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ワクチン3回目接種、抗体の量だけでなく「質」が高まる

日経サイエンス

(更新)
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新型コロナウイルス感染症のワクチンの3回目接種が本格的に始まった。ただ、現在流行している変異ウイルスの「オミクロン型」は 1、2回目接種のころに流行していたウイルスとは性質も遺伝子配列も異なる。オミクロンに対してワクチンの効果はどれくらいあるのだろうか。

結論から言うと、オミクロンに対しても、ワクチンの効果は高い。英健康安全庁によると、発症リスクがワクチン接種によってどれだけ下がるかを示す発症予防効果は、2回目接種から半年後には約10%に下がるが、3回目接種の2〜4週間後には65〜75%に回復する。2回目接種の後とほぼ同じレベルだ。

発症予防の要となるのは「中和抗体」だ。ウイルス表面にある突起部(スパイクタンパク質)がヒトの細胞表面に接着する部分にくっついて、細胞への侵入を防ぐ。米ファイザーと米テキサス大学が2回接種から2〜4週間たった人と3回目接種から4週間たった人の血液を調べたところ、3回目の接種後にはオミクロンに有効な中和抗体の活性が16.8倍に高まっていた。

2回目の接種と3回目の接種で打つのは同じワクチンだ。それなのに、どうして3回目の方がオミクロンに対する中和抗体の活性が高まるのだろうか。その理由を知る手がかりになりそうな研究結果を、国立感染症研究所が米科学誌サイエンス・イムノロジーに2022年2月3日に発表している。ワクチンの接種者から採血を行い、抗体を作り出すB細胞の特徴を調べた研究だ。2回目の接種から約1カ月後の時点で、体内には「ベータ型」やオミクロンの変異ウイルスに有効な中和抗体を作るB細胞がすでにできていた。

個々のB細胞はずっと同じ抗体を作り続けるわけではなく、体内で試行錯誤を重ねながら徐々に効果の高い抗体を作れるようになる。これまでのインフルエンザの研究などで、ワクチン接種やウイルス感染の後、時間経過とともに様々な変異を持つウイルスに幅広く効く抗体を作れる「記憶B細胞」が育つことが知られている。

今回の感染研の研究でも、時間経過とともに、ベータやオミクロンにも効く抗体を作る記憶B細胞の割合が増えていた。ワクチン接種から時間がたったこれらの記憶B細胞は休眠状態に入っているが、試験管内で刺激を与えると、ベータやオミクロンに効く中和抗体を活発に分泌し始める様子が確認された。実際の3回目接種も、体内で少しずつ準備が進んでいたオミクロンに対する免疫を、一気に実戦レベルまで高める役目を果たしているとみられる。

ワクチンと免疫をめぐる議論は、時間経過ととともにどれだけ免疫の強さが変わるか、という面に終始しがちだ。しかし、長年ワクチンを研究してきた東京大学医科学研究所の石井健教授は「様々な変異を持つ病原体をどれだけ幅広くカバーできるかを示す免疫の『幅』という概念がとても重要だ」と話す。

免疫の幅広さは、次回以降のワクチン接種の戦略を考える上でも重要なキーワードになる。ヒトの免疫はもともと病原体の変異に対応できる力を持っており、ワクチン接種から時がたつとB細胞が幅広い変異ウイルスに有効な抗体を作れるようになるのはその一例だ。

こうしたB細胞の働きをうまく支援できるワクチンができれば、たとえ変異ウイルスが新たに出現しても、短期間に何度も接種を繰り返さずに済むかもしれない。ファイザーと米モデルナはすでにこうした「幅広い免疫」の獲得を目指すワクチン開発にも着手している。

(日経サイエンス編集部 出村政彬)

詳細は2月25日発売の日経サイエンス2022年4月号に掲載

  • 発行 : 日経サイエンス
  • 価格 : 1,466円(税込み)

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