お笑い特化型の音声配信「GERA」 新人発掘の場にも
エンターテック
近年、様々な音声配信サービスが生まれ注目を集めるなか、お笑い芸人の番組に特化しているのが「GERA」です。2019年に始まり、現在はラランド、錦鯉、ヒコロヒーなど、約35組の芸人たちがトーク番組を毎週配信。累計エピソード数は2000を超えています。
プロダクトオーナーである、ファンコミュニケーションズの新規事業開発部GERAチーム・恩田貴大氏に、MTVジャパンやユニバーサルミュージックなどで新規事業開発を担ってきた鈴木貴歩氏が話を聞きました。
2019年12月にYouTubeでスタートした、芸人のお笑い番組に特化した音声配信サービス。20年4月にはアプリをリリースし、バックグラウンド再生が可能になるなど、聴取環境が向上。それに合わせて、放送時間も以前の倍となる30分~40分に延ばしたという。現在、約35組が冠番組を持っており、ラランド、錦鯉、吉住、ママタルト、トンツカタンなど、様々な事務所の芸人が配信を行う。また、「GERA NEXT」という新人オーディンションのような番組も展開するなど、若手芸人の発掘の場にもなっている。
――GERAを立ち上げた経緯について教えてください。

弊社はネット広告企業で、僕はもともと営業の部署にいました。19年1月に新規事業開発部に異動し、その後に芸人特化型の音声配信サービスを立ち上げたいと提案したんです。理由は、芸人さんのラジオ番組が好きだったことに加え、当時、少しずつ音声配信が注目され始めていたから。個人配信系のアプリが立ち上がっていましたが、一般人のフリートークが受け入れられるのは、まだこの先ではないかと。新たに参入して、耳の肥えたラジオリスナーも満足させるには、芸人さんに特化したコンテンツがいいのではと思ったんです。
そこから若手芸人さんに、「音声配信をやりませんか? 地上波への踏み台にしてもいいので」と営業を掛け、19年12月にスタート。いきなりアプリまで制作するのはリスクもあったので、最初はYouTubeで配信しながら、テストマーケティングを行っていました。再生数などの聴取状況をチェックしながら番組の内容を改善。開始3カ月で目標の登録者1万人が見えたので、20年4月にアプリへと切り替え、バックグラウンド再生も可能となりました。
――20年の夏頃に、元『オールナイトニッポン』ディレクターの石井玄さん(※)と話せたことが1つの転機となったそうですね。
本当にいろいろ貴重なアドバイスをいただきました。1番大きな変更点は、第三者目線を最重要視するようになったことです。以前は、生の声を大切にするため、芸人さんに自由に話してもらうスタンスで、編集も最小限にしていました。スタッフもどんどん芸人さんのことを好きになっていきましたが、それだとどうしても身内感が加速してしまい、番組の離脱率にまで大きなブレが出てしまっていたんです。そこでディレクターがデータなども活用しつつ、第三者目線で面白いかどうかを冷静にジャッジするように。その結果、番組のクオリティーを保ち、離脱率を下げることに成功しました。
(※)現在は、ニッポン放送エンターテインメント開発部・プロデューサーで、イベントやグッズなどを手掛ける。
仲の良さが再生数に影響
現在、再生数が多いのは、ラランドさん、金属バットさん、囲碁将棋さんなどですね。彼らはトーク力が高いのはもちろんのこと、コンビ仲が良い。音声は素が出やすいので、コンビ間の微妙な違和感も伝わってしまい、それが番組離れのきっかけになるんです。ただ最近、仲が悪すぎて逆に人気なのが竹内ズさん。番組中に本気でけなし合っていて、それが面白いと話題になっています。
――法人スポンサーに頼るのではなく、リスナーによる番組スポンサー権利の購入、応援ボタンなどでマネタイズしているそうですね。

番組スポンサー権利とは、リスナーが番組内で名前を読み上げてもらえる権利で、1100円から購入できます。応援ボタンは、押すとCM動画が流れて、その収益が芸人さんにいくというもの。リスナーが面白い、応援したいと感じた時に能動的に押してもらい、CMを見ていただいています。動画の後には、芸人さんのプライベート写真が表示されるようになっており、これはマンガアプリのCM動画を見ると次の話が読める仕組みを参考にしました。
今後は、トークが面白い音声配信向きの芸人さんをどんどん発掘しながら、音声コンテンツだからこそできる企画や番組に挑戦していきたいです。またGERAをより多くの業界の人にも聴いてもらうことで、芸人さんにGERA以外の活躍の場を提供できたらうれしいですね。
そして、これまで培ってきたノウハウを生かして、アイドルや声優さんなどに特化した音声配信サービスを立ち上げるのも、面白いかなと思っています。それが音声配信業界の規模の拡大につながれば最高です。
スズキの視点
「お笑い」というジャンルは市場としては確固たるものがあり、既存の業界からアプローチしていくのが通例という印象がありました。しかしGERAは、恩田氏のお笑いへの情熱と、外部ゆえの視点、アプローチがうまく融合した事例だと思います。データ活用、バックグラウンド再生など、ユーザーにより良い体験を提供するためにテクノロジーを活用する一方で、番組制作コストの負担、ギャラ、新人発掘にもしっかり投資を行っている。ある意味Netflix的なところもあることで、今後大きくなればさらに面白い存在になるサービスだと思います。
ParadeAll代表取締役。"エンターテック"というビジョンを掲げ、エンタテインメントとテクノロジーの幸せな結びつきを加速させる、エンターテック・アクセラレーター。エンタテインメントやテクノロジー領域のコンサルティング、メディア運営、カンファレンス主催、海外展開支援などを行っている。
(構成:中桐基善)
[日経エンタテインメント! 2022年1月号の記事を再構成]
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