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「金融×モビリティー」で起業 社会的弱者を支える

グローバルモビリティサービスの中島徳至社長。信用実績の少ない人向けモビリティーサービスを東南アジアや日本で開始。デンソーやソフトバンクなどが出資する
日経ビジネス電子版

信用実績がなく自動車ローンなどの審査が下りない社会的弱者は世界に17億人いるといわれる。こうした層に金融とモビリティーを組み合わせたサービスを提供し、経済的な自立を促す。

フィリピンの首都マニラ近郊にあるナボタス市。この街で移動に欠かせないのが、トライシクルと呼ばれる三輪タクシーだ。トライシクルといえば後輪の間から黒い排ガスをもうもうと吐き出すタイプが一般的。だが同市では排ガスの発生が少ない新型のトライシクルが走り始めた。

フィリピンでは大気汚染など環境対策の観点から、旧型のトライシクルから新型に移行する動きが活発になっている。ただ、買い替えようにもトライシクルは1台約30万円。フィリピンの平均月給の約6カ月分に当たる金額だ。一方、運転手は9割が貧困層で、自動車ローンの審査が通らなかったり、お金が借りられなかったりする社会的弱者だ。そのため、なかなか新しいモデルのトライシクル購入が進まなかった。

貧困も環境問題も解決できないか。そんな社会課題の解決を目指すのが、グローバルモビリティサービス(GMS、東京・港)が提供する金融とモビリティーを組み合わせたサービスだ。「頑張る人をすくい上げる。そんな金融包摂型の企業を目指す」と中島徳至社長は話す。

17億人のニーズに応える

GMSは遠隔で制御できる電子機器を車の内部に装着し、ファイナンス企業が1カ月ごとにローンやリース料金を運転手から集める。運転手はGMSの機器を装着することを条件に、新車を利用できる。

もしローンの返済が滞った場合には電子機器を作動させ翌朝にエンジンが動かないようにする。GMSの機器から取得できるデータを使えばファイナンス企業は貸し倒れリスクを抑えることができ、運転手側はローンを払い終えれば車の所有者となる。

GMSによると、世界には信用実績がなく自動車ローンなどの審査が下りない社会的弱者は17億人いるという。だが多くのモビリティー業界の企業はこれまで、クレジットカードを保有する人やローンを組める人を顧客とするケースが多く、社会的弱者に目を向けてこなかった。GMSは社会的弱者のニーズに応えるサービスを提供する。

他のサービスと異なるのは、GMSが貧困層の生活を熟知していることだ。フィリピンの貧困層の家、生活スタイルなど1000人分のデータを独自に集め、サービスに生かしているという。「調査会社に聞いてもデータを保有していなかったので、僕たちがやろうとフィリピンの家庭で寝食を共にし生活してきた」(中島社長)

浮かび上がったのは、生活がかかっているからこそ真面目な働き手が多いことだ。そのためGMSはローンが滞ったらすぐにサービスを遮断するのではなく、コンビニエンスストアなどで支払いを済ませれば即座にエンジンを動かせる仕組みにした。結果、フィリピンでの債務不履行率は0.9%にとどまっている。

真面目に返済を続けたドライバーが新たなチャンスをつかむこともできる。トライシクルを資産として信用実績が積みあがることで、タクシーのドライバーになるための自動車ローンや、子供の教育ローンを組むこともできるからだ。

「いくら頑張っても貧困から抜け出せない人たちがいる。車と金融サービスをつなぐことで、真面目に働いた人が報われる社会にしたい」と中島社長は言う。

起業1社目は事業譲渡

中島社長にとってGMSは3社目の起業となる。1994年に立ち上げた起業1社目のゼロスポーツは、大手自動車会社に向け純正部品を製造し、98年には電気自動車(EV)の開発・製造にまでこぎ着けた。スタートアップでは取得が困難といわれる国土交通省の型式認定も取るなど技術力は高く、中島氏自身も電気自動車普及協議会のメンバーとして、EVの販売拡大に力を入れていた。

だが2010年、ゼロスポーツは突如事業譲渡に直面する事態となった。

同社は大手政府系企業と約1000台のEVの受注契約を結んでいた。仕様に変更が生じ、納期に遅れが出たことを理由に、大手側が契約を解除したのだ。既にゼロスポーツは量産に乗り出していたにもかかわらず、大口の契約先を失った。EVスタートアップの旗手として注目されていたが、一転、事業の譲渡を迫られた。

ゼロスポーツは事業をBEMAC(旧・渦潮電機、愛媛県今治市)に譲渡したが、その後見事に事業を復活。アジア開発銀行(ADB)が進めていたトライシクルのEV化で、リーダーとなったコンソーシアムが3000台の受注を獲得した。

中島社長は「EVの開発をするだけではなく、車、借りる人、金融機関をつなぐサービスを提供したい」との思いから13年11月にGMSを立ち上げた。20年3月期の売上高は12億3800万円に上る。

遠隔制御デバイスの装着数。GMSのサービス利用は年々倍増している

現在、フィリピンだけではなく日本でもGMSのサービスの提供が始まった。就労経験の乏しいシングルマザーや派遣社員といった信用実績の低い人がGMSのサービスを使うことで、配送ドライバーの仕事に就ける事例も増えている。

19年には大垣共立銀行と提携し、20年には社会課題を解決するスタートアップとして内閣府の第2回日本オープンイノベーション大賞経済産業大臣賞を受賞した。「自動車業界はソフトとハードが融合する時代。物としての価値だけではなく、豊かな生活を担う手段としてこれからもサービスを提供していきたい」と中島社長は夢を描く。

(日経ビジネス 大西綾)

[日経ビジネス 2021年4月19日号の記事を再構成]

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