オムロン、ローカル5Gで工場を無線化 EV関連需要狙う

オムロンが滋賀県草津市の「オートメーションセンタ KUSATSU」を刷新した。顧客企業が製造装置を持ち込み、地域限定の高速通信規格「ローカル5G」を使って実証実験に取り組める。高速大容量、低遅延という5Gの特徴を、製造現場で活用する動きが相次いでいる。
「工場内の生産設備を無線でつなぐ『レイアウトフリー』は長年の夢だったが、ローカル5Gを使えば実現できる。顧客の強い期待を感じる」
オムロンは1月12日、草津事業所(滋賀県草津市)の「オートメーションセンタ KUSATSU」を刷新した。この拠点は2021年末にローカル5G無線局免許を取得した。敷地内でオムロン製の制御機器と顧客が持ち込んだ製造装置などを5Gで連携させ、実際の生産ラインを模した環境で実証実験に取り組めると担当者はアピールした。
多くの工場ではベルトコンベヤーで「供給」「加工」「検査」などの工程をつないでいる。ローカル5Gを用いれば、独立した工程間を自律搬送ロボットが自由に行き来して半製品を受け渡せるようになるため、設備のレイアウト変更などが容易になる。Wi-Fiでは通信が不安定だったため、5Gの導入が待たれていたという。
オムロンが想定するのは、EV(電気自動車)関連など需要変動が激しい工場への導入だ。設備に長寿命を求める一方で生産現場のレイアウト変更が頻繁に発生するため、5Gへの投資意欲が高いという。セル生産方式の現場作業をカメラでリアルタイムに把握。部品を装着する順番を作業員が間違えたら即座にアラートを発したり、動線を分析したりする技術も公開した。同社製のファクトリーオートメーション(FA)機器や制御ソフトなどと組み合わせ、提案力を高めたい考えだ。
同社は25年3月期までに、ロボット関連事業の売上高を現在の3倍の700億円規模に増やす計画だ。今春には草津の拠点にカフェなどを整備し、顧客企業の来訪を促したい考えだ。
高速大容量、低遅延、多数同時接続という特徴を持つ5Gは製造現場との相性がいいため、複数の企業が実証実験に乗り出している。
コニカミノルタとNECは無人搬送車で活用
コニカミノルタとNECは人工知能(AI)が画像を認識して障害物などを効率的に迂回できる、無人搬送車の自動制御システムを開発した。ローカル5Gを用い、将来的には数百台の搬送車が同時に稼働できる技術開発を進める。
NECは日本IBMとも組み、ドローンなどを活用し化学プラントや製鉄所などのインフラ保全の効率化にも取り組む。富士通も21年、工場の現場作業の自動化や遠隔支援を実現するローカル5Gの運用を始めた。
5G関連の通信サービスも充実してきた。日立国際電気などは昨年から、初期投資なしでローカル5Gを導入できる毎月定額サービスの提供を開始。NTTコミュニケーションズは1月18日、ロボットなどの端末から近いところにサーバーを配置して膨大なデータを分析するエッジコンピューティングサービスを始めた。
IDCジャパン(東京・千代田)によると、国内の産業分野向け5G関連IT投資の市場規模は27年に2106億円に達する見込みだ。20年からの年間平均成長率は80.3%になるという。消費者向けスマートフォンなどに限らず、正確な機器制御が求められる製造現場でも5G活用が本格化しそうだ。
(日経ビジネス 西岡 杏)
[日経ビジネス電子版 2022年1月21日の記事を再構成]
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