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コロナ後遺症「ブレインフォグ」 免疫異常が関与か

日経サイエンス

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新型コロナウイルス感染症にかかった人には、回復後も強い倦怠(けんたい)感や、頭がぼうっとする「ブレインフォグ」に悩むケースが多い。周囲の人には理解されにくく、とかく「気のせい」と思われがちだ。最近の研究から、こうした症状には免疫の異常が関わっている可能性が出てきた。新型コロナは、外から見えない場所に感染の傷痕を残すようだ。

中国・武漢の研究チームの調べでは、約1700人の退院患者のうち6割以上の人が半年後も倦怠感や筋力の衰えを訴えた。グラフは同チームによる1月8日付のランセット誌論文(10.1016/S0140-6736(20)32656-8)のデータをもとに作成 ​

「約7週間にわたって体調はジェットコースターのように乱高下し、大きな感情の波と極度の倦怠感に繰り返し襲われた」。新型コロナに感染した英リバプール熱帯医学校のポール・ガーナー教授は2020年5月、医学誌ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル(BMJ)の投書欄に、新型コロナの後遺症に関するこんな体験談を投稿した。長期にわたる倦怠感は、新型コロナの後遺症の中で最も頻度が高い。中国・武漢の研究チームが1月に英医学誌ランセットに発表した退院患者のアンケート調査では、約1700人のうち6割以上が発症から半年たった後も倦怠感や筋力の衰えを感じると答えた。

全身性の極度の疲労やブレインフォグは「筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)」という病気でよくみられる症状だ。通勤や買い物などの日常的な活動の後に極度の疲労が起こり、睡眠障害や記憶障害、集中力の低下、自律神経障害などが起きる。最初の発症は発熱やのどの痛みの後に起こることが多く、呼吸器に感染するウイルスが引き金となって起きる疾患と考えられている。

国立精神・神経医療研究センター神経研究所特任研究部長の山村隆氏は、同センター病院(東京都小平市)で20年秋から21年3月末までの間に、コロナウイルス感染症から回復した後にME/CFSを発症したとみられる30人弱の患者を診察した。PCR検査を受けておらず感染が確認されていない人なども含まれており、ME/CFSの診断基準を必ずしも満たさないが、症状からME/CFSとよく似た病気だと考えられるという。「急性期の症状がおさまり、職場などに復帰してから体調を崩したケースが相当ある」と山村氏は話す。

ME/CFSの発症メカニズムは長らく不明とされてきたが、最近、本来は体内に入ってきた異物を攻撃するはずの抗体が、間違って自分の体のたんぱく質を攻撃してしまう「自己抗体」によって引き起こされる可能性が浮上している。新型コロナの流行が始まる前、山村氏らはME/CFS患者約90人の脳を磁気共鳴画像装置(MRI)で調べ、血中の自己抗体の濃度が高い患者ほど、脳のネットワーク構造に多くの異常が起きていることをつきとめた。自己抗体が、脳神経細胞の表面にある情報伝達の「アンテナ」となるたんぱく質を攻撃するとみられる。

新型コロナの倦怠感がME/CFSとどこまで同じメカニズムで起きているかは現時点では不明だが、新型コロナ患者には自己抗体の血中濃度が高い人がいるとの報告もある。自己抗体のように、免疫の仕組みが機能不全に陥って自分の体を攻撃してしまう反応は一般に「自己免疫反応」と呼ばれる。「新型コロナの後遺症は、自己免疫反応によるものがかなりの割合を占めるのではないか」と山村氏はみる。

前述の投書欄の中で、ガーナー氏は後遺症に悩む患者が医師や雇用先、家族にすら症状を理解されず、精神的に追い詰められている状況を訴えた。コロナの後遺症は、倦怠感やブレインフォグだけでなく、味覚・嗅覚障害や動悸(どうき)など、外からはわかりにくい症状が多いのが特徴だ。度重なる流行の拡大で感染者数が増大するなか、後遺症に悩む患者が十分なケアとサポートを受けられる体制を整えることの重要性が高まっている。

(日経サイエンス編集部 出村政彬)

詳細は4月24日発売の日経サイエンス6月号に掲載

  • 発行 : 日経サイエンス
  • 価格 : 1,466円(税込み)

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