大変革期の必要人材、求められるのは「全体最適力」
奔流eビジネス(D4DR社長 藤元健太郎氏)
経済産業省が先日発表した「未来人材ビジョン」が話題だ。テクノロジーの進展や脱炭素化などにより、あらゆる産業が大変革期を迎える状況や日本の産業競争力の低下、生産労働人口の減少といった事実を踏まえ、雇用・人材育成と教育システムについて大幅な転換を提言している。
日本ではこれまで画一的だが高い教育水準で社会に送り出された人材が、長期間の安定した雇用環境で企業と一体となるシステムが強い現場を生みだした。

工場では現場の労働者が日々改善を考え、細かい改善の積み上げが世界最高水準の品質の製品を送り出すことを可能にした。サービス業では現場の従業員がお客様第一の接客をこなし、店の商品を盗む社員などほとんどいない高いモラルとおもてなし力を実現した。
しかし、残念ながらデジタルトランスフォーメーション(DX)などでは逆のことが求められる。工場では大量に集められたデータからコンピュータシミュレーションにより、人間が考える改善の1万倍のスピードで最適解が計算される。
米国のスターバックスは日本的なおもてなしの居心地のよいサードプレイスとして拡大したが、今や売り上げの3分の2はデジタルを駆使したドライブスルー、モバイルオーダー、デリバリーと変化している。
こつこつと努力する人材は部分最適には向いているが、今求められるのは社会の変化やデジタルテクノロジーで全体がどう変化するか、そのために自分はどういう価値を生み出したいかを考える全体最適力だ。現場に任せて安心していた経営者も自らが全体最適な構想力がないと、そうした人材を登用しなければいけない現実に迫られている。
今後社会で求められる人材は自ら「ありたい未来を構想」し、「自らの手で実現」するために、新しい技術を夢中で研究開発したり、必要なスキルを自分で探して身に付けたりできる人だ。そして、新規事業を立ち上げたり起業したり、社会にビジョンを発信するような力を持った人だ。
そのためには知識教育偏重な画一的な教育システムから一刻でも早く脱皮し、自分が夢中になれる分野を発見して気づき、自分で必要な知識へのアンテナを張りに行くことを教える教育への転換が必要だろう。
それは学校教育だけでなく、卒業後も多様な仕事を経験しながら、平行して継続的な学習が重要になる。

社会に必要なスキルも日々変化する。「リスキリング」という言葉が広がっているが、今はデジタルスキルひとつとっても知識は日々のアップデートが当たり前になった。未来を見通す力から俯瞰(ふかん)的に自分のスキルの広げ方を考えることが当然の時代になり、時には現状スキルを否定し、新しいスキルに移行する柔軟さも重要になる。
一方で働き方も多様になるため、大学も4年で卒業しないで在籍しながら就職や仕事をする選択肢もどんどん増やすべきだろう。現在の終身雇用型就活システムも廃止し、ジョブ型雇用への転換はまったなしだ。
日本の未来のために学生から社会人、経営者まで全ての人が自らの「人財力OS」を昭和バージョンから令和バージョンに入れ替える時期に来ていることは間違いないだろう。
[日経MJ2022年8月26日掲載]