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Facebookは巨大プラットフォームから脱落するのか

ビジネススキルを学ぶ グロービス経営大学院教授が解説

SNS(交流サイト)「フェイスブック」の利用者が初めて減少し、運営する米IT大手メタ(旧フェイスブック)の時価総額が一夜にして約2000億ドル(約23兆円)減ったというニュースが2月上旬に流れました。同社はグーグルやアップルなど米巨大IT企業の一角を占めますが、今回の動きはそこから脱落する予兆ではないかとみる向きもあります。この背景についてグロービス経営大学院の嶋田毅教授が「プラットフォーム」の観点で解説します。

収益機会広がる「場」

プラットフォーム企業は「ネットワーク経済性」を生かし「場」をつくり上げます。ネットワーク経済性とは、利用者が増えれば増えるほど、個々の利用者の利便性が高まり、顧客獲得やサービス提供に要するコストが低減する現象のことです。さまざまな企業や消費者、製品、情報などがその「場」に集まることで広告や手数料収入などの収益機会が生じ、プラットフォーム企業はそこから莫大な収入を得るのです。

巨大プラットフォームが誕生した背景には①デジタル化の進展によってビジネスやサービスの階層化が進んだ②通信技術の進化によりあらゆる人々が手軽にプラットフォームにアクセスできるようになった――ことなどがあります。

プラットフォームビジネスの特徴として「一人勝ち」の状況になりやすいことがあります。ネットワーク効果によって「利便性が利便性を生む」結果、製品やサービスの普及が加速するための分岐点を最初に超えた企業が一気に優位性を獲得・維持できるのです。

実体なきデジタルサービス

一人勝ちになりやすいプラットフォームビジネスにおいて、今回のフェイスブックの減速はどう捉えたらいいのでしょうか。

まずメタが主力とするSNSというサービスの特徴に注目する必要があります。例えばアマゾン・ドット・コムのように、巨大倉庫など「リアル」な物流網に多額を投じてきたプラットフォーム企業を逆転することは容易ではありません。アップルにしてもグーグルの基本ソフト(OS)「アンドロイド」を搭載したスマートフォンとの競争はありますが、iPhoneなど実体のある製品がもたらす収益が土台となっています。

それに対してSNSは基本的には完全にデジタルのサービスです。仲間を探すという意味でフェイスブックのユーザー数の多さは魅力的ですが、同じSNSでも異なるニーズを満たすライバルが登場する素地がもともと大きかったといえます。例えばビジネス用途であればマイクロソフトが買収したリンクトインがあり、より手短に情報を発信したいのであればツイッターがあります。

若者取り込むTik Tok

そして、手ごわいライバルとなっているのが中国発の動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」です。ティックトックを月に1回以上利用した「月間アクティブユーザー」の数は世界で10億人に達しました。フェイスブックは29億人強と大きくリードしていますが、国籍を問わず若者の間ではティックトック派が増えており、フェイスブックは「中高年向けのSNS」といったイメージも広まっているようです。

こうした見方が定着してしまうと、若者は集まりにくくなります。広告主も、ユーザー総数が多いとはいえ、購買意欲も将来性もある若者の人気が落ち目のフェイスブックからティックトックに流れるのは自然です。そしていったんそれが加速すると、ネットワーク効果でますますティックトックの存在感が増し、相対的にフェイスブックの魅力は薄れていくのです。

個人情報の流出問題などでメタの対応に不満を抱いた人が増えたことも、同社サービスの利用を躊躇(ちゅうちょ)・離脱する理由になっている可能性も指摘されています。メタの決算資料を見ると、フェイスブックのアクティブユーザー数はすでに数年前から欧米では停滞気味でした。これをアジア太平洋の成長で補っていたのですが、その伸びしろもついに危なくなったと言えそうです。

アップル発の逆風

SNSというサービスのもう1つの弱点は、他のプラットフォームの影響を受けやすいということです。今回の失速の大きな理由は「アップルがアプリ利用状況を外部企業が把握するための機能を制限した」というものです。ェイスブックの収入源は他のプラットフォーム企業とは異なり、ほとんどが広告です。適切な広告を表示するため消費者の嗜好をネットで検知する精度が落ちれば、これもまた広告主にとってフェイスブックに出稿するメリットは薄れます。

