日立と富士通、ジョブ型が女性活躍推進 もう諦めない
なぜ、育児か仕事かの二者択一にならざるを得ないのだろう――。出産後に男性と同じように働けず、昇進・昇給が遠のく「マミートラック」を選ぶ女性は多い。だが、一人ひとりが主体的にキャリアを形成していくことが前提の「ジョブ型」なら、育児を機に働き方を変えても結果を出し続けることが可能になる。結果ではなく、残業の多さで部下を評価することもやめよう。「情実人事」を排して実力主義に徹すれば、おのずと女性は輝く。
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メンバーシップ型からジョブ型へ──。日々の働きやすさに加え、求められる仕事と成果を明確化することで結果的に女性が働きやすくなる事例が増えている。
ジョブ型では社員一人ひとりが主体的にキャリアを形成していくことが前提とされる。10年以上にわたってジョブ型の人材マネジメントを進めてきたのが、日立製作所だ。
きっかけは生き残りへの危機感だ。リーマン・ショック時の2008年度決算で、当時としては国内製造業で戦後最大となる7873億円の最終赤字を計上。男性中心の同質的な組織を改め、性別も国籍も関係なく、様々な経験や視点を持ち寄る経営への転換を決めた。
ジョブ型が女性活躍を推進
12年度に人材情報をデータベース化し、20年度には職務ごとに必要なスキルや遂行すべき仕事、期待される役割などを明確化した標準的な職務記述書(ジョブディスクリプション、JD)を職種・階層別に450種類にわたって整備した。さらに翌年度には管理職向け、22年7月以降は一般社員向けに、より詳細なポジション別のJDの導入を進めた。現在約6万ポジションに詳細なJDが導入されている。これを24年度には16万程度にまで拡大し、国内のグループ120社に導入する計画。JDは社内で公開されており、21年10月には各部署が求める人材(ジョブ)を社内外に公募する仕組みが導入された。

同社グローバルダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン本部の相馬知子部長代理は「ジョブ型の人材マネジメントは女性活躍の強力な推進力になる」と強調する。
職務が限定されない従来の総合職などメンバーシップ型では、長時間働ける男性社員が登用されやすい傾向があった。育児などで働く時間が限られている女性社員と、残業をいとわず夜遅くまで働き「頑張っているように見える」男性社員がいれば、同じ成果を出していても「どうしても後者に報いようという力学が働いてしまう」(相馬部長代理)。人材の登用基準を明確にしたジョブ型なら、「情実」が入り込む余地は少なくなる。
同社の松本明希子主任は昨年、約20年在籍した営業部門からグローバルダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン本部に籍を移した。「育児と仕事の両立を支援する制度は整っている。そこにジョブ型が加われば女性活躍の両輪がそろう。次の世代のためにも今ここで課題を解決したい」と意気込む。
富士通では昨年9月、「入社2年目の課長」が誕生した。顧客のUX(ユーザー体験)のデザインなどを手掛ける富士通デザインセンターに所属する横田奈々さんだ。任期は1年だが「今やらなければ後悔する」と課長と同等のポスト「デザインアドボケート」に応募し、認められた。

消費ニーズを分析して商品のコンセプトに落とし込んだり、ウェブ画面をデザインしたりといった大学時代の経験を生かし、社外とのコミュニケーションをけん引。直近ではインターン生向けのノベルティーグッズを提案するなど若手ならではの視点を生かす。
横田さんは、同社が20年度に始めた社内公募制度「ポスティング制度」を通じて同ポストに応募した。他にも例えば「スーパー業界のシステムを担当するリーダークラスの営業」などの随時募集がある。21年度は国内グループ会社の約6万人を対象に4100余りの募集ポジションがあり、6765人が応募。最終的に2113人が合格した。社内公募する企業は多いが、これだけ大規模にやっているケースは珍しいという。
さよなら「マミートラック」
「公募なら、たとえ女性で上司の推薦を受けていなかったとしても手を挙げやすい。年齢も関係ない。男性で、50代半ばで役職を外れたがこの制度でもう一度マネジャーに登用された例があった。ダイバーシティー&インクルージョン(D&I、多様性と包摂性)で効果を発揮しやすい施策」と森川学CHRO室長は話す。
22年度は12月時点でポスティングの応募者の22%が女性で、21年度より2ポイント増えた。
同社では、海外を含めたグローバルポスティングの制度でも、子育てと両立しながら海外ポジションに赴任した例がある。
また、社内副業やプロジェクト単位で入れる募集業務、半年ほど在籍部署を移れる制度など様々な仕組みを用意して社員の就業機会を増やしている。「制度はかなりつくり込んだ。今後はいかに使ってもらうかに注力したい」と森川室長は話す。
育児か仕事かどちらを優先すべきか。こんなジレンマを抱える多くの女性にとって就業の形は多ければ多いほどいい。日本企業ではこれまで、育児を機に働き方を変えたい女性社員と、職場が求めるそれとの間で齟齬(そご)が生じることが多かった。出産前と同じ働き方を続けるのであれば私生活の犠牲を強いられ、かといって働き方を変えれば部署内の補助的な仕事に回される。後者に待っているのは出世コースから外れ、昇進と昇給が遠のく「マミートラック」だ。
現在の職場では働き方が合わない、力を発揮するのが難しいと感じている社員や、新しい可能性を模索する社員が、ジョブ型によってより最適なポジションを見つけやすくなった。マミートラックに乗るのか、従来の働き方を続けるのかといった二者択一ではなく、能力が生かせる場所を自ら選び取る道が開けたのだ。
(日経ビジネス 西岡杏/飯山辰之介)
[日経ビジネス電子版 2023年3月16日の記事を再構成]
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