産業技術を人間中心に
新風シリコンバレー 米インタートラストテクノロジーズマネジャー フィル・キーズ氏
シリコンバレーでは「インダストリー5.0」という言葉が浸透し始めている。すでに産業界をデジタル技術で最適化するという「同4.0」がドイツから始まって普及している。今回の「5.0」は欧州連合(EU)から発生したが、大ざっぱに言うと産業界に人間の幸福を中心にさせるように促すことだ。

EUが公開したリポートを読むと、「5.0」は新型コロナウイルス危機から登場した。「4.0」の産業界を最適化させるという焦点は狭すぎと指摘され、新型コロナウイルスや地球温暖化の危機を乗り越えるため、産業界をもっと人間中心にするよう更新させることの必要があるとの指摘だ。
もっと具体的に言うと、「5.0」はEUが既に取り上げている項目を盛り込んでいる。例えば、EUは地球温暖化対策「European Green Deal」に多額の予算を割いている。「5.0」の一つの目的は産業界を循環型経済にシフトをさせることにあり、この予算の一部を使う。もう一つはEUは人工知能(AI)規制の法案を提出して、人間中心のアプローチを産業界に要求している。
シリコンバレーでは「4.0」は産業系のあらゆるモノがネットにつながる「IoT」やAI市場を狙っている企業の活動によく利用されている。「5.0」はどのような影響があるだろうか。
EUが公開したリポートを見ると、「5.0」はすでにシリコンバレーが取り上げているテーマを強調しているので、利益を得る企業がでるだろう。だが、あるシリコンバレーの企業をたたく武器になる。
まず、人間を中心とする「5.0」は「4.0」が強調した産業用途のデジタル技術を「捨てる」わけではない。それより、AIやIoTといった技術を労働者の健康やクリーンな環境などもっと産業と人間の便益に貢献できるように変身させることを狙っている。
シリコンバレーでは以前から技術開発を人間のために採用するようにデザインするという発想が強かった。これが合うだろう。クリーンな環境にする技術製品を手がけている企業が多く、循環型経済というテーマが既に盛り上がっていて、スタートアップも続々と誕生している。
社会の復元力を支えるため、EUのリポートは産業の脱集権化を薦めている。その中、現在のデジタル技術は複数のシリコンバレーの企業が支配していることに警戒して、ブロックチェーンや非代替性トークン(NFT)といった脱集権化を進める「Web3.0」技術の採用を薦めている。
これは米グーグルやマイクロソフトといった大手テック企業を直接に批判している。だが、シリコンバレーでは現在、「Web3.0」がブームで、これも多数のベンチャー企業が市場に入ってきているので、一概に害があるとは言えないだろう。
今後の「5.0」の議論を注視していきたい。
[日経産業新聞2022年6月28日付]
