スタ★アトピッチ近畿ブロックルポ 工場や農業に新技術

スタートアップや家業の高度化を目指す「アトツギ」が事業モデルを競い合う第4回「スタ★アトピッチJapan」の近畿ブロック大会が16日、神戸市内で開かれた。選考を通過した企業は決勝大会に出場する。登壇したのは20社・団体の起業家らで、プレゼンテーションした内容は「ものづくり」に強い地域らしく、製造現場や農業に先端技術を導入する事業が目立った。
スタ★アトピッチは日本経済新聞社が主催し、毎年開催している。近畿ブロック大会は神戸新聞社、京都新聞と共催した。
工場の人手不足に対応
工場の製造ラインに使う外観検査の人工知能(AI)を提供するフツパー(大阪市)はAIソリューション「メキキバイト」を発表した。大西洋・最高経営責任者(CEO)は「製造業の事業所数が多く、密度も高い大阪で、町工場でも使えるサービスを提供している」と強調した。
同社のAIソリューションでは食品などの色や形状で良品と不良品を判別し、異物も検知する。800社以上の現場の声を聞き取り、開発した。大西CEOは「一つの工場では10カ所以上で検品している場合もある。今後の人手不足なども考えればAIの導入は有効だ」と語った。AIやロボットを活用し、人間は人間にしかできない仕事に集中すべきだと呼びかけた。

工場の壁面や窓で発電
エネコートテクノロジーズ(京都府久御山町)は発電効率が高く、薄くて軽い「ペロブスカイト太陽電池」を開発している。工場の壁面や窓などに配置できるのが特徴で、2024年に製造と販売を始めることが目標だ。
共同創業者である加藤尚哉代表取締役は「当社は京都大学発スタートアップで材料開発では、すでに実績がある。パートナーである教授の将来の研究成果を取り込めることが強みだ」と語った。審査員から海外展開に向けた考えを尋ねられると「すでに海外から多くの引き合いが来ている。パートナーを探して海外に羽ばたきたい」と述べた。

野菜を都市で生産し流通
スパイスキューブ(大阪市)は小型の植物工場を手掛け、野菜の「都市生産、都市流通」を掲げている。敷地面積が66平方メートルの病院跡地などに工場を設けた実績を持ち、栽培した野菜は外食企業に販売するビジネスモデルだ。須貝翼社長は起業前に会社員として植物工場を事業化し、採算面で苦戦した経験がある。
その反省を踏まえて小型の植物工場に事業を絞り込み、スパイスキューブを興した。「野菜工場のトレンドである大規模化とは正反対の道を行き、工場の空き施設などに導入していきたい」と話す。
小型コールド設備で物流網
コールドストレージ・ジャパン(神戸市)は小型の冷凍コンテナや保冷ボックスなどを手掛ける。農家などの生産者と消費者が小規模の冷蔵冷凍設備を持ち、直接つながるような「コールドチェーン」の構築を目指している。
トラックなどの輸送手段や倉庫を共有し、社会全体で物流の効率化を目指す動きを「フィジカルインターネット」と呼ぶ。後藤大悟代表取締役は「フィジカルインターネットをコールドの世界でも実現したい」と意気込みを語った。トラック会社や食品メーカー、空き工場の所有企業などとの連携を進めることで、コールドチェーンを拡大していく考えも示した。
「スケールにも意識を」審査員に聞く

予想していたよりも発表のレベルが高かった。「私は審査員の側でいいのか」とまで思うほどだった。すでに資金調達して先行投資している企業も出てきており、以前には見られなかったことだ。
これは経営者がスタートアップとしての成長モデルを理解していることを示す。関西のスタートアップも変わってきたと実感した。
一方で、発表の内容が社会性に特化しているような印象も受けた。もう少しビジネスの話を聞けたら、さらに良かったと思う。
社会的に良いことをしていても、規模が小さければ影響の範囲は限られる。市場性や成長可能性に関する内容があれば、もっと良かった。
一般論だが関西人は商売が上手なために、早期に利益を出すことを優先しているように感じる。当面の利益とともに、スケールも意識してもらえばいいと考えている。
(日経産業新聞副編集長 村松進)
