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三菱UFJ国際、資産運用首位奪取の立役者は? 横川社長

日経ビジネス電子版

資産運用業界が歴史的な転換期にある。2022年10月には三菱UFJ国際投信が公募株式投信の預かり資産残高で10兆7000億円となり、2015年7月の発足後初めて首位に浮上した。積み立て投資や若い世代の流入が進んできたことが一因だ。同社の横川直社長に今後の戦略について聞いた。

◇    ◇    ◇

三菱UFJ国際投信社長 横川直氏
よこかわ・すなお 1986年三菱信託銀行入社。2006年三菱UFJ投信の運用企画部長に。三菱UFJ信託銀行の人事部長などを経て14年に三菱UFJフィナンシャル・グループ執行役員。21年に三菱UFJ国際投信の社長に就任。(写真:北山宏一、以下同)

――上場投資信託(ETF)を除く公募株式投信の預かり資産残高で22年10月末に10兆7000億円と、長らく首位だった野村アセットマネジメント(10兆5900億円)を上回りました。何が起きているのですか。

「資金の流出入だけでなく保有資産の時価評価によっても変動するので、まだまだ野村アセットマネジメントさんとの首位争いは続いています。弊社の方が海外株のウエートが高いので、海外株が下がることになれば、また弊社の残高が下がってしまうでしょう」

「とはいえ、野村アセットマネジメントさんと並ぶところまで来たのは感慨深い。弊社がどうこうというより、投信市場が変わってきたことの1つの象徴なのでしょう」

「いわゆる公募株式投信(除くETF)は長らく(全体の保有残高が)60兆~70兆円で推移していました。昔から投信を買っていただいている方は、一定程度もうかると利益確定売りして、もう1回買い戻すという方が多い。つまり相場が上がると(利益確定売りによる)流出が増える、という構造でした。それが21年6月に残高が80兆円を超え、今は85兆円ぐらいの水準です。積み立て投資や(投資家が金融機関に運用を任せる)ラップ口座の活用など、長い目線で投資する動きが本格化してきたためと分析しています」

「つみたてNISA(少額投資非課税制度)の利用も22年の6月末で600万口座を超えました。特に30代以下の若年層が半分ぐらいを占めます。(こうした層は)コストにすごく敏感で、分かりやすいものに投資したいという理由から、弊社の『eMAXIS Slim(イーマクシススリム)』シリーズなどに投資いただいているようです。こうした層が増えてきました」「あと、いわゆる『老後資金2000万円問題』で、資産運用に対する注目が集まったことも大きかった。新型コロナウイルス禍で(資産運用について)考える時間が増えたことや、この間に相場全体が上がっていったことも背景にはあります。YouTube(ユーチューブ)とかブログとか、口コミベースの投資に関する情報が増えたこともあります。『貯蓄から資産形成』ということが30年ずっと言われ続けてきて、ようやく動き始めたかなという感じです」

――eMAXISシリーズを最初に打ち出されたとき、「そんな低コストを掲げて大丈夫なのか」という印象もありました。どういうそろばん勘定なのでしょう。

「運用開始は14年前です。当時、私は運用企画部を担当していて、正直なところ『本当にやるの?』と思っていた立場でした。一番大きな懸念は既存商品とのカニバリゼーション(共食い)。コスト面は、実はそれほど気になりませんでした。というのは、もともと規模の大きなマザーファンドがあって、運用を共用できるため、いわゆるコストだけ考えれば、すぐに赤字になる話ではありませんでした」

「当時の社長が、『日本の個人つまり今投資してない人が(投資をするように)変わっていくとすると、絶対に(指数連動の)パッシブ運用を求めるはず。そこをやっておかないのは駄目だ』ということで、つくったのです」

「とはいえ、設定後しばらくは鳴かず飛ばずの低空飛行でした。そこでNISAが始まって積み立て投資に注目が集まるようになったときに、私の前任の社長が『積み立ての三菱UFJ国際投信にするんだ』という方針を出したのです。もともと設定したときの趣旨に沿うし、新しく投資を始められる方に使いやすいもの、安心できるものを、これでやっていくんだと、社内で号令がかかりました。こうした社内の動きと、主にネット証券などを通じた個人投資家への広がりが組み合わさったのです」

「コスト面で、重要なのは表面上の信託報酬だけではありません。投信には、その他にも多様なコストがあります。例えばインデックス(指数)にきちんと追随できるかという、『トラッキングエラー』をいかに小さくするかといった運用面での質も含めたコストについて、業界最低水準をやろうと宣言しているのです」

「ツイッターとかブログとかで、『あそこが信託報酬を下げた。なんで三菱UFJ国際投信は追随しないのか、最近はずいぶんおとなしくなっちゃったね』といった意見が出ますが、弊社としては信託報酬だけではなく様々なコストを含んだファンド全体を見て考えています。コストパフォーマンスという言い方がいいかもしれません」

――ブローカー(売買取り次ぎ)の世界では売買取引手数料の引き下げ競争が続いています。運用会社でもそうなりませんか。

「量(残高)を積み上げることができればなんとかなる、という面はあります。限界コストと絶対コスト、全体の運営経費、マザーファンドも含めてどう運営できるか、というところです。リスクがないということはありませんが、今後も投資家の裾野拡大に努め残高を拡大していくことで対応できるとみています」

――他の運用会社との違いは。

「会社の戦略として、いわゆる個人向けの、積み立て用のインデックス投信にどれだけウエートを置くかという、違いだと思います。そもそもeMAXISシリーズを始めたとき、インデックスファンドのシリーズは他社が先行しており、弊社は後発でした。差が出たのは、マーケティング的に投資家に響いた部分があるからだと思います」

「例えばeMAXISで十数年前からやっているのは、ブロガーミーティングです。投資信託は販売会社を通じた間接営業で販売し、コミュニケーションも販売会社経由が通常ですが、eMAXISでは投資家さんとダイレクトにコミュニケーションすることを、設定した当時からやっています。直接的に訴えてファンになっていただくのです。厳しい意見をいただくこともありますが、その方たちがブログやユーチューブなどで発信することで、多くの方に『こういう商品があるんだな』と認識していただく。そういうSNS(交流サイト)時代の流れに乗れて、評価されている部分があると思います。特に若い方は、いわゆる広告よりは口コミを重視する傾向がありますから。佐藤尚之氏の著書『ファンベース』を読んでいる社員も多いですよ」

――データ的には、SNSに反応して売れたというが分かるのですか。

「弊社では顧客の個人情報は入手できないため分かりません。分かるのは、どの販売会社さんでファンドが売れているかだけです。SNSでの書かれ方は当然モニタリングしていますが、売れ行きとの関係がダイレクトに分かっているとは言えません」

「だからこそ、ファンミーティングというのをやっています。その中ではいわゆる『工場見学』と称して、ファンドマネジャー、投信計理担当者、リスク管理担当者などのインタビューをして、動画で見てもらいます。そしてインタビューに出てもらった社員に、ファンミーティングに来てもらって対談してもらう、といったことをやっています」

――今後の競争軸として、どういうところに力を入れていきますか?

「結局、地道にやってくしかないと思います。まずは運用の質として、どれだけ低コストでご提供できるかを磨き続けるしかないです。そしてその情報の開示です。どうやってご理解いただけるか。ダイレクトなコミュニケーションも引き続きやっていきたい」

「もう1つはいわゆる金融教育など、まず知ってもらう活動です。これだけNISAが広がりましたが、それでもまだ投資を始めていない方はいます。22年12月の上旬にはテレビCMを放映しました。少しでも興味を持っていただく部分をしっかりやっていきたいです」

「あともう1つは、(銘柄選択をファンドマネジャーが手掛ける)アクティブ投信においても、インデックス投信と同じようにファンになっていただくような動きができないかも考えています。特に自社で運用するアクティブ投信だと、投資先の特に日本企業に対してエンゲージメント(対話)活動をし改善を試みます。投資先企業のパフォーマンスを上げることに積極的に取り組んでいきます。ちょっと話が大きすぎるかもしれませんが、投資家へのサービスと、投資先に対する働きかけのセットで、(前者によって)老後が少し楽になって、(後者によって)日本経済も良くなるかもしれない。そういうようなことをやってきたい」

