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4500億円のデカフェ市場狙え 東京に新コーヒー店

日経ビジネス電子版
カフェインを除いた「デカフェ」。健康への配慮などから日本国内でも関心が高まっているものの、気軽に味わえる店は少ない。東京・日本橋に10月17日誕生したコーヒー店では、客がコーヒーのカフェイン量を選べるという特徴を持つ。一体どのような狙いがあるのか。

オフィスビルが立ち並ぶ東京・日本橋エリアの一角に17日、コーヒー店「CHOOZE COFFEE(チューズコーヒー)」がオープンした。一見、コーヒー店には見えない洗練されたデザインのほか、薄い赤、青緑、青の3色に彩られたカップが目を引く。

最大の特徴は、客自身がコーヒーに含まれるカフェインの量を選べることだ。カフェイン量がそのままの「レギュラー」、カフェインレスの「デカフェ」、その2つを混ぜ合わせた「ハーフ&ハーフ」の3種類あり、その時々の気分や好みに応じてチョイスを変えられる。

豆の産地は週替わりで、初週はルワンダやタイなどの豆が店頭に並んだ。コーヒーの価格はすぐに提供する「クイックカップ」のラージサイズで430円、一杯ずつその場で淹(い)れる「ハンドドリップ」はラージで620円などと、べらぼうに高いわけではない。

「おいしいデカフェ」を目指しているのも売りの一つだ。従来のデカフェコーヒーには「体には優しいけどおいしくない」というイメージが定着していたが、これにはコーヒー豆からカフェインを除去する方法が関係している。

カフェインを取り除くのに、一般的には有機溶媒を用いる方法や、高温の水を活用する方法が採用されてきた。まとまった量のコーヒー豆を「デカフェ」にするのに、コストを抑えられるなどのメリットがある一方で、カフェインとともに糖質や脂質といったコーヒーのおいしさを生み出す成分も流れ出てしまうデメリットがあった。加えて、有機溶媒には健康面への影響が懸念され、日本では流通が禁止されているというのも欠点だった。

CHOOZE COFFEEで用いるのは「超臨界二酸化炭素抽出法」と呼ぶ方法。二酸化炭素に適度な温度や圧力を加えると気体と液体の中間に当たる超臨界流体という状態になる。この状態になった二酸化炭素で抽出することで、糖質や脂質などの流出を抑えながらカフェインを取り除けるという。同店を運営する東北大学発のスタートアップ、ストーリーライン(東京・世田谷)と同大学が共同で同方法の技術改良を進めている。

あえてビジネス街で「デカフェ」

ストーリーラインは同店を実証店舗と位置づける。購入されたコーヒーの種類や時間帯、性別や年代といったデータを蓄積し、消費行動や「デカフェ」へのニーズなどを探る。おおむね1年程度は実証期間に充てる考えだという。

従来、デカフェコーヒーの消費者層は妊婦のほか、夜間でもコーヒーを飲みたい人といったようにある程度限られてきた。ビジネス街である日本橋エリアに出店したのは、カフェイン入りのコーヒーを好みがちなビジネスパーソンの消費行動を調べたり、カフェインを摂取することに対する意識を高めてもらったりする狙いがある。

全日本コーヒー協会(東京・中央)によると、2018年1月時点で日本国内のコーヒー市場規模は約2兆9000億円。このうちデカフェコーヒーが占める割合は1割にも満たないとされる。ただ、ストーリーラインの岩井順子最高経営責任者(CEO)は「デカフェに対する消費者の潜在ニーズはもっと高い」とみている。

同社は出店に際し、今回提供している3種類のコーヒーでテストマーケティングを実施。22年5~8月の4カ月間で、「デカフェ」を選んだ人は約3割に上ったという。日本橋の店舗でより細かなデカフェへのニーズを探った上で「国内外へ戦略的に進出していくための足がかりにしたい」(岩井氏)考えだ。

その将来計画の一つが、ルワンダにおけるデカフェのコーヒー豆量産だ。質の高いコーヒー豆を生産しても「現地の生産者ではなく中間事業者が利益を得ているのが現状。質に見合った利益をルワンダの生産者が享受できる商流をつくりたい」(岩井氏)との思いを秘める。

ストーリーラインが用いる超臨界によるデカフェ技術はコストがかさんでしまうのが難点。岩井氏は「現状の価格設定だと、メニューによっては損益がギリギリなものもある」と明かす。それでもルワンダでの大量生産が開始できれば、価格を変えずに国内外へデカフェコーヒーを提供できるとみている。

アルコールやニコチンと同様、徐々に摂取の仕方が見直されつつあるカフェイン。調査企業のグローバルインフォメーションによれば、デカフェ市場は28年に世界で約30億米ドル(日本円で約4500億円)に達する見通し。「CHOOZE COFFEE」の挑戦は、欧米の事業者が中心だった分野にどこまで日本のプレーヤーが入り込めるかを占う試金石になるかもしれない。

(日経ビジネス 生田弦己)

[日経ビジネス電子版 2022年10月19日の記事を再構成]

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