ジャパンのローラーコースター「ハリウッド・ドリーム・ザ・ライド」は、コースターの解放感と一人一人が自分で選んだBGMを耳元のサウンドで聞けるアトラクションとして大ヒットした。実世界とオーディオは組み合わせ方次第で、全く違う体験ができる例の一つといえるだろう。

アップルもサムスンも「体験」に重点

世界の大手はすでに「体験」に競争軸を移しつつある。アップルが発売した第3世代のエアーポッズは、スマートフォンのソフトと対応させて使うことで映画やオーディオの音を立体的に感じられる「空間オーディオ」と呼ばれる新機能を追加。19年では上位機種「エアーポッズプロ」にのみ搭載していたが、普及モデルにも盛り込んだ。映画館などで人物や動物などの動きを感じるような音に包まれるオーディオ体験をイヤホンでも体感できるようにしたという。

左右のイヤホンから出る音声に「指向性オーディオフィルター」と呼ばれるデジタル処理をすることで前後左右や高さなどの方向を含むサラウンドの音を疑似的に作り出す。イヤホン内の加速度センサーなどの情報をもとに体の向きとの位置関係を解析し、没入感を高める仕組みもある。

海外では21年1月に発売され、同年4月から日本にも投入されたサムスン電子の「ギャラクシーバッズプロ」も、同様の空間オーディオ技術に対応している。

米調査会社のリポートオーシャンによると、ワイヤレスイヤホンの世界市場は20年に約22億2000万ドル(約2500億円)で、21~27年にかけて年率5.8%以上成長する見通しという。ソニーは体験価値向上へ他社との連携に踏み切った。今後はイヤホン単独ではなく、コンテンツに紐(ひも)づいた「ソフト」の競争が加速しそうだ。

(日経ビジネス 西岡杏)

[日経ビジネス電子版 2022年2月21日の記事を再構成]

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