日本経済の現実直視せよ
SmartTimes ネットイヤーグループ取締役チーフエヴァンジェリスト 石黒不二代氏
「産業構造審議会」は経済および産業の発展をミッションとする経済産業省が経済産業政策の重要事項を決定をするために組成している審議会である。私はこの委員を何年かに渡って務めてきたが、今年の総会での資料の冒頭に並べられたグラフの数々を見てがく然とした。

世界の国内総生産(GDP)に占める各国比較では1995年に第2位として17.6%の割合を占めていた日本は、2020年にはわずか6%、50年の予測では3.2%に転落する。世界競争力ランキングでは、89年に1位だった日本は21年に31位となった。東証1部上場企業のPBR(株価純資産倍率)分布では、その4割がPBR1倍未満、つまり、日本の代表的企業の4割の企業価値が純資産を下回っている。
私は自らの専門性を踏まえ、デジタルが社会の基本ソフト(OS)になり、その基盤となる経済を作っていくための問題点を議論させていただいた。
スタートアップへの投資を10倍に増やすと提言書にはあったが、それだけでは足りない。ベンチャーキャピタルからの投資だけではなく、大企業からの投資を促したい。米国と比較して大企業の内部留保と配当が明らかに大きいと言う事実を踏まえて、大企業がスタートアップにさらに投資をする必要がある。
デジタル人材への投資は必須。デジタル人材が不足していると言う現状を打破するために、教育を根本から見直さなくてはいけない。初等教育にプログラミングを必須科目にすることはもとより、理系女子を増やすため、高等教育での理系と文系の分離をやめ、米国のように学部ではなく大学への入試を実施する。
諸々のお願いをしたが、私の問題意識はむしろ冒頭の日本の課題を私たちが認識していないことにある。先日、渡米をして米国のインフレはすさまじい。スーパーで卵やベーコンなど高くて手が出せないほどだ。
日本はファストフードや牛丼など、300円で買えてしまう。むしろ、東南アジアの国々と比べても安い。サプライチェーンやウクライナ問題で今年から物価が上がる。しかし、これまでの30年弱、日本は、ずっとデフレであったことが問題だ。最近のスタートアップで、日本からオフショアを始めるというものがあった。日本はオフショアの需要国だった。それを供給基地にするという。国際比較した日本のエンジニアの給与と円安がそれを可能にする。日本はもはや発展途上国ではないのかとの思いが脳裏をよぎる。
私たちは、生活に慣れきってしまっている。これが普通だと思っている。しかし、普通だと思っている現実こそ課題だ。経産省のホームページを見てほしい。課題を共有してほしい。そこに掲げられている対策、全てが今すぐに必要なことなのだ。
[日経産業新聞2022年7月4日付]

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