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アダストリアが新業態、商品も働き方も変えた店の形

日経ビジネス電子版
アパレル大手アダストリアの業績が好調だ。主力ブランドの「グローバルワーク」を中心にカジュアル衣料を伸ばしている。そして、新たなニーズと人手不足という課題に挑戦し、新たなブランドを立ち上げた。変化する需要に敏感に対応したという同社の新業態とは。

3月15日、アパレル大手アダストリアは、人気ブランド「GLOBAL WORK(グローバルワーク)」から派生した日常着ブランド「Smile Seed Store(スマイルシードストア)」の商品を発売した。

まず自社電子商取引(EC)サイト「.st(ドットエスティ)」で販売を開始し、3月中に実店舗も開店する。この背景には、顧客の価値観の変化がある。グローバルワーク営業本部長の太田訓執行役員は「マスマーケット(大衆市場)ではリーズナブルな価格は当たり前になっている。だが、安いだけではなく、納得感のある商品でないと買っていただけない」と話す。この需要に応える新ブランドは、5年で150店舗規模の展開を目指す。

アダストリアの売上高は2015億円(2022年2月期)で、国内アパレル業界では3位。22年3〜11月の連結決算では、純利益が前年同期比2.2倍になり、原材料高や外出自粛によるマイナスの影響を押し返している。23年2月期通期の既存店売上高は前年比112.4%だった。「ニコアンド」「ローリーズファーム」など、グループで30を超えるブランドを国内外で約1400店舗展開し、子どもから大人まで、幅広い年齢層に向けたブランド・商品を扱っている。

グローバルワークは売上高の約2割を占める主力ブランドで、対象は主に子どもや20〜30代。お出かけ需要などに応えるファッション性やトレンド要素の高い商品を扱う。23年2月末時点で、ECサイト含めて国内205店舗、海外13店舗を展開している。マスマーケットを捉えることを目指すグローバルワークが、新しい市場を開拓するためにオープンするのが新業態のスマイルシードストアだ。

低価格、ベーシックに活路

新業態の特徴は、低価格でベーシックな日常的に使うアイテムをそろえたところだ。靴下やインナー、部屋着などを拡充させ、従来のトレンドを取り入れた商品とは一線を画する。太田氏は「今まで、アダストリアにもグローバルワークにもなかったマーケットへの進出だ」と話す。

他社との差別化ポイントは「素材」。自社内に生産機能を持つため、独自に素材を開発して、リーズナブルな価格で販売することができる。太田氏は「お客様に支持してもらうには、お客様が欲しいと思う商品を具現化するのが一番の近道。スマイルシードストアで扱う素材は、ほとんど新たに開発した」と話す。顧客のニーズは、グローバルワークで培った経験やECサイトのデータ分析を活用する。

「出店場所」にも特徴を持たせる。新型コロナウイルス禍で「より身近な人や地域とのつながりを重視する価値観が芽生えた」(太田氏)と考え、これまでは出店してこなかった、地域密着型ショッピングセンターや総合スーパーなどへの出店を予定している。日常生活の動線に近い場所に出店することを意識し、「近隣のスーパーの売り上げも1つの指標にしながら場所を決めている」とR&D本部グローバルワークディレクターの伊大知進子氏は言う。

人手不足への対応

5年で150店舗を達成するためには、人手の確保も欠かせない。転職支援サービス「クリーデンス」によると、22年7〜9月のアパレル・ファッション業界の転職求人倍率は2.43倍。20年10月の調査開始以降、初めて2倍を超えたという。採用が難しくなっている中で、従業員の働きやすさや効率化は必須だ。

スマイルシードストアでは、接客業務の見直しと作業の効率化で現場の負担軽減を図る。太田氏は「店舗運営をしてきた店長やスーパーバイザーの経験を生かして、アイデアを積み重ねた」と言う。

まず、工夫したのは商品を置く棚だ。棚の上部には商品や素材の説明、価格などを記した店頭販促(POP)を設置。これらの場所を固定することで、来店客は欲しい情報を探しやすくなった。結果として、従業員が説明する必要を減らせる。POPの形状や場所を統一することで、改変があったときの従業員の手間も軽減できる。

少人数で運営する工夫

次に、レジのカウンターは従来より広めにして、来店客が少ない時間帯に品出しの作業をできるようにした。これにより、これまで2人必要だった業務が1人でできるようになった。また、試着室やレジ、バックヤードをつなぐスタッフの動線を工夫して、効率よく動けるようにした。これらによって、少ない人数で店舗を運営できるようにするという。

アパレル業界は商品のトレンドや生活スタイルの変化に合わせた商品開発が重要だ。しかし一方で、従業員への配慮も欠かせない。グローバルワークは、自社製造と各種のデータ分析という強みを生かしながら、シェアの拡大を目指す。

(日経ビジネス 藤原明穂)

[日経ビジネス電子版 2023年3月20日の記事を再構成]

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