――アクティブ投信でも口コミで広がるようなものをつくりたいと。

「そうです。日本株で20年30年やっているファンド(投信)でパフォーマンスがいいものがあります。でも現状では残高が100億あるかないかぐらいでインデックスファンドと比較すると小さい。私自身もほったらかし投資をするのであれば、世界経済の成長を取り込むという意味で世界経済全体の指数に投資する方が安定感は多分あります」

「ただ、その次に、やはり日本企業を応援したいとか、日本経済のために何かやってみたいとかいう思いのときには日本株ファンドが候補になると思います。そのときに備えたファンづくりをしていきたい。ファンドは既にあります。長く持って、いいパフォーマンスを上げるファンドをどうアピールして、どうご理解していただけるかが課題です」

――独立系運用会社では担当者の顔が見えるようなものもありますね。

「ある種、アクティブファンド(投信)の理想です。弊社は総合型の運用会社なので、会社全体としては特定のファンドだけを言いづらい面もありますが『このファンドに関してはこのファンドマネジャーが率いるチームが運用しています』というのをやりたい。会社というブランドよりもファンド名でファンになってもらえばいい、という感じです」

「実際に、『パフォーマンスがいいのは分かる。理解してもらい、ファンになってもらうにはどう訴えていけばいいと思うか』などの課題を社内に投げて議論中です」

「22年11月には、英ベイリー・ギフォードという外部の運用会社に委託しているファンド(投信)で、個人投資家向けにファンミーティングを開きました。オンラインで海外の担当者を招いて、投資家に直接話を聞いてもらう機会をつくりました。eMAXISで培ったマーケティング手法を、アクティブファンドでも応用していきます。こういったことを、自社運用の日本株ファンドでもやっていきたい」

――かつては、独立系運用会社は同じファンドマネジャーがずっと運用するが、総合系は人事ローテーションがあるから運用スタイルが安定しないという指摘もありました。

「基本的に、あるファンドでパフォーマンスを上げていれば、同じファンドマネジャーに運用を継続してもらっています。機関投資家向けでは一般的です。逆に機関投資家やアセットオーナーから『代わらないですよね』と確認されるわけです。当然、永遠に運用できるわけではありませんから、サクセッションプラン(後継者計画)を含めて示しながらやっていくわけです。昔は、運用で成績を上げているのに全然関係ない部署に異動する、といったことがあったのは事実ですが、今はそうではありません。もっと外に見える形でやっていく必要があるなと思っています」

――先ほどのファンド運営の質について、例えばどういう例を挙げるといいでしょう。

「指数連動型で言えばトラッキングエラーを抑えられるかどうか。トレーディングのコストをどう下げるか、銘柄入れ替えをするときにどう動くか。発注のやり方を工夫するなどです。ファンドマネジャーの発想に加えて、トレーディング部という実際にマーケットに発注する部署が『このマーケット状況ならこういうやり方で注文を出した方がいい』とか、『足元ブレが大きいので注意した方がいい。ちょっと待ちましょう』とか、地道な積み重ねで0.1ベーシス(0.001%)を稼いでいるのです。インデックスの運用は本当に緻密です」

――素人的には、指数構成銘柄をバスケット(セット)で買うだけだからコストはかかるはずがないと思いますが、現実にはバスケットで買えないことが起きるわけですよね。

「ですから、ブローカーの選び方から始まって、どういうふうに注文を出していくかで違ってきます。それもあって『工場見学』をやっているのです。例えば個人投資家からは『インデックス運用するならETFを買えばいいのでは』という声もいただくのですが、『いや、そうではないのです』という話をさせていただきます」

「一方でアクティブ投信は、パフォーマンスがそのファンドのコンセプトに合っているかが大事です。例えば株でいうと、バリュー型がパフォーマンスを出しやすいマーケット状況と出しにくい状況があります。出しにくいはずのマーケット状況でパフォーマンスが良かったりすると逆に評価は下がります。パフォーマンスが良かったとしても。『それは正しいやり方ではない』という評価になるわけです」

