K-POP盛り上げる2つの力 メタバース&キャラクター
男性ダンス&ボーカルグループ最新事情 K-POP編(2)

新型コロナウイルス禍でワールドツアーや海外でのファンミーティングなど、アーティスト本人の稼働ができない日々が続く昨今。その中でさらに大きく成長しているのが「IP(知的財産権)事業」と「メタバース」の2つの分野だ。

K-POPのIPで最も知られているのが、2017年にBTSとLINE FRIENDSとのコラボレーションで生まれた「BT21」だろう。「過去にもアーティストが独自のキャラクターを持つことはありましたが、ライブグッズ程度に留まることがほとんど。しかし、BT21は各キャラクターの設定やストーリー作りにBTSのメンバー自身が関わり、さらには、彼ら自身のスケッチから誕生したキャラクター。メンバー自身とキャラクターとのつながりが濃いことからファンにも愛され、今では1キャラクターと認識している人もいるほど一般にも浸透しています」(書籍『K-POPはなぜ世界を熱くするのか』の著者・田中絵里菜氏、以下同)
BT21としてのYouTubeチャンネルも展開し、アニメーションも配信。その登録者数は現在476万人。数百万再生にのぼるものもあり、BTSと同程度の更新頻度で動画を上げている。アニメの内容はオリジナルストーリーをはじめ、キャラクターのモッパン動画(食事する様子を流す動画)やASMR動画(そしゃく音や寝息など高い質の音声と映像を合わせた動画)など。「ほぼVTuberのような活動も展開しています」

LINE FRIENDSでは、TREASUREとも同様のIP開発を進め、メンバー自身がデザインしたキャラクター「TRUZ(トゥルーズ)」が誕生。現在、LINE FRIENDSの公式YouTubeチャンネルで動画の配信を行っている。

BTSは、BT21とは別に20年からメンバー自身をモチーフとした3Dキャラクター「TinyTAN」の展開も始めた。BTSの「第2の自我」が発現してキャラクターになったという設定。
現在、「BT21」も「TinyTAN」も世界中の多くの企業とグローバルライセンス契約を結び、ゲームや玩具、フード、ライフスタイル雑貨などあらゆるアイテムに広がっている。
8月にはJYPエンターテインメントもIP・プラットフォーム事業を手掛ける新会社の設立を発表したばかり。アーティストの人気をベースに生まれる2次・3次ビジネスは今後も大きく成長していきそうだ。
一方、ゲーム業界やファッション業界でも昨今の注目キーワードになっている「メタバース」とは、現実を超越した仮想空間のこと。今年1月、BigHitエンターテインメント(現HYBE)、YGエンターテインメント、JYPエンターテインメントの韓国大手芸能事務所3社が韓国発の3Dアバターソーシャルアプリ「ZEPETO(ゼペット)」に約16億円を出資。アバター用の衣装アイテムの販売や仮想空間内でのバーチャルサイン会、さらにはZEPETO内の本人アバターが出演するMVも作られている。

また、TREASUREは日本デビューのタイミングで、3月から期間限定で任天堂のゲーム「あつまれ どうぶつの森」内に「トレジャー島」をオープンし、コロナ禍で本人稼働のプロモーションができないなか、盛り上げに一役買った。
アバターでファンと交流
一方、SMエンターテインメントのイ・スマン会長は、20年にオンライン開催された「第1回世界文化産業フォーラム」で、それぞれの所属アーティストの世界観がつながりを持ち、リアルと仮想の境界なく全世界に文化が接続できるメタバース「SM Culture Universe(SMCU)」の構想を語った。「最終的にはファンもアイドルとアバターになってコミュニケーションが取れたり、メタバース空間でのライブでも何かメンションしたら反応が返ってくるような相互性のある場を目指していると思われます」
SMCUは音楽だけでなく、映画やドラマ、小説、コミックなどへの展開も含まれている。田中氏がもう一つ指摘するのが、イ・スマン会長が「プロシューマー」に言及したことだ。プロシューマーとは2次・3次創作したものを拡散する力のあるインフルエンサーのこと。「SM側から多くのIPを提供し、新しいコンテンツを制作し、世界観を拡張する。そんな狙いも見て取れます」。
SMから昨年デビューした4人組ガールズグループ「aespa(エスパ)」には「ae(アイ)」と呼ばれる各メンバーのアバターがいて、仮想世界「FLAT(フラット)」に存在している設定だ。SMCUの構想はまだコンセプトしか見えていないが、"テクノロジーとカルチャーの融合"はSMが長年追い求めているテーマ。続報を待ちたい。
(ライター 横田直子)
[日経エンタテインメント! 2021年10月号の記事を再構成]
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