/

スマホのコンテンツ追求 新たな形の小説や漫画を創作

紙と同じレイアウトの電子書籍に疑問を感じて起業。テンポよく読めるカードノベルの次は電子マンガ市場に挑戦する。加藤 康=撮影
日経ビジネス電子版

「うる星やつら」などを手掛けた編集者が若者向けの新たなコンテンツづくりを目指して起業したパルソラ(東京・千代田)。カードノベルという小説の形や、マンガ創作のマッチングなど、新たなコンテンツづくりを仕掛ける。

◇   ◇   ◇

「スマートフォンに合った物語の形を追求したかった」。そう語るのは、スマホ向けの小説のフォーマット「カードノベル」を開発したパルソラの三宅克代表だ。

カードのように画面をスライドさせて読み進める小説「カードノベル」

カードノベルとはスマホの1画面に基本140文字以内の文章を表示し、カードのようにどんどんスライドさせて読み進める小説だ。数ページごとに挿絵を入れ登場人物の外見や景色を伝える。マンガのようにさくさくとテンポよく読み進められる。書籍のように1作ごとに販売するのではなく、1作を細かく分け、短い1話単位で販売する。腰を据えて小説を読むことが減った若者の習慣に合わせてのことだ。

スマホに合う小説の形を模索

三宅氏が起業して、このフォーマットを作ったのは2015年、67歳の時だ。1970年に小学館に入社した三宅氏は、「週刊少年サンデー」の編集部などで高橋留美子作「うる星やつら」などの人気作を担当、その後ライフスタイル誌の創刊にも携わり取締役や子会社の社長も務めた。だがネット時代を迎え、90年代以降、出版業界の紙の事業はデジタルに押される形に。さらにスマホの普及で電子書籍市場が伸長していった。

そんな状況の中で、三宅氏は2つの思いを抱いた。一つは出版業界が進めた書籍のデジタル化に対する疑問だ。当時は、紙のレイアウトをそのままウェブに掲載する形が主流だったが、三宅氏は画面が小さいスマホで見る文字コンテンツとしては不適切だと感じた。

歴史を振り返っても、戯曲の形は舞台、ラジオ、テレビなどのメディアが登場するたびに変化を遂げた。マンガについても、韓国ではスマホに合わせて縦にスクロールして読み進めるウェブトゥーン形式が登場したが、日本では単行本のレイアウトをそのまま転載しただけだった。小説についても、ウェブサイトに投稿する形のメディアは出始めていたが、レイアウトなどは従来の小説と同じで、読みやすさを考慮していなかった。「これでは若者を中心に文字メディア離れが加速し、文字を通して表現をする場が失われてしまう」。三宅氏は危機感を募らせた。

もう一つは、より簡単に表現できる場を増やしたいという思いだ。これまでの編集者人生の中で、マンガや小説といったフォーマットで表現するハードルの高さを実感してきた。小説家には当然のように高い語彙力と文章力が要求される。一方、マンガ家には魅力的なシナリオに的確な絵を高いクオリティーで描くことが要求される。

より多くの人が物語を読むことも創ることも楽しめる形が必要だ、そう考えた結果、文章と絵を別の作家が担当するカードノベルを開発したのだ。

三宅氏は作家たちに声をかけ、2015年、自社サイトの「yomuco」でカードノベルの公開を始めた。yomucoで『ゆりぜん』などを連載する南部くまこ氏は、「最初は新しい形式に戸惑ったが、今はテンポ重視で書けるカードノベルの方が書きやすい」と話す。

だが、全く新しいフォーマットであるカードノベルは苦戦。小説などの投稿アプリ「izure」での公開も始めたが、ウェブとアプリを合わせても訪問数は月に1万人程度で、投稿作品数も200作品ほどだ。三宅氏は「なかなか認知されない」と唇をかむ。

パルソラの売上高推移

スマホ向けのマンガアプリの多くは、人気作品を掲載するか、SNS(交流サイト)上で広告を大量に打つことで集客を図るが、パルソラにはそれをするだけの資金がない。そこで三宅氏は、人気マンガ家が企業や商品の特徴などを描く広告マンガを製作する事業で稼ぐことを決断する。その利益でウェブサイトやアプリの改善を図っていくことにした。

マンガ創作でも新しい形に挑戦

新たな物語の創作の場として、マンガにも打って出る。ポイントはマッチングだ。シナリオ考案は得意だが絵が苦手な人が原作を提案、シナリオ考案は苦手だが絵が得意な作画者が共同作業を申し出る形態で、年内から稼働させる。従来のようにシナリオ考案も絵も得意でないとマンガを描けないという仕組みにせず、気軽に創作ができる場を作る。編集者のアドバイスを求める作家向けに、ノウハウを教える講座などを開催して作品の質を上げていくなど、売れる作品をつくるための計画も立てている。

課題だった読者を集めるための準備も進める。21年春にはLINEのようなメッセージ形式で小説を投稿できるサービス「ストリエ」をメディバン(東京・渋谷)から買い取った。三宅氏は「ストリエの読者は6万人ほど。マンガ創作の機能を新たに加えたizureと相互送客することで、アプリの読者を5万人ぐらいに増やせる可能性がある。そこからはコンテンツを強化していくことで一気に読者を増やせるはずだ」と読む。カードノベルのyomucoとizureを合わせ、来年中に月30万人の読者獲得を目指す。

現在、売り上げの7割を占める広告事業は好調で、19年12月期には黒字化も達成した。マンガ創作アプリへの投資もできる態勢も整った三宅氏は挑戦を加速させたい考えだ。

(日経ビジネス 田中創太)

[日経ビジネス2021年6月21日号の記事を再構成]

日経ビジネス電子版セット

週刊経済誌「日経ビジネス」の記事がスマートフォン、タブレット、パソコンで利用できます。「日経ビジネス電子版」のオリジナルコンテンツもお読みいただけます。日経電子版とセットで月額650円OFFです。

お申し込みはこちらhttps://www.nikkei.com/promotion/collaboration/nbd1405/

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

日経ビジネス

企業経営・経済・社会の「今」を深掘りし、時代の一歩先を見通す「日経ビジネス電子版」より、厳選記事をピックアップしてお届けする。月曜日から金曜日まで平日の毎日配信。

関連トピック

トピックをフォローすると、新着情報のチェックやまとめ読みがしやすくなります。

セレクション

トレンドウオッチ

新着

注目

ビジネス

暮らし

新着

注目

ビジネス

暮らし

新着

注目

ビジネス

暮らし

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン