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新型コロナの今後のシナリオ WHO進藤奈邦子氏に聞く

日経サイエンス

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新型コロナウイルス感染症のワクチン接種が進む一方で、感染力の強い変異ウイルスが世界的に広がっている。今後、パンデミック(世界的流行)はどうなっていくのか。世界保健機関(WHO)で数々の感染症の対応に携わり、2021年10月27〜28日の第8回日経・FT感染症会議に参加する進藤奈邦子シニアアドバイザーに聞いた(インタビューは7月4日)。

進藤奈邦子(しんどう・なほこ) WHO ヘルスエマージェンシープログラム・シニアアドバイザー  東京慈恵会医科大学卒。国立感染症研究所感染症情報センター主任研究官を経て2005年からWHOでパンデミック情報の収集・解析と対応を担う。15年に上級管理職である調整官に就任。18年より現職。

──デルタ株は今後、どのようにパンデミックに影響を与えるでしょうか。

「変異株と感染拡大はニワトリと卵の関係だ。制御不能な感染爆発が起こった場所で変異株が出現し、そのためにさらに事態収拾が困難になる。ワクチン接種により免疫を獲得した人が増えると、ウイルスはその免疫を免れようと変異する。今後も変異株は出てくるだろう。現在、アフリカや東地中海、南米などで感染者が再び増加しているが、主なウイルス株はそれぞれ異なる。デルタ株が優位になるかどうかは未知数で、ウイルス変異のバリエーションと方向を見極める必要がある」

──ワクチンによってパンデミックを終息させることは可能でしょうか。

「20年末から急ピッチでワクチンを接種したイスラエルでも現在デルタ株による感染が拡大し、接種を受けた人が感染する例も報告されている。一方で今年初めに感染者が急増したインドではワクチン接種と並行して感染防止策を進め、個人の行動も変化して、感染者数が下向きに転じた。接種が進んでもすぐに対策を緩めず、状況を見ながら徐々に緩和すべきだ」

──変異株への対策として何をすべきですか。

「一番重要なのは重症化を抑えることだ。日本で使用されているワクチンは今のところ変異株に対しても重症化を抑える効果があり、これが効きにくい変異株が出てこないうちに接種を進めることが重要だ。また今後は定点観測(特定の医療機関での患者数の変化を追跡すること)により子どもたちの間の流行状況を調べる必要がある。子どもの多くは軽症か無症候でクラスターが発生しても見つかりにくい。もし学校に変異株が入り込み感染が増幅されると社会全体に広がる恐れがある」

──パンデミックはこの後、どのような経緯をたどるでしょうか。

「3つのシナリオが考えられる。第一はパンデミックがエンデミック(感染症が一定の地域で一定規模の流行を繰り返すこと)に移行するシナリオだ。ウイルスが次第に弱毒化し、所々で重大な健康被害を起こすものの、全体では季節性インフルエンザと同じようなかぜウイルスになっていく」

──新型コロナは発症前の感染者からも他人に感染するため、弱毒化しにくいのでは。

「その場合は、いわゆるモグラたたきになる可能性がある。ウイルスを一度(ワクチンで)たたいても次の変異株が出てきて、健康被害を起こし続ける。これが第二のシナリオだ。この場合、一定期間ごとに新たなワクチンを作って接種していく必要がある」

「第三のシナリオとして新型コロナに別の感染症のアウトブレイク(流行が勃発すること)が重なる可能性がある。WHOには新興感染症の可能性がある報告が年に200件ほど寄せられ、5年に1度くらいの割でどれかが感染拡大する。過去20年間にSARS(重症急性呼吸器症候群、02年)、鳥インフルエンザ(03年以降)、パンデミックインフルエンザ(09年)、MERS(中東呼吸器症候群、12年)、エボラウイルス病(14年)、ジカ熱(15年)のアウトブレイクが起きた。感染症ではなく異常気象が重なることもありうる」

──これまでのアウトブレイクと今回で異なる点は何ですか。

「インフォデミック(デマなどを含む情報の氾濫)への対応だ。多くの国で政治家などリーダーが信用されず、人々はそれぞれの方法で情報を得ようとした。そうした中では単純でわかりやすいメッセージよりも、よくわからない恐ろしげなメッセージの方が浸透することがある。我々は主なソーシャルメディアを注視して皆がどんな情報を探しているかを調べ、デマが流れそうなときはカウンターとなる情報を出した。そうした対応に労力を割かれ、ウイルスと疫学の情報を分析し施策に落とし込むという本来の業務が滞ったのは否めない。同じことはWHOだけでなく、多くの国で起きていたと思う」

「21世紀に入って都市間の往来、人と人とのつながり、行きかう情報量、気候変動の影響など何もかもが一気に拡大した。ニューヨークとロンドンを行き来する人は、ロンドンと英国の田舎町を往復する人より多い。かつては地域の保健衛生の問題だった感染症も、今では即座に世界規模の問題になる。だがその認識が十分に浸透しているとは言い難い」

(聞き手は日経サイエンス編集部 古田彩)

インタビューの完全版は7月26日発売の日経サイエンス9月号に掲載

  • 発行 : 日経サイエンス
  • 価格 : 1,466円(税込み)

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