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「ウクライナ危機で生産は複雑化」 ミネベアミツミ社長

日経ビジネス電子版

新型コロナウイルス禍が引き起こしたサプライチェーンの混乱に追い打ちをかけるウクライナ危機。既にその影響は物流面に出始めている。日本の製造業は様々な試練をどう乗り越えてきたのか、そしてどう乗り越えようとしているのか。タイやカンボジアなど東南アジア各国に大規模な生産拠点を構えるミネベアミツミの貝沼由久会長兼社長に話を聞いた。

――ウクライナ危機が世界を揺るがしています。影響をどう見ていますか。

「当社のロシアでの売り上げ規模は大きくはありません。ただ、資源やエネルギーの価格高騰といった形でかなりの影響が出る恐れはあります。政治的な問題でもあり我々ではとても予測がつきませんが、しばらく大変な状況は続くでしょう」

「足元ではアジアでも地政学的なリスクは高まっているし、物流も停滞している。様々な要素が複雑に絡み合い、ややこしい問題が起きています。ただ経営の本質はリスクマネジメントです。我々はできることを淡々とやっていきます」

――ウクライナ危機が起きる以前から、製造業のサプライチェーンは新型コロナ禍により大きく混乱してきました。たとえば昨年は感染拡大で稼働がままならなくなる工場が相次ぎました。どう対応したのでしょうか。

「繰り返しになりますが、経営の本質はリスクマネジメントにあります。新型コロナ禍にあっても対策を徹底することで、お客様に迷惑をかけるような事態を避けることができました」

全拠点参加の対策会議、130回以上開催

「2年前の1月29日、私は自ら本部長となり『新型コロナウイルス対策本部』を立ち上げました。世界的な感染拡大が始まったばかりの頃です。接触したり、飛沫を吸い込んだりすることで感染リスクが高まると想定し、しゃべらず、手を清潔にするということを徹底する必要があると考えました」

「対策は『私語禁止』というステッカーをそこら中に貼るとか、携帯用のホワイトボードを使って意思疎通をするとか、一つ一つの取り組みを見れば至極単純なものです。問題は、こうした対策をいかに早く、世界27カ国に展開する全拠点で共有できるか、いかに従業員の一人ひとりに徹底させられるかということです」

「そこで全拠点から350人以上のスタッフが参加するオンライン会議を毎週開催してきました。2月末の段階で開催数は130回を超えています。資料や具体的な対策を全拠点で共有し、瞬時に展開していったのです。我々が新型コロナ禍を今まで乗り越えることができた最大の要因はここにあると思います。一つ一つの意思決定がトップダウンでなされ、きちっと隅々まで浸透する。これは当社の最大の強みです。おかげで拠点が位置する地域で封鎖措置が取られる以外で、工場の稼働が止まることはありませんでした」

「マスクやゴム手袋など必要な備品も各拠点に必要十分な量を供給してきました。マスクについてはウイルスをカットできるフィルターのついたものを自社生産までしています。また取引先で感染が拡大した際は、こちらから指導に向かい感染対策を伝えました。考えられる、ありとあらゆる対策を徹底的に実施してきたと思います」

「工場は止まっていないものの、一部の工場の一部の生産がスローダウンするということはありました。ただ私たちは世界各国の拠点で同じようなものを作っているので、相互に商品を融通し合うことができます。たとえば中国製のものを一時的にカンボジア製にするなどして乗り切ってきました。もっとも、こうした相互融通の事例は多くはありません。感染対策を徹底することで各工場が生産を続けることができたからです」

――新型コロナ禍を受けて、製造業の間ではサプライチェーンを見直す動きが出ていると思います。未曽有のリスクに耐えるために、いわゆる「地産地消」を進めるべきではないかといった見方や、日本に生産を戻すべきだという議論も出ています。

「地産地消に越したことはないかもしれません。ただ現実は難しいでしょう。たとえば米国で販売するから米国で作ろうという話になっても、製造業に人は集まりにくいですし、賃金もものすごく上がっています。こうした課題を乗り越えて地産地消を実現するには、相当なレベルで自動化を進めるなど特殊な対策が必要です」

「いわゆる国内回帰についてはどうでしょうか。日本に生産を戻すべきだという議論があることは理解していますが、これも現状ではまずあり得ないでしょう。圧倒的に人手が足りないからです。たとえば当社は半導体を日本で生産しています。かなり自動化が進んでいるのですが、それでも人手が足りない。解決の道は2つしかありません。少子化を止めるか、外国人労働者の受け入れを進めるか。いずれにせよ、これは政府が対応しなければならない問題だと思います」

人材の価値はお金には換算できない

「一方で、東南アジアではまだまだ人材を採用することができます。ですから、現状では物流コストをかけたとしても、東南アジアで生産することが合理的なのです」

――中長期的には東南アジアの事業環境も厳しくなると思います。工業化が進んだ国では生産コストが上昇しています。ミネベアミツミの大規模拠点があるタイはその典型です。人件費の上昇や少子化が進んでおり、製造業の拠点としての魅力が薄れているという見方が広がっています。

「我々のように大規模に生産を手掛ける企業にとって、新しい拠点を立ち上げるのは容易ではありません。土地を確保して建屋を造れば生産できるというのではなく、現地政府との交渉から人材の育成まで、ものすごい時間とコストがかかるものなのです。教育については、現場の作業員だけでなくてマネジメントができる人まで育てる必要があります」

「一方で、我々はタイに進出してもう40年になります。その間に延べ40万人もの人々を雇用し、今も約4万人もの人々が働いています。長い歴史のなかで、様々なノウハウを持ち、リスクマネジメントができ、そして当社の理念まで理解している優秀なエンジニアやマネジャーが育ちました。彼らの価値はお金には換算できません」

「先ほど、経営の本質はリスクマネジメントにあるとお話しました。ある特定の産業向け製品に依存するリスクは高い。そこで当社は様々な産業、分野向けの部品を展開してきました。ある分野が落ち込んでも、別の分野で盛り返せるからです」

「これは工場から見てもリスクマネジメントになります。一つの分野に依存していては、その分野の需要が落ち込んだ途端、余剰人員が出てしまう。様々な商品に対応できればリスクは避けられます。そして人材が育っているタイの大規模拠点であれば、需要の変化に柔軟に対応して生産ができる。そこで今回、タイに多目的工場を建設することを決めました。ここでなら既存の設備や組織を十分に活用できるというメリットもあります」

「商品に差異化は不可欠ですが、工場も同じなのです。40年もの間、多くの人を雇用し続けてきた実績と評価があるから、今でも『ミネベアミツミの工場ならば』と人が十分に集まってくる。タイは人件費だけを見れば確かに競争力は低下しているのかもしれません。ですが、それを補って余りある財産がここには蓄積されているのです」

(日経BPバンコク支局長 飯山辰之介)

[日経ビジネス電子版 2022年3月22日の記事を再構成]

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