タクシーはEV普及の切り札か 配車アプリが導入支援

MoTが提供するのはトヨタ自動車の「bZ4X」や日産自動車の「リーフ」「アリア」などのEV。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成を受けながら、手始めに2023年春までに700台を提供し、31年までに最大2500台規模に拡大する。タクシー事業者はMoTとリース契約を結んで導入する。
MoTは車両とあわせ、充電器も事業者の営業所などに設置。さらに運行効率を維持しながら電気代を抑えられる最適化された充電計画を提示するエネルギー管理システムも提供する。充電器向けには基本的に再生可能エネルギーを調達・供給する計画で、27年までに二酸化炭素(CO2)排出量を年間3万トン削減するという。
温暖化ガスの排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を50年に実現することを目指す日本。国土交通省によると20年度の日本全体のCO2排出量のうち、運輸部門が18%弱を占めたという。タクシー業界として環境対応を進めていく重要性は無論だが、産業界全体としても今後は取引網全体(スコープ3)でCO2排出削減を進めていく必要性が高まることもあり、業務利用の際、EVタクシーを優先的に選ぶ企業が増えそうだ。
またタクシー事業者にとっては燃料の主流であるLPガスの高騰や地方を中心としたスタンド数の減少などが悩みの種だ。MoTはLPガス車に比べEVの方がトータルの運用コストは安く抑えられるとみる。こうした点から、今後はEVの導入をどれだけ進められるかが競争力を左右していきそうだ。
タクシーでのEV導入は自動車業界にも大きな変化を生む可能性がある。
走行距離は自家用車の7~9倍
現在、年間の新車販売台数ベースでのシェアが世界で10%ほどとされるEV。製造工程などを含めたライフサイクル全体でのCO2排出量を考慮に入れつつ、さらなる普及に向けた方策を考えていく必要がある。ここでネックになるのが特に製造過程での排出量が多いとされるバッテリーの扱いだ。現状、劣化が進んだバッテリーの利活用の方向性は定まっていない。EVの普及が進めば、廃バッテリーによる環境負荷という新たな課題への対応を急ぐ必要がある。
だが、EV市場が本格的に立ち上がっていない日本では「廃バッテリーが出てこないことが(利活用に向けた)研究開発の最大のボトルネックだ」とMoTの中島宏社長は指摘する。さらに「稼働車両が少ないため、走行データがほとんど蓄積されていない」(損害保険大手幹部)という現状もある。
そんな中、タクシーは自家用車に比べ年間の走行距離が長いのが特徴だ。全国ハイヤー・タクシー連合会によるとその距離は1台あたり9万キロメートル弱で、自家用車の7~9倍とされる。バッテリーの劣化が早く進むため、EVタクシーの導入が進めば研究開発に必要な廃バッテリーも早期にたくさん出る。走行データも効率よくたまる。故障の発生原因やバッテリーの長寿命化に資するEVの運用方法などの分析も進展する可能性がある。
MoTによるEVタクシー事業には運転者の運転特性に応じて保険料を変えるテレマティクス保険に強く、同社に出資もしているあいおいニッセイ同和損害保険が参画している。車両や充電器向けの保険提供を主眼に置いてはいるものの、同社の山口充専務執行役員は「保険で蓄積したビッグデータとEVタクシーの走行データの相関関係をしっかり分析していきたい」と話す。
MoTはNEDOの助成を使って提供する2500台を含め、30年までに全国の5台に1台にあたる4万台強のタクシーをEVに置き換えたい考えだ。「タクシー用EVが投入されれば、爆発的に普及する」(タクシー大手首脳)。EVで後れをとる日本メーカーにとって、タクシーとの向き合い方は巻き返しに向けた鍵となりそうだ。
(日経ビジネス 高尾泰朗)
[日経ビジネス電子版 2022年12月20日の記事を再構成]
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