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COP27、ネットゼロへ新たな対立 理想追求か現実路線か

Earth新潮流 三井物産戦略研究所シニアフェロー 本郷尚氏

NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞日経産業新聞 Earth新潮流

エジプトで開かれていた第27回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP27)が閉幕した。今回は干ばつや洪水など気候変動による「損失と被害」が争点となり、資金調達を支援する基金の創設で先進国が合意した。先進国と途上国の対立という構図で捉えられがちだが、交渉経緯をみると単純ではない。企業が本格的に脱炭素に向けて動き出したことで、気候変動を巡る議論は民間でも新たな対立の構図が見えてきた。

脱炭素の実現を目標とする民間イニシアチブの発足が相次ぎ、企業戦略に大きな影響を与えている。ただ、民間イニシアチブは規制ではない。多くの企業に支持されて初めて効果を発揮する。企業のトップや気候変動戦略の担当者が集まるCOPは仕組み作りの絶好の場であり、また本当に支持されている仕組みなのかを見極める機会でもある。

COP27では幅広い議論が繰り広げられた。金融では、「良い投資」の判断基準を示すことで企業に脱炭素経営への変革を促すグリーンファイナンスへの関心が高まっている。一方でIFRS財団は国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)を設けており、企業には排出量や戦略などの情報開示を求め、市場が企業のリスクや将来性を判断するとの基本方針をCOP27直前に改めて確認している。つまり企業には自ら戦略を考える自由がある一方で、説明責任を負うということになる。

これに対して、気候ボンドを主導するNPOは事業や地域などの特性の違いを認めつつも、全ての投資家が違いを分析し判断する知識や経験を持っているとは限らないと主張した。また経済協力開発機構(OECD)はグリーン投資の収益性は短期的には低く、市場を誘導する必要がある、と説明した。

英TPTに注目

こうした中で興味深いのは、情報開示ルールの制度化を目指す英国の移行計画タスクフォース(TPT)だ。ISSBなどのように情報開示への志向が高いが、英国版の持続可能な経済活動かどうかを示す基準「タクソノミー」も取り込むとのことで、折衷案といえるだろう。

温暖化ガス排出量を実質ゼロにする「ネットゼロ」を目指す道筋も議論された。科学的知見に基づき削減目標を定める国際イニシアチブ「SBTi」や、脱炭素に必要な技術の早期市場化を目指す米国主導の「First Movers Coalition」などは理想的なシナリオを示し、それに沿って企業は排出を減らすべきだとする。

しかし脱炭素への技術は多様だ。例えば低炭素水素は再生可能エネルギーから電気分解で作ることもできるし、天然ガスと二酸化炭素(CO2)の地下貯留の組み合わせでも作れる。また次世代原子炉である小型モジュール炉(SMR)の活用を推す動きもある。

ネットゼロを目指す道筋は与えられるものではなく、自ら考えるべきだとの思想は、エネルギー産業やエネルギーを多く消費する産業で根強い。この議論はヒートアップし、「科学に基づくのは当たり前であり、SBTiだけが科学ではない」というような意見も出た。一方で、中小企業などが自ら戦略を考えて説明責任を果たすのは困難だという指摘もあった。

排出量取引でも意見割れる

排出量取引を巡る議論でも意見は割れた。議論の中心は民間が管理する自主的なクレジット「ボランタリークレジット」市場だ。関心が高かったのはボランタリークレジットが購入した国の目標達成に使えるかどうかだった。そのためには事業の実施国の削減には使ってはいけない。デベロッパーやボランタリークレジットを発行するNPOからもCOP26での議論とは異なり、仕組みは作れても事業実施国の同意を得るのは難しいだろうという意見が出てきた。

そこで注目されたのが脱炭素に取り組む企業で構成する、日本の「GXリーグ」だった。日本の排出の相殺にはパリ協定のクレジット、サプライチェーン(供給網)や海外の排出にはボランタリークレジットと使い分けるのは「現実的な対応」と評価された。

クレジット標準化も焦点に

クレジットの標準化についても前回の議論から流れが変わった。2021年はクレジットの標準化で市場拡大を目指す「TSVCM」に注目が集まり、標準化を前提に金融機関も新しい金融資産として着目していた。しかし22年8月末に締め切ったパブリックコメント(意見公募)では「要求水準が高すぎる」「評価方法が確立していない」など5000ものコメントが出された。

このためCOP27での正式発表を断念した。会議でも厳しい意見が出ており、改めて標準化の難しさを感じた参加者も少なくないだろう。海藻などの炭素貯留による効果に着目したブルーカーボンといった新しい分野への開拓に関心が高まった。

COP27では様々な場面で意見が割れ、ネットゼロへの実現に向けて新たな対立点も生まれた。大きく整理すると、理想追求タイプと実行可能性を重視するタイプの対立となる。この対立軸はネットゼロへ向けた取り組みが実行段階に入ったことで生じたものであり、従来よりフェーズが進んだと評価すべきだろう。

23年の議長国はアラブ首長国連邦(UAE)だ。23年のCOPでは、25年の目標見直しの準備となるグローバルストックに加えて、人権や生物多様性、そしてエネルギートランジションに取り組むと説明した。民間の理想追求と実行可能性の議論は今後の政府間交渉でも役立ちそうだ。

[日経産業新聞2022年11月25日付]

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