半導体産業、有望分野は 有力VCの投資先

半導体の生産はすでに台湾積体電路製造(TSMC)をはじめ大手ファウンドリー(受託生産会社)が支配していることから、有力VCはAI向けチップを手掛ける企業や、半導体を製造せずに設計・販売に専念する「ファブレス(工場なし)」企業に投資機会を求めている。
有力VC25社「スマートマネーVC」(CBインサイツが投資先の企業価値や投資成績に基づき選定。この記事の最後に一覧表)は、半導体市場に大きな成長の余地があると見込んでいる。半導体は自動運転車や機械学習などの様々な新興テクノロジーでますます不可欠な存在になっているからだ。
例えば、最新のAIチップは一定のAI関連の計算では代表的なCPU(中央演算処理装置)よりも処理が大幅に速く、エネルギー効率も高く、専用チップの潜在的価値を示している。
米国半導体工業会(SIA)によると、2020年の世界の半導体の販売額は前年比6%増の4390億ドルに上った。
CBインサイツのデータを活用し、米ニュー・エンタープライズ・アソシエーツ(NEA)や米ノーウエスト・ベンチャー・パートナーズ、米スパーク・キャピタルなどのスマートマネーVCが半導体のどの分野に資金を投じているかについて調べた。
半導体企業への投資が最も活発なVCは米KPCB
スマートマネーVCは17年以降、半導体企業による資金調達58件に参加している。参加件数が最も多いのは米クライナー・パーキンス・コーフィールド&バイヤーズ(KPCB)の8件だった。2位は米ベッセマー・ベンチャー・パートナーズ(7件)、3位は米バッテリー・ベンチャーズと米サッターヒル・ベンチャーズ(各6件)だった。

KPCBは「フォトニクス」「メモリーチップ」「ASIC(特定用途向け半導体)&AIチップ」など5つの分野に投資している。
同社は「メモリーチップ」に投資したスマートマネーVC唯一のファンドだ。あらゆるモノがネットにつながる「IoT」向けに省電力でコンパクトなメモリーチップを手掛ける米クロスバー(Crossbar)のシリーズDエクステンション(調達額1450万ドル)とシリーズFのフォローオン(2030万ドル)に参加した。
KPCBの半導体投資の大半はシリーズD以降で、米アンビックマイクロ(Ambiq Micro)によるシリーズF(5580万ドル)が、KPCBが参加した半導体関連の最大のラウンドだ。一方、まだ詳細を明らかにしていないASIC企業、米フェムトセンス(Femtosense)のシードラウンド(110万ドル)にも加わった。
2位のベッセマー・ベンチャー・パートナーズは「量子チップ」「通信チップ」など4つの分野の企業に出資している。チップ間通信に特化しているスイスのカンドウ(Kandou)の3回のラウンドや、センサーチップを手掛けるイスラエルのバイアーイメージング(Vayyar Imaging)の2回のラウンドに参加した。
スマートマネーVCのこの分野での活動は活発だが、米クアルコム・ベンチャーズ(17年~21年6月16日の参加件数9件)や米インテル・ベンチャーズ(7件)など業界トップの投資家には及ばない。半導体製造への重要な投資はスタートアップではなく主に米インテルなどの大手上場企業が自社で手掛けており、スマートマネーVCはAIチップや通信チップなど新興分野での投資機会に軸足を置くことになりそうだ。
スマートマネーVCによる投資件数、ASICがトップ
「ASIC&AIチップ」は17年以降のスマートマネーVCによる投資件数全体の26%を占め、「ファブレス」と並んで最も多かった。AI企業への投資が増え続けているのに伴い、半導体市場でのAIチップのシェアも今後さらに高まるだろう。
「ASIC&AIチップ」では、米ベンチマーク・ベンチャーズが17~19年に米セレブラスシステムズ(Cerebras Systems)のシリーズC(6000万ドル)、シリーズD(8800万ドル)、シリーズE(2億7000万ドル)に参加した。セレブラスはディープラーニング(深層学習)専用のAIチップを手掛ける。
ノーウエスト・ベンチャー・パートナーズは19年と21年、ASIC企業の米ワンナブ(oneNAV)のシリーズAとシリーズB(2100万ドル)に参加した。
一方、米アリフ・セミコンダクター(Alif Semiconductor)とイスラエルのハバナラブズ(Habana Labs)はバッテリー・ベンチャーズ、ベッセマー・ベンチャー・パートナーズ、ライトスピード・ベンチャーズなど複数のスマートマネーVCから資金を調達した。
アリフとハバナラブズはエッジコンピューティングやデータセンターなどに搭載されるAI向けチップを開発している。

スマートマネーVC、ファブレスの半導体企業にも注目
「ファブレス」への投資件数も26%でトップに並んだ。この分野の企業は自前でチップを製造せず、汎用半導体のほか、設計CPU(中央演算処理装置)やGPU(画像処理半導体)をひとまとめにした「SoC(システム・オン・チップ)」の設計に専念する傾向にある。
米半導体大手エヌビディアが20年に英半導体設計大手アームを買収したことで、ファブレスのアプローチの正当性が改めて実証された。ファブレス企業はエネルギー管理などの課題を最適化した半導体の開発に専念し、高額な設計ライセンス契約を確保している。
この分野では、オープンソースの半導体設計を手掛けるファブレス企業、米サイファイブ(SiFive)が米サッターヒル・ベンチャーズ、米スパーク・キャピタルから出資を受けた。両VCはサイファイブが17~20年に実施したシリーズB、C、D、Eに参加した。ノーウエスト・ベンチャーズもサイファイブのシリーズAとBに参加した。
一方、エネルギー効率の高い集積回路に特化しているファブレス企業、アンビックマイクロは17~20年、KPCBから3ラウンド連続で資金を調達した。
周囲の電波を使って自家発電するチップを手掛けるイスラエルのウィリオット(Williot)は、エネルギーを有効活用する設計のトレンドを改めて浮き彫りにしている。同社はシリーズAとBでノーウエスト・ベンチャー・パートナーズから資金を調達したほか、クアルコム・ベンチャーズや韓国サムスン電子、米アマゾン・ドット・コムなど産業界のプレーヤーからも出資を受けている。
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