/

新たな法人形態の議論 公益重視型、具体的な規定作り鍵

Earth新潮流 日本総合研究所常務理事 足達英一郎氏

NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞日経産業新聞 Earth新潮流

6月7日、「経済財政運営と改革の基本方針2022」(骨太方針2022)が閣議決定された。「新しい資本主義へ」と副題が付いた文書で、筆者が注目したのは、「新たな官民連携の形として、民間で公的役割を担う新たな法人形態の必要性の有無について検討することとし、新しい資本主義実現会議に検討の場を設ける」との一文だった。

米国には30以上の州で、ベネフィット・コーポレーションという法人格が存在している。付属定款に社会や環境に実質的なプラスの影響をもたらすことを企業目的として明記し、非財務的利益の考慮を求める取締役の拡大された信託義務と第三者機関の基準に照らして、社会的かつ環境的業績を報告する義務を負う代わりに、ベネフィット・コーポレーションという呼称を使えるという法制度である。

NPOである必要はなく、税制上の優遇措置もない。だが従業員、取引先、顧客に対して自社の存在意義をアピールできるとして、こうした法人格を選択する企業が存在する。

公益追求企業を制度化

事業継続のための一定の利益創出を前提にしつつ、公益も追求する企業を制度化する試みは英国、ドイツ、フランス、イタリアなどでも実践されている。先進国だけではなく、例えば南米コロンビアは、米国と同様の法人格を、2018年から導入している。

ただし、こうした法人格に対して懐疑的な見方もある。理由としては「社会や環境に実質的なプラスの影響をもたらす」といっても厳密に立証できるわけではなく、「名ばかり」なものとして人々を幻惑させるだけだという指摘が代表的なものだ。

実際、米国コロラド州の場合を例にとれば、公益とは株主以外の人、組織、地域コミュニティーへの正の影響もしくは負の影響の削減を意味するものとする。芸術や慈善、文化、経済、教育、環境、文学、医学、宗教、科学、技術といった特性を持つ領域を含むとする幅広い例示があるだけである。

翻って日本の場合には、「社会や環境に実質的なプラスの影響をもたらす」企業を別格に取り扱う制度はまだない。他方で一般財団法人、一般社団法人、公益社団法人、公益財団法人、NPO法人、学校法人、医療法人、社会福祉法人、各種組合などが「社会や環境に実質的なプラスの影響をもたらす」ことを志向する組織の受け皿となってきた。

このうち「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律」では、「学術及び科学技術の振興を目的とする事業」や「文化及び芸術の振興を目的とする事業」など23の事業を公益目的事業と規定している。

NPO法では「保健、医療又は福祉の増進を図る活動」、「社会教育の推進を図る活動」、「まちづくりの推進を図る活動」など20種類の分野に該当する活動であることが認証要件となっている。いずれの場合も、事業活動の内容を厳密に評価するものにはなっていない。

労働者協働同組合

わが国では新たな法律によって、2022年10月から労働者協同組合という法人格が生まれる。組合員が出資し、それぞれの意見を反映して組合の事業が行われ、組合員自らが事業に従事することを基本原理とする組織だ。営利目的で事業を行ってはならず、出資配当は認めないとしているが、成果を分配するための剰余金配当が認められている点に特徴がある。

興味深いのは「労働者協同組合は、事業が行われることを通じて、持続可能で活力ある地域社会の実現に資することを目的とするものでなければならない」とする一方、行ってはならない事業は労働者派遣事業のみとしていることだ。

「社会や環境に実質的なプラスの影響をもたらす」ことをうたうといっても、個別根拠法で一対一に定めているものを別にすれば、公益目的事業とは何かを必ずしも具体的に限定列挙してこなかったというのが、これまでのわが国の実情だといえよう。

具体的な規定づくり

ただ、足元では野心的な試みも出てきている。環境省の定める「グリーンボンドガイドライン」では、グリーンボンドで調達する具体的な資金使途の例として、「再生可能エネルギーに関する事業」「省エネルギーに関する事業」のような10の大項目で示すグリーンプロジェクトを記載している。おのおのの環境改善効果開示に当たって用いるべき指標も示している。現在は、その改定作業が進んでいるが、内容はより詳細化される予定である。

金融庁が事務局を務めるソーシャルプロジェクトのインパクト指標等の検討に関する関係府省庁会議及びソーシャルボンド検討会議でも、「ソーシャルプロジェクトの社会的な効果に係る指標等の例(案)」を公表して、6月29日までの意見募集を実施している。ここでは、17の社会的課題を掲げ、具体的なソーシャルプロジェクトの例を示している。

そのいずれも「あくまで例示であり、これらに限られるものではない」との趣旨が強調されているが、これまでの公益目的事業の規定に比べると、格段に具体的である。

新たな法人形態の議論では、当該法人の行う事業内容を詳細に規定すれば、民間の創意工夫をそぐことにつながる。しかし広範かつ抽象的規定では「名ばかり」の存在が紛れ込むことになる。

この粒度は、昨今の世界的な「ESGウォッシュ」批判や今後のわが国の環境・エネルギー政策のあり方とも関連する。「社会や環境に実質的なプラスの影響をもたらす」をどう担保するのか、新しい資本主義実現会議に設けられる検討の場は、重要な決定を担うことになるのは間違いない。

[日経産業新聞2022年6月24日付]

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

日経産業新聞をPC・スマホで!

スタートアップに関する連載や、業種別の最新動向をまとめ読みできる「日経産業新聞」が、PC・スマホ・タブレット全てのデバイスから閲覧できます。直近30日分の紙面イメージを閲覧でき、横書きのテキストに切り替えて読むこともできます。初めての方は、まずは1カ月無料体験!

日経産業新聞をPC・スマホで!

スタートアップに関する連載や、業種別の最新動向をまとめ読みできる「日経産業新聞」が、PC・スマホ・タブレット全てのデバイスから閲覧できます。直近30日分の紙面イメージを閲覧でき、横書きのテキストに切り替えて読むこともできます。初めての方は、まずは1カ月無料体験!

関連トピック

トピックをフォローすると、新着情報のチェックやまとめ読みがしやすくなります。

関連企業・業界

セレクション

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン
図表を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した図表はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン