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グリコがアイス再生 消費者ニーズより困りごとを解決

日経ビジネス電子版

「おいしさと健康」。これは、アーモンド入りキャラメル「アーモンドグリコ」や酵母入りビスケット「ビスコ」を世に送り出した江崎グリコのパーパス(志)だ。健康寿命が重視される今、同社のパーパスが持つ社会的意義はますます大きくなっている。

パーパスを大事にしながら、消費者の心理に合わせて商品の姿・形を変える必要もある。それを実行し、再生したのがアイス「SUNAO(スナオ)」だ。

「糖尿病の患者でも安心して食べられるアイスはつくれないでしょうか?」――。管理栄養士のそんなひと言から、江崎グリコは健康的に食べられるアイスの研究を始めた。2000年代初頭のことだ。

03年、80キロカロリーの「カロリーコントロールアイス」を発売した。ダイエットブームの追い風もあり、販売は好調だった。しかし、10年ほどすると売り上げが伸び悩んだ。時代の流れとともに、何かが変わり始めていた。

女性にとって「恥ずかしい」商品

カロリーコントロールアイスは健康管理の領域で使われる考え方「ハイリスクアプローチ」に基づいて開発した。これは健康リスクの高い消費者を対象として考え、その人々の健康を取り戻すことを狙いとする。

おいしさとダイエットを両立させたアイスではあった。だが「健康に課題がある消費者に向けた商品」という印象が拭えなかった。そして消費者調査の結果、多くの女性がこう考えていることが分かった。

「ダイエット目的で買っていると思われて恥ずかしい」

「消費者調査の結果にショックを受けた」。カロリーコントロールアイスを担当していた健康事業マーケティング部の木村幸生執行役員は当時の胸中を明かす。

江崎グリコの社名に入る「グリコ」は、カキに含まれるグリコーゲンに由来する。薬種業を営んでいた創業者の江崎利一は、滋養強壮に効くこの成分を病人の「薬」ではなく、健康な人の「お菓子」として売り出した。

「病気の予防」は同社の企業理念。カロリーコントロールアイスに携わったメンバーたちは、理念を形にした商品だと信じていた。しかし、時代の流れによって、より多くの消費者が本当に求めるものから少し外れていた。

ニーズをなぞらない

木村執行役員はここで、創業時の志を深掘りしながら、商品プランを練り直す。「おいしさと健康」を別のアプローチで再考した。ハイリスクアプローチでいつの間にか「薬」のように考えていたアイスを、より幅広い顧客かつ社会的な健康向上に資する商品に再生しよう――。

木村執行役員は、病気の予防という理念に立ち返り、多くの人が少しずつリスク要因を減らせる「ポピュレーションアプローチ」で再考した。そして、健康に関する視点を「カロリー」から「糖質量」に置き換えた。

カロリーコントロールは「病後」を連想させるため訴求できる消費者が限られがちだが、糖質制限は「予防」に主眼を置くことで健康に関心の高い層の興味を引くことができる。

消費者の求めるニーズは「おいしくて太らないアイス」にある。ただ、多くの人々は自分が痩せようと努力している姿は見られたくない。その恥ずかしさがカロリーコントロールアイスを食べたい消費者のジレンマとなる。「ニーズ(需要)をなぞった商品ではなく、消費者のペイン(困りごと)を解決する商品が必要になっていた。そこで商品開発の考え方をがらりと転換した」と木村執行役員は言う。

徹底して学ぶ創業の精神

その結果生まれたのが、17年にカロリーコントロールアイスをリブランディングした「SUNAO(スナオ)」だ。

SUNAOは低カロリーを維持しながら、ダイエットを連想させないパッケージにしており、一般的なアイスと見た目は変わらない。ニーズを超えたペインを掘り下げるマーケティングが奏功し、SUNAOシリーズはアイスから商品ラインアップを拡大、同ブランドのビスケットが開発された。20年からはリゾットを発売するなど、お菓子から食事の領域まで広がりを見せている。

江崎グリコは22年、創業100年を迎える。

同社は戦後、商品の種類を広げ過ぎ、キャラメルなど旗艦商品を残す形で結局、取捨選択することになった時期がある。また、高度成長を経て日本が豊かになるにつれ、片手で食べられるような便利な商品の開発に注力し、氷菓「パピコ」やスナック菓子「プリッツ」を生み出した。

そうした中でも、健康をパーパスとする商品開発やマーケティングは受け継がれてきたという。

同社では新卒、中途採用にかかわらず、入社時に全員が「創業の精神研修」を受講する。江崎利一が生涯持ち続けた創意工夫、「2×2=5(ににんがご)」のグリコ精神も、江崎記念館を訪問して学ぶ。

入社後、江崎勝久社長が社内通信で定期的に創業の精神を語り、リーダー研修にも組み込むなど徹底して「我々はどこから来たのか」を考える機会をつくる。

この基礎訓練が次の100年に向かう道を歩む筋肉を育てる。江崎利一は「食品による国民の体位向上に貢献する」ことを創業の理念とした。この理念は時代に合わせて「おいしさと健康」に表現を変えたが、「食品事業を通じて社会に貢献する」という精神は不変だ。

良薬口に苦しという考え方では広く商品が売れない。とはいえ、おいしいだけの食品は企業理念に反する。江崎グリコが時代の激変に耐えてきた理由は、「食品による国民の体位向上に貢献する」という羅針盤を持ち、時代に合わせてその読み取り方を磨いてきたからに他ならない。

(日経ビジネス 江村英哲)

[日経ビジネス電子版 2021年10月21日の記事を再構成]

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