/

免疫が私を攻撃する 22人に1人がかかる自己免疫疾患

日経サイエンス

日経サイエンス

新型コロナの流行以後、免疫という言葉はおなじみになった。免疫は私たちの体をウイルスや細菌から守る頼もしいシステムだ。しかし、優秀な免疫システムは時として自分自身に牙をむく。自分を守るはずの免疫が自分の健康な細胞を攻撃すると様々な病気が起こる。この病気は「自己免疫疾患」と総称され、世界人口の4.5%、つまり 22人に1人がかかっている。

オーストラリア国立大学ジョン・カーティン医学研究院で個別化免疫学センターの所長を務めるクック(Matthew C. Cook)とその同僚であるヘイター(Scott M. Hayter)は2012年、自己免疫疾患に該当する病気は約80種類に上ると報告した。米サイエンティフィック・アメリカン編集部はこの論文をもとに、免疫の専門家や米国自己免疫疾患協会の情報に基づいて、個々の自己免疫疾患について、発症頻度や発症年齢などを整理した。患者が1万人に1人以上いる、比較的多い病気は33種類あった。

このデータから、自己免疫疾患の特徴が見えてくる。まず、女性患者が非常に多い。甲状腺ホルモンが不足する橋本病や、涙や唾液を作る器官で炎症が起こるシェーグレン症候群では特に女性比率が高く、自己免疫疾患全体でも患者の78%を女性が占める。発症する場所も実に多様だ。脳や神経、皮膚、胃腸、血液、筋肉、骨など、免疫の反逆は体のあらゆる場所に影響する。発症の時期を見ても、免疫が発達する幼少期から、その機能が弱まる高齢期まで、あらゆるタイミングで発症する。

外来の病原体から身を守るために進化した免疫が、本人に害をなすのは不可解だ。だが近年、免疫が単純な警備システムではないことが明らかになってきた。体内には免疫のアクセルを踏む物質とブレーキを踏む物質があり、両者のバランスが保たれていなければ暴走や機能不全に陥る。

また、多くの免疫細胞は自分の細胞を攻撃しないよう学習しているが、自分の細胞が病原体の感染などで死にかけた時にはこれを除去する能力も備えている。正常な免疫は絶妙なバランスの上に成り立っており、これが崩れた時に自己免疫疾患が起こる。

免疫の複雑な実態が明らかになれば、その分新たな治療法の研究が進む。がん治療の先端技術である「CAR-T療法」を用い、巨大な免疫システムの中でバランスの崩れた箇所をピンポイントで治す試みも始まった。女性に患者が多い理由を探る研究も進んでいる。

しかしこれらは最近始まった動きだ。過去数十年、がんなどの他の疾患に研究資源が振り向けられる一方で、自己免疫疾患は研究の進まない「顧みられない病気」とされてきた。その点、新型コロナの流行で免疫に大きな注目が集まるようになった今は絶好の機会といえる。感染症の流行下で加速する免疫学の研究は、将来の自己免疫疾患の治療法や、治療の道筋を示す新たな知見につながるはずだ。

(詳細は1月25日発売の日経サイエンス2022年3月号に掲載)

  • 発行 : 日経サイエンス
  • 価格 : 1,466円(税込み)

この書籍を購入する(ヘルプ): Amazon

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

日経サイエンス

日本経済新聞電子版で「日経サイエンス」掲載記事のダイジェストをお読みいただけます。

関連トピック

トピックをフォローすると、新着情報のチェックやまとめ読みがしやすくなります。

セレクション

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン
図表を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した図表はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン