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Amazon、医療をデジタル変革 診断から病院業務まで

CBINSIGHTS
米アマゾン・ドット・コムが医療・ヘルスケア領域に力を入れている。IT(情報技術)を使って、オンライン診療や薬の宅配、患者の遠隔モニタリングなどサービス内容を広げている。戦略をさらに深化させる狙いで、2021年12月には消費者向け診療サービスやオンライン薬局事業を統合すると発表した。買収・提携した企業をもとに同社の医療・ヘルスケア事業戦略を探った。

インターネット通販とテックの巨人であるアマゾンはここ数年、米国のヘルスケア市場への関与を強めている。

同社は2016年以降、数十社と戦略的に業務提携し、スタートアップに出資し、数社を買収してヘルスケア業界への参入を進めている。新たな事業分野には消費者向けヘルスケア、診断と治療、遠隔患者モニタリングなどがある。

日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。

21年12月にはこの戦略にさらに磨きをかけるため、ヘルスケア事業「アマゾンケア(Amazon Care)」「アマゾンファーマシー(Amazon Pharmacy)」「アマゾン・ダイアグノスティックス(Amazon Diagnostics)」を1つの組織にまとめると発表した。

この記事ではCBインサイツのデータを使い、アマゾンの最近の買収、投資、提携活動から同社のヘルスケア事業の5つの重要戦略を浮き彫りにした。各社をこの5つの分野でのアマゾンとのビジネス関係に基づき分類した。

・一般消費者/従業員向けヘルスケア

・診断&治療

・ケア連携&遠隔患者モニタリング

・ヘルスケア業界向けIT

・ヘルスケア業界のクラウド移行支援

消費者/従業員向けヘルスケア

アマゾンは自社の従業員向けのヘルスケア戦略を補完し、デジタル薬局や遠隔医療サービスを構築するために、外部企業への投資や提携を活用している。

19年には自社の従業員にチャットやビデオ通話、対面での医療サービスを提供する「アマゾンケア」を立ち上げた。アマゾンは医療サービス事業者の米ケアメディカルと契約し、オンライン診療や対面診療の提供を受けている。

アマゾンケアは自社の従業員向けサービスとして始まったが、その後全米の他の企業にサービスを拡大し、米国の多くの都市で対面診療を提供している。

これとは別に、アマゾンは20年7月、プライマリーケア(1次医療)のスタートアップ、米クロスオーバーヘルス(Crossover Health)と提携し、プライマリーケアや長期ケア、薬の処方、問題行動へのケアなど、様々な医療サービスを提供する従業員向けの医療センターを設けた。

アマゾンは従業員向け医療サービスだけでなく、一般消費者向けのヘルスケア事業を拡充するための投資や買収も進めている。

18年6月にはオンライン薬局の米ピルパックを買収し、さらに自前のオンライン薬局事業「アマゾンファーマシー」も立ち上げた。20年にサービスを開始したアマゾンファーマシーは、有料のプライム会員を対象に医薬品の価格の透明性、薬の宅配、希望する時にいつでも利用できるオンデマンドの薬剤師相談サービスを提供している。

診断&治療

アマゾンの診断サービス「アマゾンDx」も当初は自社の従業員向けだったが、その後一般向けに拡大した。このオンデマンドの診断サービスでは、米食品医薬品局(FDA)から緊急使用許可を受けた家庭用の新型コロナウイルス抗原検査キットを提供している。現在はこれがアマゾンDxで提供している唯一の検査キットだが、性感染症や受胎能力、ホルモンレベルなど他の検査サービスにも拡大する余地がある。

アマゾンはさらに、新興の診断ツールやデジタル治療で存在感を確立するための投資や提携も進めている。診断検査や研究のイノベーション(技術革新)をけん引するため、傘下のクラウド事業「アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)」のデータやクラウドコンピューティング機能を活用している。

17年には血液検査でがんを早期発見する米グレイル(GRAIL、その後医療機器の米イルミナによって買収)に出資した。グレイルは初期の商品開発での機械学習を使った遺伝子データの取り込み、保管、処理にAWSのサービスを活用した。同様に、アマゾンは21年、米ノーチラス・テクノロジーズ(Nautilus Technologies)に出資した。ノーチラスは創薬や医療診断、精密医療の分野への応用が期待される人間のプロテオーム(全てのたんぱく質)を解析できる機器の開発に取り組んでいる。