実はこの動きは数年前から予測されており、それがフェイスブックの「アキレスけん」とも言われていました。それがついに現実のものとなったというのが今回の市場の見方でしょう。プラットフォーム隆盛の背後でビジネスやサービスの階層化が進み、IT企業にとってビジネスチャンスが増えたことは確かです。しかし、SNSというサービスの足元はもともと脆弱だったとも言えるのです。

例えば通信やOSの必要性は変わらないでしょうが、それらを手掛ける企業の方針変更は他の階層の企業やサービスに大きな影響を与えます。しかしSNSは数あるサービスのうちの1つでしかなく、生活に必ず必要なものとも言い切れません。すでに特定のSNSで友達や書き込みの多い人にとっては他に乗り換えることで失うつながりや情報量を「コスト」として感じるかもしれませんが、利用歴の浅い人にとってそのコストは低いです。簡単にSNSを乗り換えるユーザーが増えるとネットワーク効果が相対的に効きにくくなり、プラットフォームとしての力も弱くなってしまうのです。

多角化へ一歩

こうしたことはメタのマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)も数年前からある程度は織り込み済みでしょう。だからこそ、社名を変え、インターネット上の仮想空間「メタバース」ビジネスに対する真剣度を示したともいえるわけです。

メタのような成長期待企業の場合、時価総額はやはり成長率に左右されます。そして成長のカギとなるのが新規事業です。以前に写真中心のSNSであるInstagram(インスタグラム)を買収したのは賢い選択でした。21年度の売上高のかなりの部分はフェイスブックとインスタグラムの2事業によるとされます。WhatsApp(ワッツアップ)買収も注目されましたが、メタ全体としては売上高の98%を広告収入に頼っており、それ以外の多角化は他のプラットフォーム企業に大きく後れを取っています。

マイクロソフトはOSのWindows(ウィンドウズ)や業務ソフトOffice(オフィス)が引き続き好調です。クラウドサービスのAzure(アジュール)のほか、パソコンやゲーム機といった「モノ」を売る事業も成長しています。こうした収益源の多様性が同社の大きな強みと言え、これはアップルやアマゾンも同様です。

迫られる巨額の投資

メタのメタバース事業が「筋の良い多角化か」と言われれば識者の間でも見解は分かれます。黒字になるのは早くても10年先ではないかという意見も少なくありません。もちろん、ITの進化は速いため、予想外に早まる可能性はあります。しかしそのためには数兆円、場合によっては数十兆円の投資が必要になるだろうという予測もあります。しかも黒字化したとしても、現在の巨大プラットフォーム企業が持つようなプラットフォームになるかといえば未知数です。

メタがその先行投資のための元手を得るには当面、フェイスブックやインスタグラムからキャッシュを稼ぐしかありません。ただ、そのやり方にも疑問符がつけられています。たとえばティックトックへの対抗策として打ち出した短編動画の投稿機能「Reels(リール)」への投資が積極的ではないという批判は強いものがあります。

リールにティックトック並みの人気を持たせるためには、様々な工夫やクリエーター支援が必要ですが、それがなされていないというのです。これではメタバース黒字化に向けた資金を十分に稼げないのではないかという懸念も一部では出ているようです。その原因としては自社のサービス間でユーザーを奪い合うことの弊害などが指摘されています。

メタのメタバースシフトは果たして賢い「賭け」なのでしょうか。現状では何とも言えませんが、メタバースで成功するためには足元の投資を適切に行い、他のSNSに対する競争力を維持する必要があるのは間違いなさそうです。当面の手元の現金は豊富とされるメタですが、これから稼ぐキャッシュと合わせ、それをどのようなバランスでメタバースなどの長期的投資とリールなどの短中期的投資に振り分けていくのか。ザッカーバーグ氏の手腕が問われます。

しまだ・つよし
グロービス電子出版発行人兼編集長、出版局編集長、グロービス経営大学院教授。88年東大理学部卒業、90年同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経て95年グロービスに入社。累計160万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」のプロデューサーも務める。動画サービス「グロービス学び放題」を監修

「プラットフォーム」についてもっと知りたい方はこちら

https://hodai.globis.co.jp/courses/c516495b(「GLOBIS 学び放題」のサイトに飛びます)

【お知らせ】「ジョブ型雇用、日本で浸透するか?」 3月17日イベント開催


グロービス講師が「わかる」ニュースの見方を解説


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