「本当はアクティブ投信の良しあしを見るには、例えば景気の山から次の山までといった、経済の1サイクルのパフォーマンスで見ないと、その運用手法が本当に良かったのか、ファンドマネジャーがきちんと運用しているのかどうか判断できないと思っています。そうすると評価が10年単位になってしまってなかなか難しいですが。少なくとも1年ではなくて3年、3年ではなくて5年で見ましょうという形でやっています。局面ごとに見て、きちんと成績を出すべきときに出しているか。苦戦すべきときにきちんと苦戦しているか、という点で評価したいと思っています。例えば実際に、5年単位で見てパフォーマンスが悪いファンドに関しては、局面ごとにどう対応したのかという検証をやっています。全部のファンドで局面ごとに評価するのは、まだこれからですが、発想としてはそういうことですね」

――日銀による金融政策の修正がありました。今後、どんな変化が起きて何に注意すべきだとみていますか。

「正直言って分かりません。タイミングがサプライズでした。(日銀が修正するのは)23年の春以降だろうと思っていましたから。ただ、もう起こってしまったので、不透明要因は1つ減ったかなと。23年は、インフレはある程度落ち着くという前提のもとで、米国を中心とした景気減速の度合い/長さ/時期がいつになるかというところです。そこをどう見極めるか」

「もう少し長いタームで言うと、金利が21年までほとんどない世界だったのが、今では米国10年なら3~4%はある世界になりました」

「ほったらかし投資であれば基本的に株式ファンドに長期投資するというスタイルは変わりませんが、もう少しすれば、5年ぐらいのインカム(利子収入)を固めたいという投資家にとって良い環境に戻る可能性があるでしょう。積み立てで今から資産形成する人というだけでなく、『ある程度まとまった資産があってどうしようか』という人にとっては、良い環境に入ってくるはずです」

「日本の金利も同じだと思います。今回、日銀は長期の変動幅を少し広げましたが、根元のマイナス金利をどこでどう変えるのか。景気がもしも本当に後退するのであれば、(マイナスから)ゼロにするのはやりにくくなると思いますから、時間がかかるでしょう。ただ、もし長期金利の上昇が0.5%で止まらず、もっと上がりそうになり、円建て社債なら一定の金利が出そうだといった場面で、どう商品をご提供していくか。30年40年ではなく、10年ぐらいの期間の運用にとって、選択肢が増える時期になるでしょう」

「若い方は、もし23年に相場の調整があっても、淡々と積み立て投資を続けるのがいいでしょう」

――NISAは24年に制度改革することが決まりました。(編集部注:22年12月、NISAの恒久化や利用枠の拡大が決まった)

「(従来の年間120万円から240万円に倍増する)NISAの成長投資枠については、既にある程度資産を持っていらっしゃる方にとっても使いやすい制度になる可能性があります。50歳以上の方が使いやすくなり、利用する世代が広がるかな、と。業界側が対応を進める時期がきたという認識です。文句はつけられません」

――生涯枠が設けられたことについて、一部には異論もあるようですが。

「個人的には、まず投資枠を使い切る人がどれだけ出るか。もうみんな使い切ってしまった、となったときに、その人たちの所得とかを見た上で制度変更することも状況によってはあり得るのでしょう。未来永劫(えいごう)このままだとは思っていません」

「現行のつみたてNISAの年間40万円だって、使い切っている方は少ない。残高や口座数から単純計算すると、月1万5000~1万6000円くらい、年間20万円程度です。年を経るにつれて膨らましていけばいいのです」

「例えば40年間かけて1800万円の枠を使う方がいていいし、3000万円ぐらい退職金をもらった方がいれば、それを5年間(60カ月)×360万円で分散して使ってもいいでしょう。選択肢が増えると思います。私たちとしては、いろんな使い方に合わせて、23年の1年間かけてどう商品を提案できるかというところです」

(日経ビジネス 三田敬大)

[日経ビジネス電子版 2023年1月19日の記事を再構成]

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