アマゾンはスイス製薬大手ノバルティスとの戦略的提携により、治療薬開発の専門知識の蓄積も進めている。アマゾンはノバルティスの製薬、サプライチェーン(供給網)、配送業務のデジタル化を支援している。

ケア連携&遠隔患者モニタリング

アマゾンは「健康の社会的決定要因(例:社会格差やストレスなど)」の解決策や疾病管理を手掛けるスタートアップの買収や出資により、ケア連携や遠隔患者モニタリング機能を強化している。

19年には、オンラインでの症状チェックや重症度判定を手掛ける米ヘルスナビゲーター(Health Navigator)を買収し、アマゾンケアに加えた。

投資の分野では21年6月、ヘルスケアスタートアップによるAWSの利用と成長を支援する「AWSヘルスケア・アクセラレーター」を立ち上げた。

このプログラムでは、ケア連携や遠隔患者モニタリングを手掛けるスタートアップに多数出資している。

ケア連携では、非緊急の病院送迎サービスを手掛ける米カイゼン・ヘルス(Kaizen Health)や、医療提供者による患者の症状悪化や入院期間、再入院などの予測を支援する米ピーシーズ・テクノロジーズ(Pieces Technologies)に出資している。

アマゾンは消費者の慢性疾患管理を推進する方法も探っている。慢性疾患は30年には世界の死因の70%、世界の疾病負担の56%を占めるようになるとみられており、アマゾンにかなり大きな成長市場をもたらすと考えると、この動きも驚きではない。

AWSは21年11月、糖尿病管理の米NPO「タイドプール(Tidepool)」が進める生理がある糖尿病患者への理解を含め、ケアを改善する取り組み「タイドプール・ピリオド・プロジェクト(Tidepool Period Project)」に資金を提供した。

ヘルスケア業界向けIT

アマゾンは医療システムや保険会社向けの次世代ツールを開発しているスタートアップに出資している。

これはAWSヘルスケア・アクセラレーターのもう一つの重点分野であり、米ジャイアント(GYANT)、米ギブリブ(GIBLIB)、米エイバ(Aiva)、米メディカル・インフォマティクス(Medical Informatics)、米ビーウェル(b.well)など患者のエンゲージメント向上や病院の業務フローの合理化を支援するデジタルツールを手掛ける企業に出資している。

例えば、適切な受診先を見つけ、予約が取れるよう支援する「デジタルフロントドア」システムを運営するジャイアントは、人工知能(AI)を活用した自動会話プログラムであるチャットボットを使って患者の重症度を判断し、適切な治療が受けられるようにする。

病院の業務を合理化するシステムを開発しているスタートアップもある。医学教育プラットフォームのギブリブ、医療用の音声アシスタントのエイバ、医療判断を支援するメディカルインフォンマティクスなどだ。

ヘルスケア業界のクラウド移行支援

アマゾンは15年に「アマゾン・パートナー・ネットワーク・ヘルスケア・コンピテンシー(Amazon Partner Network Healthcare Competency)」を設立して以降、ヘルスケア業界でのクラウド導入を加速するためにデータサイエンスやクラウド移行企業との提携を拡充している。

このネットワークのパートナー企業41社はAWSのサービスと自社の専門知識を活用し、公衆衛生、臨床情報システム、健康管理などの分野での医療保険会社や医療機関の業務自動化とプロセス合理化を支援している。パートナー企業にはニュージーランドのオライオン・ヘルス(Orion Health)、米ITサービスのバートゥサ(Virtusa)、医療データのクラウドサービス米クリアデータ(ClearDATA)、デリケートな情報のクラウド管理を手掛ける米ダティカ(Datica)、オランダのヘルスケア大手フィリップスなどが名を連ねる。例えば、クラウド構築支援のダティカはAWSでのヘルスケアソフト開発を支援する。

アマゾンは21年、機械学習を使って安全かつ標準化された手段で医療データを理解し、収集できる「HIPAA(医療保険の携行性と責任に関する法律)」適合サービス「アマゾン・ヘルスレイク(Amazon HealthLake)」を一般提供すると発表した。それ以降、様々な医療機関がケア連携の改善や業務効率の最適化などのためにこのサービスを使っている。

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